シーズン02 第003話 「亀の大きいやつ」
「最近知ったんだけど、ミシシッピオオミミガメは存在しないらしい」
「正しくはミシシッピアカミミガメね」
「でもさ、亀は万年じゃん?」
「だからってオオミミガメにはならないわよ」
「一万では足りないと申すか」
「数字の問題じゃないわよ。そもそも亀は一万年も生きないし鶴だって千年も生きないわよ」
「はっ、つまり政府はことわざと称して悪質なデマを全国の教育機関で」
「いや、比喩でしょうに」
「本当に? 昔の人は普通に一万年生きるって信じてたんじゃない?」
「まあ、その可能性は否定できないけれど。人間の寿命と近代以前の技術レベルの関係上本当に一万年生きてるかを確認するのは難しいもの」
「でもほら、昔の人は何十万年も生きてたっていうし」
「それは悪質なデマよ」
「亀の本当の寿命って?」
「種類にもよるけれど、長いもので百年から百五十年ぐらいだった気がするわ」
「なるほど、つまり今の基準で言う一年が当時の基準で百年だとすれば亀の寿命は100×100で一万年になるわけか」
「どういう基準よ」
「ほら、一万年前だと時計が発達してなかったから」
「その理論だと気にしなければいけないのは一万年前じゃなくて百年前でしょ」
「直近で百年前なだけで一万年前でも問題はない」
「でも一万年前だとまだ石器時代よね」
「大丈夫、新石器時代だから!」
「何が大丈夫なのよ」
「新石器時代は、強い」
「戦闘能力が?」
「戦闘能力が」
「戦闘能力があっても文字の記述ができないと亀の寿命を正確に書き表すことができないでしょう」
「生き残りさえすれば後世に正しい歴史を口伝することができる」
「でも、間違ってるじゃない」
「あー」
「というかそもそもミシシッピアカミミガメの話よね」
「ミシシッピオオミミガメ」
「アカミミガメ」
「……ふん、まあいいだろう」
「いいだろう、じゃなくてミシシッピオオミミガメは存在しないの」
「さあ、どうだか」
「どうにもならないわよ! ……ってだから、アカミミガメでもオオミミガメでもミシシッピはミシシッピよね」
「そこに異論はないね」
「アメリカじゃない」
「アメリカだね」
「鶴は千年亀は万年のことわざは日本のものだからアメリカのミシシッピには通用しないわよ」
「なんと!」
「そもそも一万年前に住んでいたアメリカ人は今のアメリカ人じゃなくてネイティブアメリカ人だし、マヤ暦をはじめ時間に正確なことで有名だから一年が百年になってるわけじゃなさそうよ」
「なるほど、つまりミシシッピオオミミガメはマヤ文明の玄武」
「どういう飛躍よ」
「ミシシッピアカミミガメがミシシッピに住んでる普通の亀、ミシシッピオオミミガメは玄武。こういうことでどうだろうか」
「玄武は黒だけどミシシッピはアカミミガメだから赤よ」
「それはアメリカだからということで」
「……とにかく、今現存する生物がオオミミガメじゃなくてアカミミガメだと理解してくれればそれでいいわ」
「そもそもミシシッピはともかくとしてオオミミガメっていう亀は存在するの?」
「しないと思うわよ」
「じゃあミシシッピオオミミガメって何なんだ!」
「私が聞きたいわよ!」
「それもそうか」
ミシシッピオオミミガメもガラパゴス
オオウミガメも存在しない