シーズン02 第013話 「貴金属など」
「金行って言いにくくない?」
「金鉱? 金の鉱山の事かしら」
「いや、銀行じゃなくて金行」
「あるの?」
「ないけど」
「じゃあ言う必要はないわね」
「こういう話をするときに言う必要がある」
「なんでこういう話になったのかだけ聞いておきましょうか」
「銀といえば金」
「アバウトね」
「そして瑠璃玻璃と続く」
「何よそれ」
「忘れた」
「文脈的に金属じゃないかしら」
「亜鉛とかかな?」
「銅はどこにいったのよ」
「銅を持ってくると対にするものが出せなくなるから」
「銅と青銅でいいんじゃないかしら」
「おお!」
「けど、瑠璃って確か宝石の名前よね」
「アルミニウムか」
「コランダムはアルミニウムそのものじゃないわよ」
「でも瑠璃ってサファイアのことでしょ?」
「そうだったかしら」
「そうではないです」
「何なのよ」
「宝石といえど非金属はどうでもよくて、貴金属の話です!」
「そもそも何の話だったのよ」
「金行」
「ああ」
「の可能性もあったような気がするけどないような気もするねっていう」
「名前?」
「名前」
「そもそも銀行の由来ってなんなのよ」
「銀本位制」
「ざっくりしてるけどまあいいわ。要するに金本位制なら金行だったかもってことね。……あれ? でも普通は金本位制じゃなかったかしら」
「東アジアは銀本位」
「人口の問題かしら。銀の方が埋蔵量が多かったはずだし」
「つまり頑張れば銅本位制、さらには鉄本位制も」
「ちょっと多すぎるわね」
「人口が?」
「金属が」
「そんな気はした」
「そもそも銅本位制になったら町中から電線が盗まれるわよ」
「なるほど、つまり電線地中化は銅本位制を見越した盗難対策……?」
「もっと重要なことがあるでしょうが」
「自然保護とか?」
「政策の話じゃなくて」
「いや、電線を埋めて生えてた場所に街路樹を植えようキャンペーンの話だから政策の話ではないよ!」
「普通に政策の話じゃない」
「政策の話だ!」
「でもさ、銀杏ってどちらかと言えば金杏じゃない?」
「街路樹の?」
「街路樹の」
「一つだけ言えることは、街路樹に銀杏がなってたら、その道を管理してる地方自治体は無能よ」
「国道の街路樹になってたら国が無能ということに」
「国道に街路樹はないわよ」
「そういう社会を電線の地中化で変えていきたいと」
「国道沿いに電線も生えてないと思うわよ」
「本当に?」
「まあ、そんな気がするだけなのだけれど」
「イメージはわかる」
「国道と高速道路の区別がよくわからないのよね」
「速いのが高速道路、遅いのが国道」
「さらに県道、町道と続いて、村道になる頃には制限速度が時速10kmにまで抑えられるのね」
「村道、おそらく田んぼのあぜ道のことだし、あながち間違ってなさそう」
「田んぼをわざわざ村が管理するの?」
「ほら、農村ほど共同体の力が強いから」
「なんとなく納得しかけてしまうのだけれどそういうことではないわよね」
「田んぼのあぜ道に街路樹は生えないからね」
「街路樹の話なの?」
「金杏もとい銀杏の話」
「銀杏はおそらく色のことじゃなくて、杏に対する銀杏なんじゃないかしら。つまり、杏が上で、それよりも一つランクが下なのが銀杏」
「おお! でも杏って?」
「杏子のことよ。杏子飴とかあるじゃない」
「名前は知ってるけど実物は見たことない」
「私も同じね」
「迷宮入りかー」
「迷宮入りねー」
「まさか金銀論争が杏子にまで飛び火するとは」
「色は概念的に広いから取り扱いを一歩間違えると大変なことになるわね」
「ということでせめて金行問題だけでも解決しておきたい」
「そもそも『きんこう』って音、銀行がどうこうじゃなくてすでに日常語で使われてるわよね。近くの近郊とか、天秤の均衡とか」
「つまりそれらの単語はいずれ濁音便化してぎんこうと呼ばれるように」
「濁音便なんてないでしょ。それがいけるならいずれ金属も銀属って呼ばれるようになるはずだし」
「銀属、ありだな」
「私はなしね」
「でも金よりも銀のほうが金属一般っぽくない? 金属光沢っていうより銀属光沢じゃない?」
「それは一理あるわね」
「つまり、金は銀!」
「いいえ」
「銀行は金行!」
「いいえ」
「銀杏は金杏!」
「いいえ……って、当初と進行順序が逆になってるわよ」
「あーーーーー!!!」
「白銀は白いので銀より強い」
「触媒なので白金の勝ち」