シーズン01 第049話 「バナナマネー」
「バナナがおやつに入るのかみたいなやつ、I have a pen.レベルじゃない?」
「どこの日本語学習テキストにバナナはおやつに入りますかなんて例文が載ってるのよ」
「いやそうじゃなくて、有名なフレーズだけど実社会では使わないよねっていう」
「普通の小学校なら使うのよ」
「入ったから何だというんだ」
「平等性を重んじる一部の公立小学校では生徒間の財力マウンティングが成立しないように遠足等で持ち込める菓子類の価格に厳しい制限がかかってるのよ」
「5000円とか?」
「桁が多いわよ桁が」
「あ、明治時代の話? じゃあ5円?」
「そういうことでも……まあいいわ。で、果物類が菓子類価格制限にひっかかるかどうかが主に上流小学生の間で常に問題になるのだけれど、特に持ち運びが容易なバナナがその筆頭として挙げられるのよね」
「明治時代のバナナは高価だからね」
「うん、やっぱりよくなかったわね。明治時代の話ではありません。現代のお話です」
「じゃあ5000円じゃん」
「いやだから、5000円分のお菓子って何kgよ」
「金なら1gだが?」
「金じゃない!」
「ま、どちらにせよ無事中学生になった私たちにとってはもう一生遭遇しない例文ってことか」
「中学校でも制定されることはあるみたいだけど、うちは小学校の時点でなかったからまあないでしょうね」
「そういえばそうだな」
「あ、でも小学校教諭になればあるわよ」
「なりません」
「でしょうね」
「ね」
「あと、合宿とか遠足があるタイプの塾の講師。こっちは高校生とか大学生になったらやるかもしれないわね」
「あ、それはやってみたいかも」
「……あなたは説明能力的に無理そうね」
「うっ」
「ま、私も人のことは言えないけれどもね」
「まだ高校まで3年あるし!」
「それまでに一般人の金銭感覚を身に付けることね」
「確かに、5000円あればみかんが一箱買えるもんな」
「そうやって物に対する価格基準を持つことが大切よ」
「実質消費者物価指数的な」
「別に実質消費者物価指数を日常の感覚として理解できるなら別にいいのだけれど」
「金1g5000円」
「だから、日常で金なんて使わないでしょうが」
「ん? てことは5000円が1円ってこと?」
「1は5000ではありません」
「これだから不換紙幣時代の人間は……」
「同い年よ!」
「知ってる」
「でしょうね」
「要するに、日常の生活でもっと金を使いましょう、という話です」
「いいえ。やっぱり日常金銭感覚から乖離してるじゃないのよ」
「逆にもうあっちから合わせに来てほしい」
「無茶言うんじゃないわよ」
「うるさい! 私を誰だと思ってるんだ!」
「誰なのよ本当に」
「この文脈では先生という仮定なので先生です」
「先生として持つべき感覚じゃないのよねー」
「いいんじゃない、金本位制で暮らしてる先生。私は好きだよ」
「自分自身だからでしょ」
「もちろん」
「主観に生きすぎてる」
「先生はある程度主観に基づいて判断しなければいけないのです」
「度が過ぎてるのよね」
「なのでバナナはおやつにはいりませんし、持ち込み可能な菓子類の価格は5000兆円までとします」
「そういうところよ!」
日常で無限は5000兆なので
京の速度は実質無限