愛の手紙
手紙のやり取りという形式で書いております。
若干読みにくい部分もあるかもしれません。
◇宇宙歴3215年12月1日
『惑星L605首相、デミトスです。国民の皆様、耳を傾けて頂きたい。資源採掘衛星の幾つかが、かねてより我が国をライバル視してきた【惑星D102】の軍船により拿捕されました。これは由々しき事態であります。
再三、我々は彼国に公式の謝罪を求めましたが、彼らはことごとく無視し、ここに至り、ついに宣戦布告してきました。
ここにおいて我が国も自国を守る為に正義の戦いを始めるに至りました。彼の傍若無人な敵国に正義の鉄槌を下さないとなりません。国民は一丸となりて……』
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――やぁハンナ。到着してみたら僕も含めてみんながみんな新米だったよ。僕だけがどやされたらどうしようかと思ったけど安心したよ。みんなが不安ながらも陽気に笑おうとしている。大丈夫。僕は生きて、戦争も勝って笑顔で帰るんだ。お土産は何がいいか決めておいてくれよ。
ジョーイより愛を込めて。
――ジョーイ。幸先のいい旅立ちで良かったわ。お隣のメイにも聞いたんだけど、日用品が品薄になるかもしれないって。あなたが帰ってきた時に、お尻が拭けないないなんて事がない様に、ちゃんと揃えておくわよ。お土産は色々と考えておくわね。そちらで手に入るリストを送って欲しい位。愛してるわ。
ハンナより。
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◇宇宙歴3215年12月20日
――我が軍は連戦連勝。死傷者もほとんどいない位だ。むしろ傷を負ったら、前線から下がれるかと思ってたんだけど、医療装置が充実してるお陰でそんなことは無いみたいだ。でも、六歳の頃に二人で木登りして、落ちかけた君を僕がかばってついた傷。あれも丸々治っちゃったよ。名誉の勲章だったんだけどな。僕のこめかみに傷が無くても、間違えないでくれよな。
前線より愛を込めて、ジョーイ。
――ユニバーサルスペースジャーナルで最新情報を読んでいるわ。記事でも感じるけど、あっという間に戦争が終わりそうじゃない? こんな事なら、もう一人家族が増えても良かったわね。ふふふ。こういうのって面と向かうよりもこういう電子手紙の方が言い易いのかも……。電子手紙といっても、音声メッセージが届くからあなたが近くに感じられるわ。それと傷が治っても、あなたはあなたよ。私もちょっと腕の傷治してもらいたい位だわ。昨夜調理中にちょっと切っちゃったのよ。食物合成機器のリース販売が始まったって聞いたけど、この星じゃまだみたい。あなたが帰ってきたら、たんまり稼いだそのお金でいっそ買っちゃうのも手かもしれないわね。
愛してる。ハンナ。
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◇宇宙歴3216年1月9日
――何なんだ一体! 相手側が新兵器を投入したとかで、精鋭のエターナル艦隊が全滅したと噂が流れてきた。この手紙が届いているなら、検閲されてないから大丈夫だと思うけど。でも僕らの間でも不安が広がっているよ。僕は生きて帰りたい。君のベッドの横で、君が入れた珈琲を飲むんだ。僕は死なないよ。愛してる。愛してるよハンナ。
ジョーイ。
――ジョーイ。恐らくそのままの状態で手紙が来ているから大丈夫よ。きっと悪い噂なだけ。大丈夫……。大丈夫よ。あなたがいつ帰ってきてもいいように、珈琲豆は鮮度がいい状態でしっかりと冷凍してるから。最近の冷凍技術は人間だって凍らせて解凍も出来るんだから美味しいわよ。……ごめんなさい。ちょっと不謹慎だったわね。とにかく、いつでもあなたの帰りを待ってるわ。ジョーイ。私もあなたを愛してるわ。
ハンナより。
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◇宇宙歴3216年1月30日
――ねぇジョーイ。三週間も手紙が来ないなんて、きっと大活躍の最中なのね。ユニバーサルスペースジャーナルも、曖昧な内容しか無くて私ちょっと怖いわ。手紙をちょうだい。ねぇジョーイ。大丈夫なのよね。待ってるわ。
ハンナより。
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◇宇宙歴3216年3月30日
――ジョーイ。あれから私はずっと手紙を送ってる。無事に届いていると信じてる。だから、私が待っている事を信じて。あなたの居場所は私がちゃんと、ちゃんと守ってるから、だから……だから……。帰ってきて。あなた。愛しのあなた……。ジョーイ……会いたいわ……。
ハンナより。
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◇宇宙歴3216年5月2日
――今日、軍の方から通達が来たわ。この星も攻撃目標にされるかもしれないって。どうしてただの居住惑星を狙うなんて考えるのかしら。民間人を巻き込むなんて……。ねぇジョーイ。あなたが帰って来たら、新しく買った私の端末に連絡を頂戴。アドレスは……
ハンナ。
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◇宇宙歴3216年10月13日
――大きな山。ほら、あの二人で小さい頃に何度もハイキングしたあのホライズン山。あそこにシェルターを作って、町の人たちみんなで避難する事にしたわ。端末は持ち込めるから、あなたに手紙を送れるし、私も送るから。だから……待ってるわ。
あなたのハンナ。
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◇宇宙歴3305年12月31日
『九十年戦争と名付けられた戦争は、和平交渉が進められ……。
締結後、民間兵は帰還の道を……』
ユニバーサルスペースジャーナル速報
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◇宇宙歴3306年10月9日
――ハンナ……。ハンナ……。あれから改良が進んだ冷凍睡眠装置が導入されて、僕は何度も眠り、目覚め、そして遠い星々で戦った。僕と一緒に民間から兵士になったやつらも随分死んだよ。でも、僕は帰れる。ようやく戦争が終わったんだ。医療装置が無かったら、多分僕だと分からなかったかもしれない。元々の僕の体そのものの場所はもうそんなに残っていないかもしれない。でも、やっと帰れるんだ。でもねハンナ。僕のハンナ。あれから九十年も経ってしまった。君の端末からの手紙も八十年は前に途絶えてる。ああ、ハンナ……。それでも僕はそこに帰るよ。
ジョーイ。
――僕らの家はかけらも残っていなかった。相手軍は本当に惑星に攻撃をしかけやがった。クソッタレだ! 何が正義の戦争だ。僕らは一度だって、民間人を狙ったりなんかしなかったのに。ホライズン山のシェルターだったね。でもね、そこも土砂で埋まってるんだ。ハンナ。君に会いたい。
ジョーイ。
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ジョーイたちと共に無事に惑星へと帰還した若者は、十才程しか歳をとっていなかった。だが、故郷はあまりにも変わっていた。彼らは、帰還した際の宇宙船で星の再開拓をする程の努力をしたという。
だが、良い話もあった。ホライゾン山の土砂の下には強固なシェルターがあり、内部には無事に稼働中の冷凍睡眠装置が彼らを出迎えてくれたのだ。
「あぁ……ハンナ! 君なんだね。手紙じゃない。僕の声だよ」
「ジョーイ……ジョーイなの! あぁ……あぁ……神様……」
『彼らは、急速に進歩してしまった兵器を恐れながらも、同時に急速に進歩した道具によって、無事に生きて再会する事が出来た。それは皮肉だろうか。いや、これも運命という名の神の思し召しであり、愛の成せる業だったのだと、私は後世に語り継ぎたいと強く思うのだ。
ユニバーサルスペースジャーナル。帰還兵の手記より抜粋』