知の図書館
あぁ……お客さんかい? 随分と久し振りの来客で私も戸惑っているよ。実に三十年振りくらいかな。
ん? いやいや、担いでなんかいないさ。ほら、今じゃ冷凍睡眠なんて物もあるだろう? 本当の年齢なんて、みんな曖昧さ。
御託はいいから、資料を見せろって。まぁそうだね。
地球の恐竜の化石から、オベリスクもあるよ。後は君たちの宗教の基礎とも言われそうなグーテンベルク聖書も第683区画まで行けば見られるし。勿論、手作りの羊皮紙のやつだよ。活版印刷の初版もあるけどそっちも見たいなら手袋をつけてね。ここでは風化はしてないけどめくるのは一苦労さ。
後は君たちの住まう月の物だと、アポロが着陸した時の塵とか希少だか何だか分からない物もあるね。初めて作られた都市アポロンの要石も。ん? あの都市は隕石で跡形も無く消え去ったって?
そりゃその寸前に保管したに決まってるじゃないか。当たり前じゃないか。これだから人間ってのは考えが固いんだから。常識でしょ、そんなことは。
さて、閲覧希望の資料どれも見たい場合は、ここの受付から三日程移動にかかるから、そちらの端末できちんと場所なんかも調べてからにしてくれよ。一応案内はするからさ。
何で三日もかかるかって?
そりゃこの星全部が資料保管庫だからさ。徒歩では無理だよ。私も全部見るのは中々大変なんだから。あ、勿論君らの住まう月でもないからね。そこんところよろしく。
あ、そうそう。その端末でも閲覧不可の物は無理に探さないでくれよ。人類には【まだ】早い物もあるからね。
今さら気付いたのかい? 宇宙レベルの新聞を出している割には、まだまだ想像力は無いみたいだね。
この図書館は、アレクサンドリアとも、オリンポスとも、アトランティスとも呼ばれているよ。アカシックレコードとも、言われる事もあるね。
見るかい、君の運命を。そうだね……君の寿命は……。
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昔、自分の上司に聞いた事があったここユニバーサルスペースジャーナル月面本部の資料室。ほとんど人も通らない地下にあるここは、私も今日初めて立ち寄った。
資料が見つからず、とある扉を開いたら目眩がしてどこかへと繋がっていた様な……。気が付いた時には私は倉庫の前で倒れていた。
誰に聞いてもそんな物は噂すら知らず、私が疲れていただけだろうと結論付けられてしまった。
ただ一人、例の上司だけは一言。
「今度は君の番か……。こっそりと引き継いでおくれ……」
必要があれば、常に一人だけそこに行けるとのことだった。こんな宇宙時代に面妖な事だった。でも、便利過ぎる……。