Oxygen
ちょっとコメディテイストです。
※何故か後半部分が投稿されていなかったので、修正しました。4/12 12:35修正。
申し訳ございません
「眠い」
「毎日言ってるよね」
今日も見上げればドームから見える地球が青く光ってる。高級な観光地だから、中々行けないけどいつかは行ってみたい。隣りのエリアのお嬢様学校では卒業旅行に地球のフロリダに観光に行ったらしい。羨ましい。
それにしても、眠い。
「それってさー」
「うんー」
「酸素不足だよね」
「あー」
この月のドームの中の酸素はいっつも薄い。ドーム型都市が出来てすぐは、まだ濃い目だったらしいんだけど、なにせ人口がそこからどれだけ増えたのか。確か、昨日の授業でそんな内容やってた様な。眠くてあんまり覚えてないけれど。
「なんかさー」
「うんー」
「胸いっぱいの酸素ーとかさー。憧れるよねー」
「ねー」
横をバタバタと走りながら去っていく年代物のカメラを持ったスーツの男の人を横目に、今日も私たちは気楽な感じでそんな事を呟くのだ。でも、テストとか毎日大変だよ?
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「やっべ。間に合うかな」
今日も朝から取材だというのに寝過ごした。これも眠いのがいけない。高速エレベーターで、地上エリアまで十二分。これが一昔前だったら二倍はかかっていたんだから、文明の進歩というか、道具の進歩はありがたい。地上エリアについてバタバタと走っている俺の横を、欠伸しながら女学生が二人のんびりと歩いていった。
おさげの方の娘が俺を随分と見ていたけど、年代物のカメラが羨ましかったか。地球産の物でデジタルのカメラとは風味が違う写真が撮れるので重宝している。それよりも今は取材だ。俺は流しのエレクトリックカーを使うのも面倒でそのまま走り倒した。
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「おはようございます。ユニバーサルスペースジャーナル、記者のミズコシです」
ベッドでまどろんでいると、ビジターフォンが鳴り来訪者の映像を映してくる。あぁ、そうか今日が取材の日か……。取材!?
慌てて跳ね起きる。寝てる時は裸だから、慌てて着込んでメイクは目元だけ。鏡で全身チェック。全部合わせても五分以内。私ったらやる~。
「お待たせ致しました。どうぞお上がり下さいませ」
よそ行きの声を出して、客間にご案内。
「お忙しい所申し訳ございません。本日はお時間を作って頂き……。早速ですが博士の圧縮効高濃度酸素の研究について伺いたく……」
地球のアジア地域の出身らしく、記者は随分と丁寧な言葉で喋ってくれる。寝不足の頭で聞いていると、低音の響きが耳に心地良くて、うとうとして来る。
「大丈夫ですかジェシカ博士? 珈琲でもお入れしましょうか?」
不意に耳元で響きが聞こえてビクリとする。そちらを見ると本当に心配そうに私を見詰めるミズコシさん。――やだ、結構好みの顔かも……。何コレ頭がクラクラしてきた……これって恋? いやこれは……酸素不足? そして頭の片隅でチラリと何かが光る感じ。
「え、えぇ。大丈夫です。大変失礼致しま……! これだ!」
驚くミズコシさんをそのままに、端末を手元に引っ張ってきて高速で叩き続ける私。部屋着が乱れるも気にしない。頭に浮かんだこれを書き付けてしまわないと。
「あの……博士……?」
「ミズコシさん珈琲をお願い。下から二段目の棚。マグはシンクのやつ洗って。今、まさに、一個、論文が!」
「えぇぇえええ!?」
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「なんかさー」
「うんー」
「最近さー」
「うんー」
空気が美味しいよねーと、いつもの道をいつもの友達と歩いていたら、この前見掛けたカメラを持っている人が、今日も走りながら美女をはべらせていた。
「さぁミズコシさん。もっと走って! 酸素はいっぱいあるから!」
「ジェシカ博士! もう無理です! 苦しいです!」
私たちの横を走り抜けていく二人。博士と呼ばれてた人、この前テレビで見た気がする。何だっけ酸素の研究とかしてる人?
「あれってさー」
「うんー」
「はべらせてるっていうかさー」
「うんー」
「尻に惹かれる?」
「尻に敷かれるだねー」
いいお尻なのは、確かだけど、ちょっと惜しいね。だねーと私たちは喋りながらてくてくと歩いていく。そういえば最近はそんなに眠くないや。
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『ドーム型の都市での慢性的な酸素不足を解消する為、この度ジェシカ・ボードウィン博士は[携帯型高濃度圧縮装置]を開発。
コンパクトかつお手軽に使用出来、余ったら割って中の酸素を吐き出させた後にゴミ箱に捨てるだけでいいという画期的な物。こちらは記者である私がハーフマラソンをいきなり走る事が出来た程の酸素含有量。私自らでも実証済みのこちらは、今後のドーム型都市の生活において限りない可能性を包含しているとここに記したい。
ユニバーサルスペースジャーナル 記者:ミズコシ・カナメ改め、ミズコシ・ボードウィン著』
上司はこの記事の提出と共に結婚させられた、部下のミズコシに若干の同情を禁じ得なかった。何故なら、ジェシカ博士の研究以外のあれこれの酷さは、博士の研究以上に大変有名なものだったからだ。
「まぁ、ああいうしっかりしたやつは、誰かの世話女房しててもいいんじゃないかな」
月面都市は今日も元気に呼吸していた。