シーズン02 第009話 「C料理のS分野における特異性の分析」
「カレーライスってどう考えてもやりすぎよね」
「具材が?」
「具材に別に特異性はないわよ。香辛料の話」
「辛さ? 甘党だっけ?」
「別にそういうわけではないけど。そうじゃなくて、香辛料の種類が多すぎない?」
「市販の万能チックな漢方薬に比べればそこまででもない」
「薬と食料品を比べても」
「つまり世が世ならカレー粉は漢方薬だった?」
「薬効がないじゃないの」
「辛い」
「薬効ではありません」
「体温が上がる」
「生姜にくらべて効能が低すぎるわよ」
「無念。カレー、撃沈」
「そうして国民食として第二の生を与えられたのね」
「サクセスストーリー!」
「いや、サクセスはどうでもよくて」
「非情」
「とにかく、カレーって食べ物としては由来となる成分が多すぎる気がするのよね」
「成分っていうとまた別の意味になってきちゃうけど」
「正しい表現が出てこなかったのでここは成分で手を打ってほしいのだけれど。っていうか正しくはなんて言えばいいのかしら」
「調味料?」
「香辛料って調味料かしら」
「塩は調味料でしょ」
「そういわれてみると。ということで改めて、カレーって使ってる調味料が多すぎる気がするのよね」
「そうはいってもスープは大体同じようなものじゃない?」
「味噌汁は味噌だけじゃない」
「おっ、だしを取らずに味噌汁を入れて姑にボコボコにされるタイプの人かな?」
「私はそういうのはやるつもりはないからいいの」
「ボコボコにされても?」
「やられるつもりはないわ」
「武闘派だ」
「回避する方向で動くわよ」
「核抑止力?」
「相互確証破壊とは限らない……じゃなくて! なんで味噌汁の話からここまで物騒なことになるのよ」
「世の中が物騒だから」
「一理あるわね」
「一理 exists of the world だね」
「世の中だけに?」
「世の中だけに!」
「そもそも味噌の話ですらなかったわよね」
「カレーの調味料が多いって話?」
「そう、それよ! どうなのよ」
「でもさ、ビーフシチューとかクリームシチューとかもあのぐらいありそうな気がしない?」
「そもそもビーフシチューとクリームシチューの成分の内訳を知らないのよね」
「牛乳とかじゃない?」
「牛乳はどのスープにも入ってそうよね。コーンクリームスープとかパンプキンスープとか」
「っていうかシチューってスープ?」
「どこまでドロッとしてるとスープ扱いにしてもらえないのか不明瞭よね」
「そもそもカレーはスープじゃないのでは」
「スープカレーっていうじゃない」
「スープカレーはスープのカレーなんだから逆説的にただのカレーはスープではないということにならない?」
「でもスープカレーもカレー粉入りなんだからカレーと同じ調味料を使ってるんじゃない?」
「つまりスープに関連する境界線をはっきりさせずともカレーはシチュー側とスープ側の両方のフィールドで戦えるということか」
「いや、戦ってはいないわよ」
「これだから最近の若者は軟弱で困る」
「カレーと若者、関係ないわよね」
「新書っぽいね、カレーと若者」
「関係ないわよね?」
「はい」
「コーンクリームスープはコーンと牛乳、パンプキンスープはパンプキンと牛乳、クリームシチューは小麦粉と牛乳、ビーフシチューは牛と牛乳。それでいいわね?」
「ビーフシチューって牛入ってる?」
「そりゃあ入ってるでしょう」
「入ってるか」
「それに対してカレーはカレー粉と称した大量の香辛料が入っている。よってカレーは異常。これでQ.E.D.よ!」
「おー!」
「……ふう。長かったわね」
「科学的な論証には苦労がつきものだからね」
「いや、主な原因はたびたび脱線したことでしょう」
「カレーの材料を輸送する鉄道が?」
「話が! こういうのよこういうの!」
「ご明察」
「なんで管理者目線なのよ」
「でもさ、カレーがこれだけ調味料が入ってるならエネルギー体としてもきっと万能だよね。ということで今日の夕飯もカレーに」
「嫌よ」
「えー」
「今日の昼も昨晩もカレーだったじゃないの」
「昨晩に関してはコンボが途切れてるからノーカウント」
「あなたは途切れてないでしょうに」
「それはほら、強いので」
「強くない!」
「お、戦って」
「戦いません」
「あらら」
「……だいたい、食堂でカレーフェスタをやるのはいいけれど、なんなのよ45種類って! やりすぎなのよ!」
「まあまあ、仕方ないよ。だってカレーなんだから!」
「はぁ……」
「あと一か月あるから二日で三食のゆるやかなペースでもコンプリートが」
「全然ゆるやかではありません!!」
「はい」
カレー粉を固めてカレールーにした
ものを叩いて砕くお仕事




