シーズン02 第061話 「まず錠って何」
「錠剤、何で円柱なの?」
「円柱かしらあれ」
「柱感はないけど円と円形の底面と側面がある」
「でもだいたい底面が膨らんでるわよね」
「そういえばそうか。何だろうあれ」
「うーん、UFO?」
「飛んではない」
「今は飛ばないがいずれ飛ぶようになるってやつね」
「あ、比喩表現の方の話?」
「この件についてはこれ以上はやめておきましょう」
「で、円柱でも膨張円柱でも良いんだけど」
「それっぽいわね、膨張円柱」
「なんであの形なの?」
「簡単な推測としては丸みを帯びてる方が飲み込みやすいとかそんなところじゃないかしら。サイコロ型だったら飲み込むのを少し躊躇するわよ」
「サイコロステーキ食べられない派の型ですか?」
「いいえ」
「なぜ」
「ステーキは噛み切れるので」
「つまり薬も噛み切れれば問題ないと」
「ああいうのって有効成分が狙った位置で溶け出すように設計されてるから噛んだりとかしたりしては基本的にダメなのよ」
「そうだったのか。ってことは粉薬はダメ薬?」
「あれはもともとああいう形態で提供されることを意図した設計だから良いの」
「結局丸みを帯びているのは服用しやすさ重視のデザインと」
「そういうことね。とがってる部分がひっかかるような気がすると飲みにくいもの」
「真球で良くない?」
「あー」
「膨張円柱だと結局底面と側面との境界に出っ張りができるし」
「一応、無視できるレベルの障壁として認定されてるんじゃないかしら」
「最初から真球にすれば無視する必要もないのでは」
「それはそうだと思うから、飲み込みやすさとはまた別の理由がありそうね。製造技術が足りないとか」
「たこ焼き機みたいなの使えば割と簡単に球体ぐらいつくれるのでは」
「残念ながら薬は焼かないのよね」
「焼く薬があっても良い、そう考えることはできないでしょうか」
「なぜ焼く必要があるのよ」
「アクティビティ?」
「薬はインアクティブで十分よ」
「やっぱり球つくるのそんなに難しくはないと思うんだけど。サイズ感的にはエアガンの弾とかもあるし」
「ラムネなら真球のやつもちゃんとあるわね」
「確かに。何なん?」
「あの円盤状の形の方が外力に強いんじゃないかしら」
「球ってすべての方向の力に強いんじゃないの?」
「じゃあ逆に体内で適切なタイミングに割れてほしいとか?」
「半分がやさしさでできてる薬は体内に格納された早く優しさをパージして有効成分を流出させてほしいわけか」
「何よ『半分がやさしさ出てきてる薬』って」
「テレビCMの謳い文句」
「聞いたことないけれど」
「古典CMなので」
「CMの古典、教養として扱うにはアクセスが難しすぎるわよ」
「プルーンの苗木とかと同じだよ」
「それも知らないわね」
「この世の終わりだ……」
「結局錠剤の形についてはよくわからないままね」
「もしかしたらキーボードの配置とかと同じで、特に意味のないものなのかもしれない」
「キーボードについてはタイプライター用だった昔は意味はあったのよ。今となってはだけれど」
「ということは、錠剤の形も昔は意味があった」
「かもしれないわね」
「昔は膨張円柱が縁起の良い形として認識されており病気を治療するのにおいて良いプラシーボ効果を発揮したとか」
「なんであの形が縁起が良いのよ」
「……UFOだから?」
「出展が割と最近の話ね」
ペラペラの「紙剤」を食む習慣が
普及している平行世界




