シーズン01 第023話 「蚊と茶」
「茶柱って要するに茎よね」
「あれは品質が悪いのをごまかすために言い出したんだってさ」
「先読み会話もほどほどにしないと意味不明になるわよ」
「あ、蚊柱の話だった?」
「それは全く違う」
「蚊柱、確かに蚊玉だよね」
「蚊柱の話はしてません」
「いいじゃんこの際蚊柱で」
「この際って何よ」
「茶も蚊もアルファベット表記すればcaだから」
「caをチャと読むのはさすがに無理がないかしら。あと蚊柱が蚊玉じゃなくて蚊柱なのは本場の蚊柱はちゃんと柱に見えるからよ」
「すごい、儀式っぽい!」
「実際交尾の儀式だからね」
「蚊柱が天空まで登ると巨大なカマキリとかが召喚されそう」
「カマキリは飛べないわよ」
「巨大なカマキリは飛べるから」
「何でよ」
「巨大なので」
「巨大であることに信頼を置きすぎよ」
「大量発生だとバッタっていうかイナゴ? も有名だけど、あれは何を召還する儀式なのかな」
「飢饉」
「そういう夢のないやつじゃなくて」
「じゃあ大飢饉」
「はたして飢饉は大きくなった方が夢があるものなのか」
「夢と希望が無い人間から脱落していくからね。生存者バイアスってやつよ」
「マクロ視点で見ると夢も希望もないタイプの話じゃん」
「そもそもイナゴにそういうのを求めるからおかしな結論が出るのよ」
「じゃあイナゴに何を求めるのが正しいんだ!」
「唐揚げ」
「食べたことあるの?」
「興味だけならあるわ」
「バッタとかカマキリとかそういう感じのは食べられるとして、他にも食べられるタイプの虫っていないのかな。私は食べないけど」
「サイズの問題なんじゃないかしら。どこにでもいる代わりにまとめて捕るには少なかったり養殖しにくかったりで、食べられる量にするのは大変とか」
「ゴ」
「あれはどこかで食用養殖されてたはずよ」
「そうなんだ。エビの味なんだっけ」
「エビの尻尾と成分が同じだけでエビそのものの味とは限らないと思うわ。お好み焼きとかに入れるなら良さそうだけど」
「コンセンサスが得られればね」
「ばれなきゃいいのよ」
「もっとダメでしょ」
「虫を食べるのがちょっとって言うのは要するに見た目が気になるってことよね」
「私はね。蜂の幼虫みたいなやつとか。高級食材なのは知ってるんだけど」
「頭のついてる魚とかも食べられないタイプ?」
「それは大丈夫。煮干しとか」
「想定の十分の一ぐらいのサイズの答えが帰ってきたわね」
「マグロとかは流石に無理だが?」
「何で煮干しを十倍にしたらマグロになるのよ仮に相似比だとしてもならないわよ」
「食物連鎖の十段階後ろ」
「序数に倍率を定義するな」
「魚と言えば、煮干しも蚊柱作るよね」
「そんなわけないでしょ」
「訂正。煮干しみたいなやつも蚊柱みたいなやつ作るよね」
「認識が雑すぎるけど言いたいことはわかったわ。いわゆる魚群のことね。イワシとかがやってる」
「あれは蚊柱とはちがって獲物から逃げる目的なんだっけ」
「そうね。マグロとかが近づくと発生するみたいよ」
「あれさ、ただの群れだって理解した大型魚にとっては食べ放題コースじゃない?」
「お互いのサイズによるわね。玉になっててもまとめて食べられてしまうこともあるらしいわ」
「でさ、おいしい蚊柱が開発されたら人間もあれの気分を味わえないかなって」
「されないわよ」
「えー」
「じゃあ仮に開発されたとして、あなた食べに行くの?」
「いやまったく」
「ほらね」
茶柱で湯飲みの中に蚊柱の
ような密度を作り上げたい