シーズン01 第018話 「湯と生活」
「ふー」
「まさか温泉まであるとは思わなかったわ。結構いい施設ね、ここ」
「なかなか広かったし」
「種類も結構あったわね。水温もいろいろあったし」
「でもここ、何で温泉が湧くんだろうね。近くに火山があるわけじゃないし」
「ああ、それならさっき書いてあったわよ。地下から汲み上げてるらしいわ」
「井戸水じゃん」
「身も蓋もない」
「温泉は火山で地下水があっためられて出てきたものなんだから、火山がないところから掘り出した温泉はただの暖かい井戸水でしょ井戸水」
「ちなみにここの温泉は汲み上げた後温めてるらしいわ」
「完全に地下水」
「成分条件さえ満たしてれば温泉を名乗っても問題ないらしいわ」
「世知辛い世の中だね」
「別に世知辛くはないわよ」
「ふー。三十八度だねえ」
「長く浸かるなら少しぬるめのほうがいいわね」
「けどさ、竪穴式住居に暮らしてたとしてさ」
「……竪穴式住居? 縄文時代の?」
「縄文時代の。竪穴式住居に暮らしてたとして、石鹸を使おうって思うかな」
「家と石鹸は関係なくないかしら」
「いや、家とはもちろん関係ないんだけど、石鹸って冷静に考えると割と受け入れがたいんじゃないかなって」
「要するに、最初に石鹸を使いだした人は何を考えてたのか。みたいな話かしら」
「要するとそういう感じ」
「ちゃんとわかりやすく要してほしいところね」
「で、どうでしょう」
「確かに考えてみれば完全にニュートラルな状態で石鹸に出会ったら気味悪く感じるかもしれないわね。ぬるぬるしてたり泡立ったり」
「泡、自然界にはそうそうない気がする」
「水を沸騰させれば見られるわよ」
「維持はできないじゃん」
「植物由来の液体なら維持できるのもあるんじゃないかしら」
「石鹸じゃん」
「そういうことね」
「そういうことかー」
「そういうことよ」
「……いや、ちがくない!?」
「いつもより時間がかかったわね」
「そこは温泉だから許してほしい」
「体温が上昇するとタンパク質の活動は低下するものね」
「仮に泡立ってるのに植物由来の液体で慣れてたとして、それで体を洗おうってなるまでにはもう一ステップ必要じゃない?」
「殺菌消毒」
「菌とかウイルスがどうこうみたいなの発見されたのって近代になってからじゃなかったっけ?」
「つまり、石鹸はオーパーツ?」
「オーパーツではない」
「そもそもお風呂ってどれぐらい昔からあったのかしら」
「ローマにはあったよ」
「石鹸は?」
「石鹸は知らない」
「水浴びぐらいなら昔からやってそうよね。そこからお風呂に移行したとして、最初のころは熱湯消毒という意味合いだったのかしら」
「だから細菌の知識はまだ」
「でも気分的に水浴びよりお風呂の方が浄化されてる感があるじゃない」
「単に温かいほうが気持ちいいとかじゃなくて?」
「とかかもしれないわね」
「だね~」
「結局石鹸はわからずじまいね」
「お風呂と温泉の違いが分かったかららいいんじゃない?」
「でも何の成分がキーなのかは私も知らないのよね」
「硫黄とかじゃない?」
「あんまり体によくなさそうね」
「マグネシウムとか?」
「海水でも可ね」
「ナトリウム」
「海水」
「フズリナ」
「海水に寄せてるわよね」
「はっ、しまった」
「まあ、温泉だから今回のところは不問とするわ」
「温泉だねー」
「ねー」
石鹸を知らずにバブを知っている
そんな子供がたくさんいるんだ!