シーズン02 第045話 「先に言っておきますが、柑橘類の果皮入りジャムのことです」
「ママレードってジャム以外の文脈では聞かないわよね。何者なのかしら」
「みかんじゃないの?」
「みかんだったらみかんジャムになるんじゃない? ブルーベリージャムはブルーベリージャムだし」
「じゃあ、貝の形をした焼き菓子?」
「それはマドレーヌね」
「やたら黒いだけで欠片もおいしくないペースト?」
「それは……マーマイトね」
「赤いパッケージに入ってるスパゲッティ?」
「……何よそれ」
「マ・マー」
「いや、何よそれ」
「だから、赤いパッケージに入ってるスパゲッティ」
「……ママレードの話は!」
「そうだった」
「ママレード、柑橘類であることは確かだと思うのよね」
「やっぱりみかんなのでは。マーマレード as known as みかん」
「みかんの別名は橘よ」
「本当に?」
「確信度0.2ぐらいで本当」
「嘘じゃん」
「まあでも柑橘類仮説の確信度はかなり高いわね」
「つまりこの世のどこかにマーマレードなる木が生えている」
「どこかしらね」
「ブルーベリーの木の隣とかでは」
「ジャム工場と果樹園は併設されてないと思うわよ」
「は? 大量生産大量消費社会エアプか?」
「冷静に考えてほしいのだけれど、ジャムはそこまで大量消費しない」
「確かに」
「逆にママレードが植物でない可能性について考えて見る必要があるのかもしれないわね」
「植物じゃないとなると、何?」
「例えば……動物?」
「動物のジャム、新しい概念だ」
「私達が新しい概念だと思っていただけで、実際には昔からすぐそばにあったのよ。そう、ママレードジャムという形で」
「マーマレード、どんな動物だろう」
「響き的に鳥じゃないかしら。しかもママレードとして収穫されるのはまだひよこのときでないといけない」
「鳥はそれっぽそう。ひよこ判断については響きじゃなくて黄色いからでは?」
「そうかもしれない」
「しかし全てのひよこ、というか雛鳥がニワトリの雛と同じく黄色いという保証はない」
「でもママレードジャムは黄色いわよ」
「それはそうなんだけど、もう少し自然に考えることはできないだろうか。つまり、ひよこですらなく卵のジャムがマーマレード」
「ああ、たしかにそれならママレード鳥の特徴を強く仮定する必要もなくなるわね」
「そして同じ卵由来ということでマーマレードジャムがパンによく合うことも説明がつく」
「なる……いや、パンって卵入ってないんじゃないかしら」
「じゃあ足りない卵をジャムで補う」
「ブルーベリージャムをつけたパンは?」
「負け?」
「いろいろ考えてみたけれど、やっぱりママレードという柑橘があることは間違いないと見て良いわね」
「となると、なぜマーマレードがそのまま食卓に並ぶことはなく、常にジャムとなってしまうのか」
「単純に考えると、ママレードそれ自体は不味いんじゃないかしら。だから加工した形でのみ食べられる。同じ柑橘類だとレモンとかシークワーサーの系譜ね」
「いや、レモンはそのまま食べるが?」
「そのまま出てくるけど食べるとは言わないでしょう」
「食べることもある」
「どうしてそんなことを」
「どうしてなんでしょうね」
「まあじゃあレモンはおいておくとして、シークワーサーならどうかしら」
「そんな柑橘類ある?」
「あるわよ」
「あるけどないということなので、そういうことということか」
「もう少し具体的な表現を使いなさいよ」
「でもわかるでしょ?」
「まあわかるけれども」
「では回答をどうぞ」
「シークワーサーという果物はこの世の中に存在するけれど、私はその存在を知らない。このような状況が生まれうるマイナーな果物が社会において広く受け入れられているとするならば、私達がいま論題に挙げているママレードと同じように、そのままの状態では食卓に供されない柑橘類の代表格として扱っても良いということなのではないか」
「完璧!」
「やった! ……じゃなくて、なんでクイズをさせられてるのよ!!」
【ただの嘘】マーマレードとママレード
実は異なる果物由来