シーズン02 第005話 「アイアンシルヴァーってことでここはひとつ」
「銀色って何で鉄色じゃないのかしら」
「高級感があるから」
「色においては日常感よりも高級感を優先するの?」
「だって銀だし」
「鉄でもあるじゃない」
「非日常であるがゆえに逆説的に日常において使い勝手が良くなったのでは」
「というと?」
「銀紙が鉄紙だったら嫌じゃない?」
「嫌ではないけど、磁石にくっつきそうな気はするわね」
「でも、誰も銀紙に熱電導率の良さを求めたりはしないでしょ?」
「つまり、知らないからこそ雑に扱えるって訳ね」
「そういう」
「けど、あまりにも知名度が低いと相手に通じないっていう問題もあるじゃない。例えば、ビスマス色っていってイメージが湧くかしら」
「ビスマス……ビスとマスだから工具? ということは銀色もとい鉄色?」
「残念ながら不正解ね。正解は濃い虹色よ。ビスマス結晶って見たことないかしら」
「そもそも元素番号でいうとどこよ」
「十五族よ。周期表でいうと窒素とかリンとかの下にあるわ。たぶん写真を見たら何のことかわかると思うけれど、イメージで一番近いのはCDやDVDの裏面の虹色かしら」
「なるほど。これからは積極的に使おう、ビスマス色」
「残念ながらそんな言葉はないのよ」
「ええー!」
「というように、馴染みが無さすぎると伝わらないから単語として成立しないのよ」
「言ってくれたから伝わったけど、ビスマス色」
「それはあなたが周期表をわかるレベルの知識水準にあったからだし、結局は色の説明としてはCD色ってことになってるじゃない」
「難しいね、ビスマス」
「で、銀色という単語が成立した年代において、銀ってそこまで知識として普及していたのかしら」
「まあ、貨幣だし?」
「鉄の方が普及は早いんじゃないかしら。青銅器の次に鉄器って流れよね」
「でも銅いけるなら銀もいけそうじゃない?」
「……盲点だったわね。となるとこの話は解決でおしまいね」
「そうでもない」
「そうなの?」
「なぜなら銅じゃなくて青銅だもん」
「そうか、スズとの合金ね! つまり銀もそこまで早く分離できたかというと怪しいことになるわね」
「銅は銅色って言わないし、銅単体の成立は色名の成立に負けてそうってことになるね」
「銅は茶色または赤茶色だものね」
「うんうん。……あれ?」
「ん?」
「お茶って少なくとも日本では戦国時代の千利休で成立じゃなかった?」
「あら?」
「正確にはあれは茶の湯であってお茶というか茶葉自体はもう少し前から使われてたわけだけど」
「少なくとも銅より遅いってことはないわよね」
「青銅があったから銅の分離に満足していたという歴史がある?」
「でも青銅って青銅じゃない。銅あっての名前よね。そんなに遅かったなら青銅が銅で銅が赤銅になるんじゃない?」
「科学の発展で元素として銅が単体だってわかったから用語が書き換えられたとか」
「酸素と水素の名前を逆にしたり電流の向きを電子流の向きに合わせたりすることすらできない科学者にそんな権限はないわよ」
「確かに」
「でも茶色に関してはいくらなんでも書き換わってる気がするのよね。普通土色じゃない?」
「ほら、土は地域によって色が違うから。赤道直下だと赤だから」
「赤道直下に日本語を使ってる国はないからここでは考慮しなくてもいいのよ」
「日本語以外の漢字圏」
「もないわよね」
「ないね」
「他に書き換わった色ってあるかしら」
「オレンジ色と橙色?」
「それは両方とも使うじゃない」
「でも最近はオレンジ色が優勢だよね。絵具には橙色って書いてあるし虹の七色を漢字で書くときにも出てくるけど、それ以外でわざわざオレンジって言わずに橙っていうことはなくない?」
「なるほど。そもそも橙って色専用の単語なのかしら。それともオレンジみたいにもととなる植物がある?」
「柑橘類じゃない? 木偏だし」
「となると、今の社会において橙よりもオレンジのほうが一般的になってしまったことから橙色がオレンジ色に書き換えられつつあるということね」
「つまり、昔は青銅が銅で銅が赤銅だったけど、普及率の関係で名称が逆転した?」
「なんか話に対称性がないけれどもそういう可能性も考えられるわね」
「ってことは銀色も銀が普及したことで鉄色から書き換えられた?」
「……今思ったんだけど、昔の人にとっての鉄って砂鉄だから、銀色よりもむしろ黒に近いわよね」
「な~るほど~」
「絵具屋のレモンイエロー一般の
黄色」現代ことわざ部門