シーズン01 第026話 「床とは」
「床屋って何で床売ってないんだろう」
「床を売るってどういう状況よ」
「……不動産屋?」
「じゃあ床屋に床が売ってないのは床屋資格に不動産取引の資格が含まれないからじゃないかしら」
「なるほど。では動産としての床だけを考察対象としよう」
「動く床って何よ」
「動く歩道とか、ちょっと変わり種だとエスカレーターとか」
「あってるんだけど間違ってる」
「住めるトラックみたいなやつの中にある床は動産なのか不動産なのか」
「そもそも動産と不動産の区別ってそのもの自体が一般に動いてるかどうかなの?」
「全然」
「おい」
「要するに床板は動産なんだよね」
「議論の前提から間違ってるじゃないの」
「床面積の床は不動産だから」
「ややこしいわね」
「まあ話を戻すと、大理石の床みたいなのを買いたいときに床屋にいっても追い返されるのは納得がいかないって話」
「一般的な感覚からすると床屋に床を買いに行く方が無茶苦茶だからね」
「つまり過半数の人間が『床』か『床屋』のどちらかを漢字で書けない」
「そうじゃないわよ」
「お、日本語世界標準語化推進過激主義者かな?」
「今のは母集団を母国語話者としたときの話でしょ!」
「一つの文章の中で『母』を違う意味でそれぞれ使うのはマナー違反」
「えぇ……」
「というように日本語は非常に難解な言語であるとはいえ」
「今のはあなたが勝手に謎ルールを設定したからでしょ」
「難解さはなるべく減らした方が良い。ということで床屋床不売問題について意見を聞きたい」
「閉会」
「そんな~」
「だいたい床屋を床販売の店としたら本来の床屋はどう呼べば良いのよ」
「散髪屋」
「表現力が不十分」
「床屋の方が言い表せてなくない?」
「デファクトスタンダードは優先されるのよ」
「じゃあ美容院」
「……美容院と床屋って何が違うのかしら」
「資格」
「それはそうだけれど」
「そもそも私がいつも行ってるところが美容院なのか床屋なのかもよくわからんからな」
「看板を見なさい」
「赤と白と青がくるくる回ってるやつ?」
「あれは看筒」
「たしかに筒としてはずっと見てられる優秀な筒だ……。理髪店のくるくるにはこれからも筒業界を牽引していってほしい」
「はいはい」
「……あ!!!」
「何よ急に」
「理髪店!!!!」
「……なるほどね。理髪店が床屋の正式名称よねそういえば」
「よし、後顧の憂いはなくなった。床屋は今すぐ床を売れ!!」
「それは無理」
「ぴええ」
床材を個人で買ってきたとして
どうやって張り替えるつもりだ