シーズン01 第013話 「都会レトルト生活論」
「ただいまー」
「おかえりなさい。ってあら、制服はどうしたの?」
「レトルトカレーが爆発した」
「因果関係が三段跳びしてるのでもう少し詳しく」
「学校でレトルトカレーを食べようと思ったら袋が爆発して制服が汚れたのでクリーニングに出して体操着で帰ってきました」
「論理の流れは分かったのだけれどとりあえず一番気になるのは、ふつうレトルトカレーは爆発しないわよ」
「ふふふ、それはね、甘い」
「自慢げに言うな」
「カレーだって食べ物なので爆発したくなる時もある」
「ないわよ。少なくとも私はカレーが爆発するところは見たことないわ」
「私は見たことあるけど?」
「そうでしょうね」
「気になる?」
「何でいつの間にかあなたが会話の上で優位に立ってるのかしらね」
「教えてくれと言われれば教えるが」
「いいから早く教えなさいよ」
「電子レンジに」
「はい愚か」
「ひどい」
「レトルトカレーに手間取ってる時点で都会では生きていけないわね。都会は時間の流れが速いのよ」
「何で急に田舎者視点なんだ」
「ここ田舎だし」
「田舎?」
「少なくとも都会じゃないわよ。周りに何もないし。畑もないから農村ってわけでもないけど」
「未開の地だ」
「開拓してるから私たちが住んでて学校があるんでしょうが」
「開拓された未開の地だ」
「じゃあもう未開の地じゃないじゃないの。僻地よ僻地、正しくは」
「なるほど」
「まあともかく、生活力をもう少しつけなさいって話よ」
「カレーを爆発させた経験がある人とカレーを爆発させた経験がない人では前者の方が人生経験が豊かであることは明らか」
「カレーで人生を語るな」
「あーあ真面目にやってるカレー屋さんみんなを敵に回しちゃった」
「少なくともあなたはカレー屋さんではない」
「ぐぬぬ」
「とにかく、電子レンジに密閉された袋とかを入れて加熱すると爆発するのよ。覚えておきなさい」
「まあでも、レトルトじゃない方のカレーは私は作れるからそれでセーフってことで」
「残念ながら都会ではカレーを煮込んでるともう少し時間の使い方を考えろと怒られるのよ」
「なんと恐ろしい」
「だから都会で生きていくのに必要なのはいかに高速でレトルト食品を可食状態に持ち込むかという能力よ」
「外食は?」
「並ばないならセーフ」
「コンビニご飯は?」
「お弁当とか冷めてるとあんまりおいしくないのよね」
「出前」
「それはありだけど高いのよね」
「出前のお金も払えないのに都会で暮らそうとしてるの?」
「急にえげつないこと言うわね」
「クリーニング代がカレー代と比べて一桁ぐらい違うからね」
「何が『から』なのよ」
「レトルト食品を食べようとして今回みたいにクリーニング代が発生したとき払えないようじゃ生きていけなくない? ということ」
「だから、普通の人はレトルト袋を電子レンジで爆発させないの。というかクリーニング代より電子レンジの買い替えや清掃の方が高コストよ」
「完全に暮らせないじゃん。餓死」
「まあ、暮らせなくなったら田舎に帰ればいいのよ。残機を一つ消費したと思ってもう一回やりなおすことね」
「田舎がない人は?」
「この話はやめましょう」
「はい」
「というかさっきの話でもう一つ疑問があるんだけど、そもそも何でレトルトカレーを学校で食べようと思ったのよ。昼ご飯一緒に食堂で食べたわよね」
「中ご飯だけど?」
「は?」
12時は朝の9時から3時間
3時間後はお昼の3時