シーズン01 第044話 「チラシの裏」
「インターネット掲示板、全然掲示板じゃないわよね」
「いやいや、インターネットじゃない掲示板が全然掲示板じゃないんだよ」
「そんなわけないでしょう」
「でもさ、最近掲示板なんて見なくない?」
「教室にあるわよ」
「見てない」
「勝手に見てないだけでしょう」
「まあまあ」
「まあまあじゃない」
「とにかく、掲示板が廃れて一世紀以上が経過したわけですが」
「あくまで自分の世界観を押し通すつもりね」
「そうなってくると、インターネット掲示板が本家掲示板であってかつて掲示板と呼ばれていたものはもはや古代掲示板と呼ぶべきなのではないかという推論が成り立つ」
「偽から因果関係を繋げるとどんな推論でも成り立つということの典型例ね」
「つまり、インターネット掲示板が古代掲示板の特徴から逸脱してるとしたら、それは古代掲示板が掲示板の特徴から逸脱するようになってしまったということなのでは!」
「だから、掲示板は今でも普通に使われてるんだってば」
「ぐぬぬ、強情だな」
「あなたがでしょう」
「そもそも、何でインターネット掲示板に掲示板って名前つけたんだろうね。代わりの名前案を上げろって言われると困るところではあるけど」
「一応掲示板の特徴は有してるんじゃないかした。普通の掲示板だっていろんな人がある程度紙を貼ってもいいわけだし。猫を探してますとか」
「ラム肉を探してますとか」
「貴重な肉を探してるんじゃなくて迷子ペット探索の想定です」
「猫は猫、ラム肉はラム肉だよ」
「ラム肉売りますならあるかもしれないわね。スーパーのチラシ掲示板」
「そんな自己顕示欲丸出しの空間がかつて存在したのか」
「CMを自己顕示欲とか言うんじゃないわよ。あとチラシ掲示板も今でも現役です。今度スーパーに買い物行くときに見せてあげるわ」
「いや、いくら自己顕示欲丸出しの人が集まってたとしても人のプライベートを覗き見するのはちょっと」
「だから宣伝だっていってるでしょうが」
「掲示板、要するに宣伝空間だったの? スパムじゃん」
「用途別に色々あるのよ。教室の掲示板は普通に学校からの連絡事項が貼ってあるわよ」
「見たことなし」
「そもそもあなた教室行ってる?」
「ああ、なるほ」
「たまには行きなさいよ」
「たまには行ってるよ」
「とにかく、掲示板にはいろいろあるのよ」
「インターネット掲示板にいろいろあるのと同じか」
「そういうことね」
「でもさ、インターネット掲示板ってスレッドとかいっていろんな人が書き込めるじゃん? あれは何なの。普通の掲示板で言ったら貼られたチラシの下の空白にみんなして落書きしてくような感じじゃん」
「そこが掲示板との一番の違いよね。たぶんなんだけど、最初の頃は現実の掲示板と同じようにいわゆるスレッドを立てるってことしかできなかったのが、コミュニケーション空間としての需要が高まるにつれてレスポンスを返すっていう使い道が生まれたんじゃないかしら。掲示板っていうか伝言板の系譜ね」
「伝言板に関しては名前以外に何なのかが一切わからない」
「よし、この話はやめましょう」
「古代掲示板って管理人だけがお知らせの紙を貼れるんだよね、結局」
「管理人または許可をもらった人、かしら。もちろん管理団体ってパターンもあるわよ」
「ってことはさ、古代掲示板ってむしろブログの方が近いんじゃない?」
「そういわれてみれば確かにそうね。コメントの付きにくさを考えても、掲示とひとことコーナーって感じで対応してる気がするわ」
「つまり、古代掲示板は掲示板じゃなくてブログなわけ」
「また因果律を反転させてきたわね」
「でさ、ブログってウェブログでしょ?」
「それはそうね」
「ってことは、古代掲示板は今となってはログだったんだよ!」
「いや、ログではないでしょ」
「ログではないな」
掲示板、電子はウェブにあるやつで
電光は街……いやもうないか。