シーズン02 第014話 「大風礼拝」
「台風の季節なのに台風が来ません!!」
「ここはそういう土地だから仕方ないわよ。そもそも来てもいいことないじゃないの」
「趣」
「水害に趣も何もないわよ」
「いやいや。日本は趣至上主義だから」
「聞いたことないわよそんなの」
「私も聞いたことない」
「なんとなく予想はしてたわ」
「すごい! 自分でも予想がつかなかったのに!」
「しゃべることを決めてから口に出しなさいよ」
「決めてはいる。ただ――一手先が読めないだけだ」
「なんで名言風の口調なのよ」
「雰囲気で押し切れるかと思って」
「押し切らせません」
「残念」
「まあでも全国的に見ても今年はそこまで台風が来なかった印象はあるわね。海外は結構大変だったみたいだけれど」
「というか、台風って三分割する必要あった?」
「あれは回転体だから三分割はできないわよ」
「いや、派閥が」
「別にサイクロンやハリケーンは派閥で決まってるわけじゃないわよ」
「何故そう言い切れる!」
「派閥ならどこかで派閥抗争をしているはずよ」
「つまり台風は戦争……」
「だから違うって言ってるでしょ」
「でも当たらずとも遠からずじゃない?」
「――そうね。台風には自衛隊が来るし、ハリケーンもアメリカ軍が来るでしょうから、そういう意味では戦争といっても過言ではないかもしれないわ」
「サイクロンは?」
「自力救済ね」
「んなわけないでしょ」
「やっぱり?」
「はい」
「地理的な要因から床上浸水って未経験難だけど、ここってどうなんだろう」
「少なくともこの階まで水が挙がってくることはないと思うけれど」
「でも建物ごと水に流されるパターンもあるから」
「それは逃げるしかないわね」
「こういう時部屋に何もないと身軽でいいね」
「あろうとなかろうと逃げるときに何か持とうとしては駄目よ。生きていれば残りのすべてのことは損害保険が解決してくるわ」
「損害保険原理主義だ」
「ちなみに死んだら生命保険ね」
「保険だけで一つの新興体系を確立することに成功してしまった……」
「してないわよ」
「あと一歩!」
「頑張れ!」
「頑張りません」
「残念」
「まあでも、この学校が学生寮を流されるレベルの耐久性でしか設計してないってことはないはずよ」
「安心 of the feeling だ」
「of the feeling いらないでしょ」
「言われてみれば!」
「あ、でも下水道に水が大量流入すると家庭の下水から逆流してくることがあるからそれだけは注意ね」
「あー。対策は?」
「見守る」
「見守り安心隊じゃん」
「暮らしを安心させるしかないわね」
「我々もやれることはやるべきだ!」
「ないわよ」
「いや、トイレに石鹸を投げ込むとか」
「あ、トイレは噴き出してくることは少ないみたいよ。どちらかというとお風呂とか洗面台とかそういう方面ね」
「じゃあそっちに石鹸を投げ込む」
「何でもかんでも石鹸で解決しようとするんじゃありません」
「穢れを払うイメージ」
「石鹸って穢れに有効かしら」
「それは……どうだろう」
「何とも言えないわね」
「穢れ対策をやったことがないからどんな液体が効くのかそういえば理解していなかった」
「普通の人は理解してないと思うわよ」
「田舎のすごい人はそうでもないかもしれないでしょ!」
「田舎のすごい人になりたいの?」
「いいえ」
「じゃあいいじゃない」
「じゃあいいんだけど、それはそれとして穢れ払いができると格が上昇する錯覚を得られるので」
「錯覚なのね」
「錯覚です」
「まあ、有名どころだと、招き猫とかシーサーとか。あ、でも台風にはシーサーは効かないわね。沖縄は台風がたくさん来るもの」
「逆に考えるのだ。シーサーのおかげであの程度の被害で済んでいると」
「それっぽさがあれば何でもいいわけね」
「そうそう。ぽさみ原理主義」
「なによぽさみ原理主義って」
「なかったことに」
「はい」
「でもぽさみ原理主義だから、例えば純水とかは実はお祓いには使えないのか……」
「なかったことにしたのはどうしたのよ」
「やめた」
「よかったわね」
「やったー!」
「やってないわよ」
「なっ、生き残りがっ……!?」
「何の話よ」
「わかりません」
「でしょね。そしてそれは――宗派によるわね」
「……純水か」
「純水よ」
「危うく切り込みで致命傷を負うところだった。流石は……なんだろう」
「はい残念」
「ぐわーーー!!」
「ということで、純水でお祓いしたいっていうタイプの人もいるんじゃないかしら」
「一般的には純水よりも山からとってきた水とかの方が使われそうだけどね」
「日本アルプスとかね。ところであれってコンビニで売ってる富士山の天然水みたいなやつでも大丈夫なのかしら」
「宗派によるな」
「むしろどの宗派がOKなのよ」
「ほら、ペットボトルからいったん土器とかに移せば」
「山奥からとってきてこそじゃないのかしらああいうのは」
「それは企業の人がやってくれてるから」
「だから問題なのよ」
「まあ、結局そういう宗派の施設は山奥にあるから山からとってきた方が早かったりするんじゃないの?」
「水源に近いからかしら」
「あとフィールドエフェクトとか」
「それは電界効果よ」
「電界はプラズマ。プラズマは霊力」
「電界はプラズマではありません」
「じゃあ何がプラズマなんだ!」
「火とか放電とかね」
「残りの土水木は?」
「……どぼくウォーター?」
「治水工事だ」
「台風の季節だものね」
「……台風が来ないのー?」
「来ないわね」
「はあ……」
台風かどうかは俺が決めてやる
国の機関が口を挟むな