シーズン02 第025話 「海洋の不条理」
「イルカとサメってどっちが納得いかない?」
「まずその評価軸が納得いかないわね」
「騙されたと思って考えてみてよ」
「騙す騙さないの問題じゃなくて」
「おお、なんかビジネスっぽい会話だ」
「騙したり騙されたりするばかりのビジネスは長続きしないわよ」
「流石、会社を四つ潰してきただけのことはある」
「潰してないわよ」
「大丈夫! 四つ潰しても五つ作れば総合的にはプラスだから」
「経歴を捏造するんじゃないわよ」
「でも、夢は大きい方が良いでしょ?」
「まあそれはそうね」
「夢は未来に対する期待。であれば過去に対する期待である経歴もまた大きいに越したことは」
「因果律を守りなさいよ」
「ということで」
「どういうことだったのかしら」
「納得できない話ということでここはひとつ」
「確かに欠片も納得の存在しない世界だったわね」
「その延長上で、イルカとサメに関する納得のできなさについて討論していきたいと思います」
「まず何の話なのよ」
「イルカってさ、クジラでしょ?」
「イルカはクジラではないけれどまあ言いたいことはわかるわ」
「でもさ、イルカはクジラじゃなくない!?」
「だからそう言ったわよね」
「そうじゃなくて」
「どうなのよ」
「まあいいや」
「いいの?」
「いずれ明らかになるであろうことなので。で、サメもさ、イルカだったりイルカじゃなかったりするでしょ」
「サメは完全にイルカではないわよ」
「そう! そういうこと!!」
「どういうことよ!」
「わからぬ?」
「まあ、何となく言いたいことはわかるけれどもね」
「というと?」
「イルカとクジラはサイズ以外では区別はなくて同じ種類って言われてるけど、イルカとクジラを見比べてもどう見ても形のレベルで全然違うように見える。同様に、サメもサメとしてひとくくりにされているけれども、例えば映画ジョーズで有名なホオジロザメとハンマーヘッドシャークとも呼ばれるシュモクザメなんかではやっぱり見た目が全然違って同じ種類にまとめられているのが何となく納得がいかない。こんなところよね?」
「完の壁です」
「璧は壁ではないわよ」
「あれ訓読みが『たま』だから若干伝わりにくいんだよね。ということで壁をもちまして代用させていただきました」
「そういう微妙な心づかいができるのになんでイルカとサメの話はあんなにわかりにくくなるのよ」
「それはほら、信頼関係?」
「そういわれると……悪い気がしなくはないわね」
「する?」
「するわね」
「ぴえーん」
「そもそも生物の分類は必ずしも見た目に依るというわけではないのよね。ほら、同じバラ科でもバラとサクラは全然違うじゃない」
「リンゴとモモとサクラは似てる」
「それは全部バラ科のサクラ属ね。バラはバラ属よ」
「残念ながらその辺の直感的な素養がない」
「私も事例レベルでしかわからないけれど、でもサメもクジラも科学的な分類というよりは日常語レベルの話だから、科学的分類で見るとかなり範囲が広いはずよ」
「それはわかる。それはわかるんだけど、日常レベルで同じカテゴリに分類されている者同士がそれぞれ大きく異なっているというのがこう、何で日常語なのにそうなるのっていう」
「だから、イルカとクジラはそれぞれ別の名前がついてるじゃない」
「あー」
「サメは……確かかなり範囲が広いのだけれど、ヒレの付き方とかそういうところで区別されてたと思うわ。ほら、ラブカも古代鮫っていうじゃない」
「ラブカ、会ったことなし」
「普通の人は会ったことないわよ」
「食卓でも?」
「食卓でも。深海魚っておいしくないことが多いのよね」
「シーラカンスも?」
「あれは深海魚じゃないわよ」
「なんと」
「まあとにかく、サメっていうのは全体の形が云々じゃなくて、ヒレの付き方みたいなワンポイントの特徴に応じて決まってる分類だから、逆に言えばそれ以外のデザインに関しては自由なのよね。その結果、見た目の違う大量のサメが存在してるということよ」
「なるほど」
「クジラとイルカに関しては前述の通りだし、これで納得がいったかしら」
「前述って、要するに外見じゃなくて体の構造で決まってるからぱっと見が違ってもクジラもイルカも同じっていう話?」
「そうそう」
「ところでさ、シャチっているじゃん?」
「いるわね」
「あれは?」
「あれも肉食だけれどクジラの仲間よ。というかクジラ自体結構肉食だけれども」
「クジラで、小型のやつ」
「そうね」
「ってことはシャチはイルカ?」
「……っていうと怒られるわよね、よく」
「納得がいかない!!」
「しゃちほこの鯱と実在するシャチは
無関係です」【証言:キリン】