シーズン01 第100話 「行く末、来る末」
「帰省、どうしようかしら」
「どうしようって?」
「もう八月でここも人が少なくなってきたし、そろそろ帰省の季節かなって思ったのだけれど」
「例年通りでいいんじゃない?」
「例年通りは例年通りなんだけど、どっちがどっちに先にお泊りするかって話よ」
「完全に失念していた。去年どうだったっけ」
「去年は将棋で決めたわね」
「じゃあ今年は第二将棋か」
「第二将棋って何よ」
「将棋がラジオ体操だとしたらラジオ体操第二に当たるやつ」
「それは第二の説明でしょう」
「あ、ラジオ体操の説明が必要? ラジオ体操というのは毎日朝6:00に不明な無限遠方から到達する怪電波を傍受した政府がカモフラージュのために変換を施して全国に放映している」
「ラジオ体操の話が聞きたいわけじゃないしそもそもそれはラジオ体操じゃないでしょうが」
「まあ、実在しないんだけどね」
「ラジオ体操が?」
「第二将棋が」
「それはそうね」
「その通り」
「……で、どうしましょうか」
「もうラジオ体操で決めればいいのでは?」
「評価基準」
「そりゃスタンプでしょ」
「誰が押すのよ」
「怪電波」
「怪電波は実在するの?」
「しません」
「でしょうね」
「そもそもラジオって聞かないよね」
「この部屋にはラジオもテレビもないものね」
「でも帰省してもラジオは聞かなくない?」
「ラジオ体操はどうしたのよ」
「ラジオ体操をラジオで聞く人間はいない」
「いるわよ」
「でも朝六時って当然寝てない?」
「当然寝てる時間に起きて活動するのが偉いという価値観から生まれた長寿番組でしょう」
「たしかに、夜更かしも6時間を超えて日が明けるまでともなると一種の尊敬の」
「逆よ」
「マイナス方向の夜更かし?」
「マイナスの夜更かしって何よ」
「夜が逆方向に進む」
「夜更かしで手に負える範疇を超えてるわよ」
「マイナスとはそういうものだ」
「まあ、負の数の概念の獲得は最初はだれでも苦労するものよ」
「マイナスの夜更かしを極めた人間はマイナスの周波数で放映されるラジオ体操にありつくことができるという」
「負の周波数はもとの周波数と同じだからそれ要するに普通のラジオ体操よね」
「なにーっ」
「で、帰省なのだけれど」
「どうする? 何で決める? グラディエーター?」
「そもそもなんで話し合いじゃなくて勝負前提になったんだったかしら」
「お、ディベート?」
「ルール知らないのよね」
「私も知りません。黙った方が負けとかでは?」
「目覚まし時計を鳴らし続ける裏技が成立するわね」
「しかし目覚まし時計は一定時間を過ぎるとベルが止まってしまうのでそれまで耐え続ければ勝機はある」
「じゃあキッチンタイマーね」
「電池を倒すしかない」
「コンセントを使えば必勝かしら」
「それは簡単で切断すればいい」
「それがありなら他オブジェクトも全部破壊すればOKじゃないの」
「つまり人間も撃破すれば……?」
「ディベートとはいったい何だったのか」
「もう少しルールが明確なやつのほうがいいね」
「ディベート2」
「さっき駄目だったでしょうが」
「続編だから! ほら、パズルゲームとか続編のほうがルールが整備されてたりするじゃん!」
「3×3のルービックキューブに対する4×4のルービックキューブとか?」
「いや、それは変わらないでしょ」
「変わるわよ。元は難しいという触れ込みだったから完成させたら勝ちだったけれど、ある程度完成パターンが共有されてしまったことを受けてできるだけ早く完成させるゲームに変わったじゃない」
「うんうん。でもそれ3×3のルールじゃない?」
「そういう細かいことはいいのよ」
「全然明確になってな……はっ!」
「ふふふ、今回は私の勝ち」
「これ、いけるかもしれないね」
「どれよ」
「今の」
「私を勝ち扱いにするってこと?」
「そうじゃなくて、今のスタイル」
「全然見えてこないわね」
「論理的な破綻を相手に導かせた方が勝ち、それがディベート2!」
「薄々感付いてはいたけど、やっぱりディベート2などというゲームはもともと存在しないわけね」
「もちろんです」
「自信をもって答えるな」
「で、どう? ディベート2でやる?」
「うーん、白熱してくると気づかなかったり気づいて相手に指摘した後にさらにその前の時点で論理ミスがあることを指摘されたりとルール整備が難しい気がするのよね」
「ふむふむ。じゃあ、ちょっとアレンジしてクイズゲームにするとか」
「対話的クイズって難しくないかしら」
「対話は残念ながらあきらめて、『3×3のルービックキューブに対する4×4のルービックキューブ』みたいなのに焦点を当てる」
「ないわよ。いやあるけど」
「流れ的にはない」
「そういうことね」
「そんな感じ」
「どんな感じよ」
「つまり、流れの中でやったことに対して歩かないかを判別するクイズ!」
「要するに〇×問題ね」
「それ」
「まあ、夏休みに入っ……たのはちょっと前だけど、一学期が終わってその分の期末試験みたいなもの、といったところかしら」
「期末試験は受けたけどね」
「かなり前にね」
「私は期間中に受けたけど?」
「今学期の正規期末じゃないでしょ」
「1999年?」
「世紀末じゃなくて正規の期末」
「まあ、未来だね」
「ということでその代わりにお互いが全力で出題するっていうのも面白いと思うわ」
「うむ」
「まあ、とはいえど専門的なことを言っても文章自体が伝わらないこともありそうだし、さっきのルービックキューブみたいに雑学の形式にするのがいいかしら」
「偽雑学の判別だね。ヲシテみたいな」
「そういうのは伝わらないからちゃんと雑学形式で解説してね」
「なるほど」
「とはいえど、すぐには思いつかないものね」
「私も『ミカンの語源は印鑑』みたいなのしか出てこない」
「偽雑学ね」
「ところがどっこい」
「え、本当なの!?」
「嘘なんですよ~」
「……先に行っておくけど、答え合わせで噓をつくのは禁止よ」
「えー」
「えーってなによ」
「答え合わせすら信用できないほうがゲーム性が高まる」
「どうやって採点するのよ」
「自力で調べる」
「労力が大きすぎるわよ」
「知らなかった方が悪い」
「知ってても調べないといけないでしょうが」
「そういう説もあるね」
「そういう説しかないわよ」
「でもさ、例えば出題フェーズと答え合わせフェーズに分かれて、出題フェーズでは普通に〇×を答えて、答え合わせフェーズで相手が不正解を主張したときに自分の選択肢が正解である根拠を提示できたら審判を覆して大量得点! みたいなのは??」
「それなら面白そうね。答え合わせで嘘を言えるのは何個でも?」
「何個でも」
「全部に不正解宣告するとDoS攻撃にならないかしら」
「反論する方が悪い」
「時間制限が必要ね」
「……時間ライフポイント制!」
「時間がそのまま体力?」
「調整が面倒そうだからそれは分けよう」
「時間切れで減点か相手に加点でいいんじゃないかしら」
「おお、これで遅刻行為もルールの中で取り扱うことができる」
「別にそれはそこまで求められてる機能ではないわよ」
「まとめると、出題、回答、解答、反論の順番で一巡して、それを交互に繰り返して相手の体力をゼロにしたら勝ち、という感じか」
「あら、ターン制なのね。連続出題かと思ったわ」
「5問まで連続出題できることにする」
「自分も時間を使う代わりに攻撃力を上げられるシステムね」
「そうそう」
「カードゲームみたいな感じね」
「あとターンに一度だけサポート川柳を詠むことで」
「いや、トレーディングカードには寄せなくていいわよ」
「ということでこんなところでどうでしょう、歌合せ」
「いいと思うわ。不正解扱いは回答者が1ダメージ、反論は成功で出題者に3ダメージ、失敗で回答者に2ダメージぐらいでいいかしら。不正解扱いとの二重ダメージはなしで」
「初期体力は100ぐらいかな」
「そうね。……ということで」
「お、始める?」
「準備期間は短いほうがいいわ。元が今学期の成果を試すためのものだもの」
「理だ」
「ということで、勝った方が先に家に……」
「STOP!」
「なんでよ」
「勝った方が帰省システムの設計権を得る、ということで」
「そうね。――なんかゲームなしでもまとまりそうな気配がしたし」
「せっかくだからね」
「せっかくだものね」
「ということで」
「「披講!」」
シマウマは種族としては馬よりも牛やラクダと近縁種である。
南米のダイオウイカは草食で深海にある若芽を食べる。
江戸時代までの日本の葡萄酒はアルコール抜き中心だった。
微分記号∫と総和記号∑の由来はともにSの字。
イタリアはピザやパスタの食べ過ぎで食料自給率が最悪。
マシュマロの和訳は薄紅立葵。葵がマシュで紅色がマロ。
奈良時代餅は不吉なものとされ製造すると拘留された。
「微妙」には「びみょう」と「みみょう」の二種類の読み方があり、意味が異なる。
筆ペンは税法上は筆扱い。消せるペンは鉛筆扱い。
京都では平安時代は794年から1945年まで。
「どこがいい?」「先!」「じゃあ私はあと」「やっぱ
分散してたね」「帰省だもんね」
『概念部』シーズン01、これにて完結です。応援いただきありがとうございました。
これより数週間から数か月のお休みを挟んだ後、シーズン02のほうに入っていきたいと思います。できればいわゆる「夏休み期間」が終わるまでには再開したいところです。
シーズンが変わっても基本は同じような感じで進めていく予定です。これからもどうぞよろしくお願いします。
※『概念部』というタイトルが作品の実態を表していないため、シーズン02から変更となる可能性があります。予めご了承ください。内容は変わりません。