シーズン02 第021話 「オタマジャクティカル論争」
「オタマジャクシとカエルの間に全然関連性が見いだせなくない?」
「いや、同種だけれど。小学一年生の教科書を読み直してみたらどうかしら」
「カエルがオタマジャクシと同種だってことって小学一年生で習うっけ」
「習うかどうかはちょっと怪しいわね。ほとんどの小学生は知っていると思うけれど」
「雪国の小学生は知らないかもしれない」
「たぶんそうでもないわよ。ああいうのって基本実物を見て知るっていうよりも絵本とかから知識を得るはずだもの」
「教育テレビとか」
「そうそう」
「教育フォンとか」
「そんなものは存在しないわね」
「いや、この世界におけるオタマジャクシとカエルの関係、すなわち tadpole と flog の関係について疑いを差しはさむ余地はないのだけれど」
「たっどぽーる?」
「オタマジャクシ」
「良く知ってるわね」
「教養人なので」
「あなたのことだから flog children ぐらいの認識かと思ったわ」
「child flog なのか flog child なのか微妙なところだね」
「どちらでもいいんじゃないかしら。直訳するとカエルの子供か子供のカエルかって話だし」
「子供のカエルは誤認識人間認識では」
「カエルの子供が小さいカエルだと思ってる人はそうそういないわよ」
「でも寝起きに子供のカエルのことを考えたらオタマジャクシじゃなくて小さいカエルを思い浮かべちゃいそうじゃない?」
「どういう状況よ」
「朝起きたら部屋にカエルが居た」
「うっ、あんまり良い朝じゃないわね」
「カエルのぬいぐるみね、もちろん」
「それなら良し。でも寝起きでカエルのことを考えるトリガーにはなりそうだけれどもカエルの子供のことは考えないと思うわよ」
「じゃあ朝起きたら部屋にカエルのぬいぐるみ(腹が切り裂かれて綿が飛び出ている)があった、とか」
「帝王切開ね」
「そもそもここで帝王切開だと思っている時点で哺乳類認識になっており両生類だということを見落としているのでは」
「誤認識レベルとしては同じじゃないかしら。成体と幼体が同じ形だと思ってる時点で両生類だと認識できてないわけだし」
「両生類って必ず親と子供が見た目レベルで違う?」
「だと思うわよ。鰓呼吸と肺呼吸だし」
「イクチオステガも?」
「イクチオステガ……はわからないけれど。っていうかイクチオステガって両生類だったかしら」
「そういわれるとそこまでの地震はないけど、でもイクチオステガとクックソニアだったらイクチオステガの方が両生類だと思う」
「クックソニアは植物よ」
「ほらね」
「ほらねじゃないわよ」
「じゃなくて」
「今回はどこまで巻き戻るのかしら」
「イクチオステガとかメキシコサラマンダーとかは今は関係なくて、オタマジャクシとカエルに固有の問題!」
「固有値の問題とかかしら」
「カエルの語源はよくわからないけど、オタマジャクシの語源って明らかにお玉と杓子でしょ?」
「でしょうね。そしておそらく見た目がお玉とか杓子とかに似てるからその名前になったということも推定されるわ。ちなみに杓子って具体的には」
「神社とかにある柄杓のことだね」
「なるほど。となるとどちらもしっぽに相当する部分が長すぎることを除けば完全にオタマジャクシといえるわね」
「完全にオタマジャクシとはいえない」
「そりゃそうよ」
「で、成長するとカエルになると」
「そうね」
「ならなくない!?」
「だからなるって言ってるでしょうが」
「いや名前が」
「……あー、要するに、カエルとオタマジャクシという名称の間に何ら関連性が見いだせない、という問題意識だったのね」
「そういうこと」
「これは割と残念なお知らせになるかもしれないけれど、人類は割と愚かよ」
「それは知ってる」
「それを認めるならもうどうしようもないじゃない。オタマジャクシを見つけて名前を付けた人またはグループが残念ながらカエルとの関連性を見いだせなかったか見いだせたとしても両者の名称間に類似する特徴を持たせることに対する重要性を認識していなかったのよ」
「想定が割と具体的」
「あらゆる状態を想定することこそ知性を高めることに対する第一歩よ」
「本当に第一歩か?」
「ごめんなさい、それは何とも言えない」
「ともかく、オタマジャクシだけど、これはイモムシとチョウとはわけが違う問題だと思うんだよね」
「イモムシは許すのね」
「これは仕方ない。でもオタマジャクシってお玉と杓子だけど、両方いまでも通じる言葉でしょ? ということは、言葉が変化するような昔の時代じゃなくて、割と近い過去に作られた用語だと思うんだよね。であれば、その時にはもうオタマジャクシとカエルの関係はとっくに見破られていたはずなのに、なぜこんなことになってしまったのかと! それだけの知性があればもう少し良い名前を付けることも可能だったのではないかと!」
「……ん? ちょっといいかしら」
「はいどうぞ」
「それって、イモムシも同じじゃない?」
「………………あ」
知性とかいうのが宿った人間は
この世界には実在しません