シーズン01 第024話 「炊飯の理」
「お米って何で炊くのかしら」
「おいしいから」
「それはそうなんだけどそういう意味じゃなくて」
「美味しくないお米を炊くのは資源の無駄って話?」
「違うわよ」
「あ、なるほど。お米は一般的にお湯で炊きます。あと炊飯器」
「あら、流石にその程度の家事知識は持ち合わせていたのね」
「電気機器なら使えるので」
「電子レンジ使えてなかったじゃない」
「チャレンジ精神!」
「チャレンジする前に説明書ぐらい読みなさい!」
「はい……」
「で、お米は何で炊くかっていうのは要するに言語表現の話よ」
「言語表現?」
「ほら、確かに今は炊飯器で電気的に熱を与えて炊き上げるのが主流だけど、昔は鍋に水を入れて火にかけてたじゃない。そういうのって普通『煮る』っていわないかしら」
「電子レンジで炊くようになってからできた表現なんじゃない?」
「電子レンジでは炊きません」
「間違えた。電気ケトル」
「それは湯沸し器」
「……なんだっけ」
「炊飯器よ!」
「れれ!」
「れれ?」
「それ!」
「まったく……」
「そうそう。つまり炊飯器調理が定着してから新しく炊くって表現が生まれたのであって、それまでは普通に煮るっていってたのではないかと」
「でも『炊く』って漢字で書くと火偏じゃないの」
「でも火が欠けるって書くでしょ? 要するに今までとは違う火を使わない米の調理法、それが『炊く』なわけ」
「ああ、なるほど」
「解決!」
「って待ちなさいよよくよく考えたら炊飯器が実用化されたのなんてほとんど現代じゃないのそんな最近に新しい動詞と漢字がセットで生まれてこんなに権威を持つまでに広がるはずがないでしょうが」
「よくぞ気付かれましたな」
「さては確信犯ね」
「はい誤用」
「確信犯の誤用の確信犯だから別にいいのよ」
「じゃあ仕方ない」
「で、本当は炊飯器と炊くという表現との関係についてどこまで知ってるのよ」
「まったく関係ないということを知っています」
「おい」
「あ、ひとつだけ関係があった」
「本当?」
「炊飯器の炊の字が炊くと同じ漢字」
「そういうことは聞いてないわよ」
「実際のところ、米を煮るって表現する地域もあるんだよね。これは嘘じゃないよ」
「へー、聞いたことなかったわ」
「逆に米以外にも『炊く』って表現をする地域もあるらしい。西の方だったっけな」
「炊くって米専用の動詞だと思ってたわ。あとは雑穀」
「標準語ではそんな感じだと思う。米以外だと穀物が炊くものなのかな」
「粟とか稗とかは炊くような気がするわね。食べたことないけど」
「確かに。食べたことないけど」
「トウモロコシはどうかしら」
「日本ではあんまり穀物扱いじゃないからっていうかトウモロコシを炊飯器で炊いてもおいしくなくない?」
「温めて食べるときは煮るでしょ? あれを炊くって表現するかどうかよ」
「しなさそうだね」
「しなさそうね」
「あと標準語で炊くものといえば、水炊き!」
「鍋ね」
「空焚き!」
「これも鍋ね」
「焚き火!」
「……あれ?」
【えげつない貧困層の鍋料理】
具材が水と水蒸気だけ