シーズン01 第045話 「鳥種族」
「ピヨピヨ独占権をヒヨコだけが得られる根拠はどこにもないと思うんだ」
「何の権利よ」
「ピヨピヨ」
「日本語を喋りなさい」
「だから、ピヨピヨの独占権」
「どういう意味よ」
「ヒヨコの鳴き声ってピヨピヨでしょ?」
「そうね」
「そんなことなくない?!?!?」
「何なのよ本当に」
「いや、確かにヒヨコはピヨピヨなんだけど、ピヨピヨはヒヨコじゃないよねって話」
「……やっと理解したわ。ピヨピヨ鳴くといえばヒヨコっていうのがダメって話ね」
「そういうこと!」
「もう少し表現能力を磨きなさいよ」
「幼稚園児としては完璧だったのでセーフ」
「幼児語以外も使えるようになりなさいよね」
「ピヨピヨ」
「まあ表現能力は壊滅的だったけど、言いたいことに関しては一理あると思うわ」
「a thing of real」
「いいえ」
「いいえではなくない?」
「……本当ね」
「もう少し英語力を磨こうね」
「母国語が不自由な人間に言われるほど屈辱的なことはないわね」
「えへへー」
「とにかく、ヒヨコよ」
「ピヨピヨヒヨコ問題!」
「要するに、ヒヨコ以外の鳴き声がピヨピヨな鳥がピヨピヨ権を剥奪されてる事になるのだから、まずは事実上ピヨピヨ鳴いてる鳥を探すことが先決ね」
「はいはーい! スズメ!」
「スズメは……独自表現持ちじゃなかったかしら」
「そうだった」
「チュンチュンね」
「中国語っぽい」
「スズメはもともと中国から輸入された鳥だからね」
「そうなの?」
「知らないわ」
「じゃあツバメ!」
「ツバメはヒナがピヨピヨ権持ちね。成長したツバメの鳴き声ってどんなのだったかしら」
「成長したら鳴き声変わるの?」
「変わるわよ。ヒヨコだって成長したらピヨピヨしないじゃないの」
「そうなの?」
「成長したヒヨコはニワトリよ」
「本当だ! すごい!」
「ということでツバメの成長した鳴き声は?」
「わからん!」
「まあ、そうよね」
「そして、知ってる鳥の名前が尽きた」
「いやいや、流石にもう少しあるでしょう」
「正確に言うと、フクロウとかフラミンゴとかダチョウとかそういうのは思い付くんだけど、ピヨピヨ鳥の名前がでてこない」
「確かに、そういう大型の鳥はピヨピヨしないわね」
「あとウグイスとかオウムとかジュウシマツとか」
「そういわれてみると、名前覚えてる鳥ってだいたい独特な鳴き方をするわよね」
「そもそも実はヒヨコ以外にピヨピヨ鳥はいないということなのではないだろうか」
「いや、そういうことではないのよね。実際に外を歩いてると結構ピヨピヨ聞こえてくるじゃない」
「野生化したヒヨコなのでは」
「街中でヒヨコなんて見ないでしょう」
「路商が売ってる」
「いつの時代の話よ絶対現物見たことないでしょ」
「賢者は経験ではなく知識で語る」
「いや、あなたのは妄想でしょう」
「つまり妄想は知識……?」
「論理誤謬導く前に内容精査しなさいよ」
「まあいずれにしても街中にヒヨコはいません。違った、います」
「完全になにも考えずにしゃべってるわね」
「妄想なので」
「はいはい」
「いやでも、ピヨピヨ鳥がヒヨコ以外にも身近に存在するのに名前がわからないということは、事態はより深刻かもしれない」
「というと?」
「ピヨピヨはヒヨコという認識が蔓延したことでヒヨコ以外のピヨピヨ鳥が全く認識されなくなっているということではないだろうか」
「それは多分ちょっと違うわね」
「違うかな」
「だって、例えば今だって外で結構鳥が鳴いてるのが聞こえるけど、気にしないでしょ?」
「……本当だ。ピヨピヨ祭りだね」
「そのピヨピヨにも結構種類があると思わない?」
「そういわれてみれば」
「つまりね、ピヨピヨっていうのはある種の鳥のデフォルト音声なのよ。で、その中で最も人間の身近にいたヒヨコがピヨピヨの代表になったんだと思うわ」
「うーん、だとしても、ヒヨコが他の鳥の認識を覆い被せてしまってないことにはならなくない?」
「そうじゃないのよ。例えば、さっきスズメはチュンチュンだって言ったけれど、あれも知らなければピヨピヨと言えなくないわよね」
「そうそう。私も最初そう思った」
「でもチュンチュンを思い出したから認識が変わった。つまり、鳥の名前を覚える時に普通は鳴き声をセットで覚えるものなのよ。そこで鳴き声認識がデフォルトから変えられる」
「つまり、いまピヨピヨ言ってる鳥は名前がわかればピヨピヨ言わなくなるので、認識の中には常にヒヨコだけが残るってこと?」
「ええ、そういうことだと思うのよ」
「フラミンゴは?」
「え?」
「フラミンゴは知ってるよね」
「もちろんよ」
「鳴き声は?」
「……コケ……いや違うわね」
「私も知らないけど」
「あー……」
カラス・ハト・スズメはどこでも会えるけど
ヒナの姿は見たことないな