シーズン02 第069話 「RGB植物観」
「みかんの季節が来た!」
「あら、買ってきたのね。まだ黄色いけれど味はもう甘くなってるのかしら」
「これから食べるのでまだわからない!」
「試食とかしなかったのね」
「まだシーズンが来てないのでそこまで気前の良いセールスは始まってなかった」
「客の目利きが試されるシーズンということね」
「まあ売り物にはなってるので糖度基準は満たしてるはず」
「出荷時に糖度基準を満たしてても運んでる最中にアルコールに変わってるかもしれないわよ」
「そんなことあります?」
「さあね」
「酒税法違反では?」
「さあ」
「これはさあってことないでしょ」
「さあ」
「一貫性がある」
「そうはいっても完全に緑色って感じじゃなくて、黄色だけど色はついてるからそこまで酸っぱくはないと思うわよ」
「よかった」
「一件落着ね」
「落着か?」
「まあまあ」
「あ、そういえばなんだけど、果物の色って、合理的な理由があってやってるのかな」
「植物に合理性を問いかけても木々のさざめきしか帰ってこないわよ」
「いやいや、そうとも限らないかもしれないよ? 世の中には迷路を解く菌みたいなのもいるらしいし」
「粘菌だったかしら」
「そうそうそんなの」
「でも粘菌も音声による対話には対応してないわよ」
「ほら、みかんは菌より強いし」
「強いって何よ」
「……おいしい?」
「おいしい菌はそうそうないわよ」
「きのこ!」
「確かに」
「そういえばきのこの色も独特」
「独特かしら。だいたい茶色だし幹の色と同じじゃない?」
「それもそうか」
「例外的に赤かったりオレンジの斑点模様だったりするのもあるけれど大体毒のやつね」
「何故わざわざ赤くなるのか」
「毒があることを通知する機能じゃないかしら」
「色を変えるとして何故赤」
「茶色をくすんでない感じにすると赤になるから、遷移しやすいとか?」
「あれ、茶色って何だっけ」
「茶色は茶色よ」
「茶色は茶色ではあるが」
「色の三原色で言うと、赤と黄色で作ったオレンジに少し青を混ぜて作るんだったかしら。RGBの場合は赤と緑で作った黄色……の赤寄りのところで輝度を下げると茶色になるわね」
「茶色とオレンジは同じ色だったのか」
「同じ色ではないわね」
「同じ色ではなかった」
「まあでもスペクトル的に近い位置にあるのは確かよ」
「つまり……幹の茶色から葉の緑を引っこ抜くと赤色……実の色になる。ということは、実は葉ではなかった!!」
「自明な結論を導いちゃってるわよ」
「え、でもそういうことじゃない?」
「というと?」
「RGBでいうと、Rの赤が実で、Gの緑が葉っぱ。その中間地点として葉っぽさの強い実は緑とか黄色に近くなるし、実っぽさの強い葉っぱは紅葉して黄色とか赤とかになる!」
「Bの青は?」
「それがないんですよ植物には。GB混合って何色になるんだっけ」
「緑と青だから、中間で……ああ、水色ね」
「そうか! 水がB枠!」
「水は水色じゃないわよ」
「そうだった」
「でも太陽光を与えてくれる空は空色ね」
「やったーーー!!」
「ていうか、そもそも実っぽさの強い葉って何よ」
「R寄りのG、すなわち黄葉とか紅葉。二回同じことを言ったのではなく字が違います」
「赤や黄色に色づいた葉も別に実ではないわよね」
「実のなる季節に紅葉するので」
「実か葉かじゃなくて、秋か夏かの違いなだけじゃない?」
「いやいや。いつの季節になる実も赤いからね。さくらんぼとか」
「実のなる季節と紅葉する季節が違ったらそれはそれで紅葉と実は関係ないことになるんじゃないかしら」
「うーん……。あ! 紅葉は食べるとおいしい」
「そんなことはないわね」
「そんなことはないか」
「ただ、植物にはRGBのGに近い生体組織を生成する構成要素と、Rに近い生体組織を生成する構成要素の二つがあるという仮説はそこまで悪くないような気がするのよね」
「となると動物には葉緑体がないから赤色中心?」
「そうかもしれないわ。血液もちゃんと赤いし。牛肉やマグロも赤」
「赤は血の色……! だから赤い植物はおいしい……!!」
「因果関係が数段ジャンプしてるわね。それに依然として紅葉はおいしくないわけだし」
「わかった。緑はおいしくないが正しい」
「野菜嫌い?」
「緑色のみかんはあまり好きではない」
「それなら大丈夫よ。あれ可食部はちゃんと黄色だもの」
「勝ち!!!」
メロンパンとか果物のパンはある
けど、みかん飯とかはどうかな?!