シーズン02 第041話 「太鼓判の達人」
「太鼓判って判子なのよね」
「じゃない? 太鼓判を押すって言うし」
「どんな判子なのかしら」
「太鼓の、判子」
「太鼓柄の?」
「そうかもしれない」
「何に使うのよ」
「それはもう、太鼓判を押すのに」
「手段が目的化してるわよ」
「太鼓の絵柄の判子なんだから、太鼓に関係あるときに押すんじゃない?」
「例えば?」
「太鼓の検品」
「一般的な済みスタンプじゃダメ?」
「それはほら、文化と伝統を重んじる感じの」
「だとしたら何がきっかけで始まったのかしらね」
「こういうのは多分昔話に残ってる」
「太鼓が出てくる昔話……」
「うーん……」
「太鼓が……太鼓の……達人」
「それは昔話ではない」
「ありそうではあるわよね、昔話『太鼓の達人』」
「むかしむかしあるところに?」
「赤い太鼓と青い太鼓が」
「現代版太鼓の達人に引っ張られてるよ!」
「いやいや。赤鬼と青鬼的なやつよ」
「鬼の代わりに太鼓が人を襲う地域があったのか」
「ほら、鬼って太鼓叩いてたりするじゃない。だからその下僕の太鼓だけがモンスターとして独立したタイプの民話が」
「それ、普通に鬼が太鼓の達人ではダメなの?」
「鋭い洞察力ね」
「こうなってくると逆に鬼が良い奴だったパターンかもしれない。昔話・太鼓の達人」
「日照りを呼ぶ赤の太鼓と、雨を呼ぶ青の太鼓を」
「赤と青はとりあえずやめよう」
「でも鬼だし」
「その場合、鬼は何色になるのか」
「それはもちろん茶色よ」
「何がもちろんなんだ」
「太鼓の胴体は大抵茶色じゃない」
「木製だからであって意図的なものではないのでは」
「なるほど、つまり木彫りの鬼」
「何もなるほだない」
「木彫りの鬼が夜な夜な動き出して赤い太鼓と青い太鼓を叩くことで天気をコントロールしてたのよ」
「だんだんホラーじみてきた」
「で、それを村人が……うーん、ストーリーが展開しづらいわね」
「それなら木彫りの鬼を落ちに持ってこよう。元々普通の鬼だったんだけど、物語が展開して、木彫りの鬼になった」
「木を彫って、木彫りの鬼に?」
「昔話あたりまえシリーズか???」
「何よそれ」
「そんなものはない」
「ないわよね」
「元々天候を操る太鼓を持った鬼がいて、村人のために良しなに太鼓をドンドンしていた。ここまでは良い?」
「ひとつだけ質問いいかしら」
「どうぞ」
「カッは」
「では次の議題に移ります」
「ちょっと!!」
「あるとき大洪水を村が襲ったんだけど、神の意思に逆らって鬼が赤の太鼓を叩き続けた」
「大洪水は神の意思だったのね」
「大洪水は神の意思によるものと相場が決まっている」
「昔話的にはそんなところね」
「で、村人たちが晴れを得る代わりに、雷が鬼に落ちて死んでしまったと」
「昔話らしいストーリーラインになってきた」
「神様の生け贄になってしまったわけです」
「前近代社会あるあるね」
「悲しんだ村人が木彫りの鬼を彫ったところ、正直すまんかったと言うことで神様が一年に一回だけ魂を地上に返してくれることになった」
「年一回じゃ天候制御の恩恵が微妙じゃない?」
「じゃあ年三回まで」
「使うタイミングが難しいやつ」
「で、鬼が地上に降りるときに申請書に押した太鼓の判子が、後に太鼓判と呼ばれることになったそうな。めでためでた」
「つながった!!!!!!!」
「まあ全部嘘なのですが……」
「そりゃそうよ」
太鼓判、一般的なの和太鼓と
同じサイズの判かもしれない