シーズン02 第010話 「実態が不明な花園」
「バラ園ってあるじゃん?」
「あるわね。いったことないけれど」
「桃園も」
「あるわね」
「梅園」
「ある」
「桜園」
「それはないわね」
「なんでだ! 同じバラ科なのに!」
「バラ科なら何でもあるってわけじゃないのよ」
「でもあとリンゴ園とか」
「それは今までのと比べてちょっと趣旨が違う気がするわね」
「でもさ、桜でしょ? 桜なんだからあってしかるべきじゃない?」
「どうかしら。むしろその有名さゆえに存在しないのかもしれないわね」
「というと?」
「バラとか梅とかはある程度珍しいから、それだけでコンテンツとして園を作ることができるわ。でも桜はそれだけメジャーだから、桜を集めたってだけじゃコンテンツ性が維持できないんじゃないかしら」
「お花見とか万葉集とかあるじゃん」
「でも、今あるお花見の名所って全部桜専門の場所じゃなくて、どこかの公園の一区画じゃない。そういう複合コンテンツ施設がある中でわざわざ桜専門の園を作っても競争力が維持できないんじゃないかしら。あと万葉集は何に使うのよ」
「木に貼る」
「本を?」
「歌を。桜関係の」
「桜関係の歌ってそこまでないわよね」
「頑張って作っていくしかない」
「何よその大々的な捏造」
「大々的にやれば逆にばれないのでは?」
「『万葉集風』っていうオリジナルコンテンツとして出すならありね」
「いや、あんまり主張すると歌園になっちゃうから」
「やぶさかではないわね」
「何が?」
「誤用よ」
「はい」
「そもそもバラ園とか桃園に比べて桜園ってなんかこう、単語としてどうなのかしら」
「端午の節句は菖蒲です。あ、なるほどそこを桃に変えろと」
「違うわよしかも五月五日はもう桜ほとんど散ってるじゃないの」
「北国に行けばよろしい」
「北の桜祭りを端午の節句にやるのね」
「子供の日だからね」
「そこの因果関係はよくわからないけれど」
「私にもわからない」
「おい」
「で、端午の節句じゃなくて?」
「こいのぼり……ではなく、単語よ単語。ワード」
「プロセッサー?」
「のワードね」
「何がだっけ」
「桜園よ!!」
「ああー」
「要するに、桜園っていわれると広大な植物園っていうよりも近所の公園みたいな感じがあるじゃない」
「ひらがなでさくらえんなら近所の幼稚園か保育園だね」
「そういうことよ」
「でもバラ園や桃園も植物園とはまた違くない?」
「そういわれてみるとそうね。植物園っていうとこう、室内にいろんな種類の植物が雑然とまではいかないまでも密集して並べられてるイメージよね」
「種類が同じなのは仕方ないとしても、密集というよりなんかこう中を歩いて散策する感じだよね」
「ああいうのってバラ科にしかないわけじゃないわよね。ユリ園とか」
「チューリップ園とか」
「ラベンダー園とか」
「ラズベリー園とか」
「それはないわよ」
「えぇ……」
「いちご狩りと勘違いしてないかしら」
「あ、それだ」
「結局行ったことないからわからないのよね、一般的な植物園とバラ園とか梅園とかの違い」
「そもそもバラ園と梅園でもそこそこ違いそう。バラは草で梅は木でしょ」
「あら、バラは木よ?」
「そうなの?」
「ええ。バラのアーチみたいなのが冬に完全に枯れてるのとか、見たことはないでしょう?」
「行ったことないからわからないね」
「せっかくだから今度行きましょうか、バラ園」
「バラって秋だっけ? この季節ならリンゴ園じゃない?」
「春に咲くバラもあるけれど秋に咲くバラもあるのよ。あとこの季節ならリンゴ園ってそれリンゴ狩りの話よね」
「バラ狩りはできないよ?」
「知ってるわよ」
「いやー、行ったことないから」
「はいはい。あと気づいたんだけど、桃園とか梅園とかエンで発音してたけど、訓読みのソノじゃないの?」
「いや、それは固有名詞の場合ですね」
「あれ?」
「あらら」
「……行ったことないから仕方ないわね!」
「仕方ないね!」
「紅葉狩りあるのに紅葉園ないね」
「狩りは園よりサファリパークよ」