シーズン01 第011話 「焼肉討論会」
「焼肉って漠然としすぎよね」
「肉の焼き方が? 私は結構火が入ってる方が好みかな」
「私はむしろそこそこ火が通った程度のが好きだけど漠然としてるのはそこじゃなくて、焼き肉そのものよ」
「とは」
「肉を焼くって調理におけるかなりの上位概念じゃない」
「それが料理名なのが気に食わないと」
「そうそう」
「それはまあ茶道みたいなものでは」
「あれは『道』のところで限定してるからまだ良いのよ。焼肉よ、焼肉。さすがに度が過ぎるわよ」
「少なくともしゃぶしゃぶの可能性は排除している」
「しゃぶしゃぶは鍋の一分野じゃない。その程度を除外したところで大勢に影響はないわよ」
「そういえば鍋も概念として広いよね」
「それは私も考えたんだけど、そうはいってもあれは一調理器具じゃない」
「確かにそういわれれば鍋の方がちょっと狭……ん?」
「どうしたの?」
「しゃぶしゃぶって鍋じゃなくない?」
「とにかく焼き肉よ焼き肉」
「話を逸らした」
「ここは話を逸らすのが最適対応よ。この話題は議論の行く末によっては死人が出るわ」
「いったいしゃぶしゃぶと鍋の間に何があったんだ……」
「焼肉!」
「はい」
「で、焼肉の概念はそこまで広いくせに、焼肉屋でユッケとかが出てくるじゃない。あれは完全に言語活動に対する宣戦布告よ」
「もう出せないけどね」
「文部科学省も良い仕事をしたわね」
「いやあれは厚生的な方」
「無能。一生教科書でも作ってなさい」
「評価が厳しすぎる」
「だって文部科学省なのに言語コントロールとか全然してないじゃない」
「でも国が言語活動を取り締まると明日から二進数しか使えなくなるかもしれないじゃん?」
「どういう国を想定してるのよ」
「白黒はっきりさせたがる国」
「それは公用語が二進数になるんじゃなくて0と1の二つの数しか使えなくなるのよ」
「よし、白黒はっきりさせよう!」
「何を?」
「焼肉なのか焼き肉なのか」
「何が違うのよ」
「『き』の有無」
「口で言ってもわからないわよ」
「もうちょっと日本語を使いこなして」
「何当然日本人ならできるよねみたいな想定で話を進めてるのよ」
「できないやつは日本人じゃない」
「角が立つからわざわざ対偶で言い換えなくてよろしい」
「攻撃力が上がるからね」
「それを角が立つというのよ」
「知っています。なぜなら日本語者話なので」
「ガンガン攻撃力を上げてくるわね」
「先に攻撃してきたのはそっちだぞ!」
「えっ、してないわよ。何か気に障ることがあったなら謝るわ」
「発言内に何度も『焼肉』と『焼き肉』を混在させた」
「それはあなたの頭の中の問題でしょ!」
「で、焼肉問題ですが」
「表記の話なら、『き』を入れる方が正しいんじゃないかしら。もともと『焼く』の活用なのだから送り仮名は入れるべきよね」
「じゃあ焼肉表記の焼き肉屋は全員焼き討ち」
「そこまで言ってないわよ」
「そういえば焼き討ちは『き』とか『ち』とか取ったりしないよね」
「なじみのある単語じゃないからじゃないかしら。送り仮名をとるのは一種の省略記法だと思うわ」
「解決」
「早っ!」
「完全に納得した」
「まあそれなら良いけれど」
「これに免じて焼肉の概念が広すぎる件についてもどうかお手打ちいただけないだろうか」
「何セットメニューみたいに解決しようとしてるのよ」
「今度焼き肉おごるから」
「許す」
「盆地からクーポン券が送られて
きたんだよね」「盆地ってどこ」




