シーズン01 第041話 「片仮名ノ用法ニツイテ」
「片仮名のあとに『力』『口』『工』『タ』を直接繋げて書く人間、国籍を放棄してほしい」
「コミュ力、ヒト口腔、サルウィ工業大学」
「あああああああああああ!!!!」
「ま、これに関しては私も全面同意ね。そもそも日本語テキスト自体に存在する脆弱性なような気がしないでもないけど」
「でもわざわざ脆弱性をついた会話をしてくる人間は国外追放じゃない?」
「それはそうね」
「ということで現在存在する表現をすべて灰燼に帰したい」
「そういえばさっきは『夕』の例だけあげなかったけど、あれね、チェレンコフ夕方」
「チェレンコフUFO?」
「おっと、夕方の読みはユーフォーじゃなくてゆうがただったわね」
「市民権剥奪」
「仕方ないじゃないの! たぶん夕はカタカナと連続する運用はされないわよ!」
「ならばよし」
「とはいえど、逆に『力』はよくカタカナ語とくっつきがちなのよね。コミュニケーション能力の略語みたいな口語だけじゃなくて、クーロン力とかローレンツ力とかの物理学の用語に結構出てくるわ」
「物理学、焚書」
「それはダメです」
「でもそういうのを許してるからコミュ力とかいう史上最低のクソ用語が生まれたんじゃないの? 現在の破滅的状況を招いたことに対する一定の責任は物理学にもあるのでは?」
「だからなるべくクーロンもローレンツもアルファベットで書くようにしてるわ。そうすれば混ざることはないもの」
「おお」
「でも、綴りをよく間違えるのよね、両方」
「難しいのか。どう綴るの?」
「よくわからないから雰囲気で書いてるのよね」
「アメリカ市民権剥奪」
「いや、そっちの市民権はもともと持ってないわよ」
「奴隷じゃん」
「奴隷ではありません」
「でもアルファベット表記っていうのは解決法の一つだよね。縦書きだと使えないけど」
「縦書きアルファベット表記は90°回転させるんじゃなかったかしら」
「まあ、方式としてそういうのがあるにはあるんだけど、紙回すの面倒だし」
「あー、それはあるわね」
「あ、でも表記法変えるっていうんだったらハイフンとかイコールとかを間に入れれば間違えなくなるのでは。シモン=ボリバルとかホセ=マルティンとか」
「誰よ」
「南アメリカ人」
「南アメリカ人っていうのもなかなか聞きなれないわね。間違ってないのは分かるのだけれど」
「残念ながら南アメリカは国じゃないからね」
「って、南アメリカ人はどうでもいいのよ。イコールとハイフンだっけ?」
「そうそう。ローレンツ-力とか書けばちゃんと漢字と片仮名を分離できるし、アルファベットと違って縦書きにも対応できる」
「でもコミュ=力もコミュ-力もなんかしっくりこないわね」
「あの用語は別に消えてもいいから」
「納得」
「じゃあいろんな例に実用できるか字面を試してみよう。はい紙とペン」
「手書きで大丈夫なの? 検証するにはフォントが決まってるワープロとかの方がよさそうだけど」
「ほら、手書きならある程度恣意的に結論を捻じ曲げられるから」
「清々しいまでにまともに検証する気がないわね」
「まあまあ。まず、ローレンツ-力とクーロン-力はOKだね。コミュのアレはイコールもハイフンもアウトと」
「コリオリ-力……ファンデルワールス-力……うん、物理学の力はイコールよりもハイフンの方が似合ってるわね」
「あ、ゲシュタルト崩壊したのでもう検証不能です」
「早いわよ!」
「文字言語はゲシュタルト崩壊するのでダメ。音声言語を使うべき」
「頭の固い原始人みたいなこと言いだしたわね」
「でもゲシュタルト崩壊でわからなくなるってことは人間にとって文字はもともと過ぎた文明だったのでは?」
「そんなことないわよ。そもそも聞いた内容だって途中から受け取り方が変わったり雑になったりするじゃないの」
「そう?」
「そうよ。じゃあ試しに、ピザって十回言って」
「それはまた別のあれな気がするけど……まあいいや。ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
「じゃあ、ピザは?」
「ピザ! いや違う……ピザは……ピザとは……わからない、ピザとはいったい…………」
「ね」
「負けたー!」
「勝ったー!」
タカという字を見た日本語の初心者
「ゆうりょく? 午後に眠くなるやつ?」