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銀河アベニュー拾八番地

星屑のレストランは、ながるさん(https://mypage.syosetu.com/1018934/)の作品「https://ncode.syosetu.com/n2142ek/」よりアイディアを頂きました。御本人の許諾を得ております。改めて感謝を。

「パンジー、そっち行った分は任せたー!」

「はーい。あ、弾いた分に気を付けて下さいね、カミラさん」


 二人が跳ねる様に移動しながら捌いていく後ろで、先ほどから延々と悲鳴を上げている妙齢の女性が一人。本当に危ない時はトラストが素早く動いて弾いているが、定期的に飛んでくる鱗やら何やらを【目視】で弾くという無茶苦茶な事に常人が慣れる事は中々難しい。


 依頼者でありながらカミラは本気で後悔し始めていた。


「食べたいなんて言うんじゃ無かった〜!」




   **********




「あー……食材そろそろ尽きるなぁ」


 寝起きの御飯の支度をと布製のエプロンを巻きながら食材低温保存庫を覗いたドボルベルクがぼそりと呟く。本来は腰だけのいわゆるカフェエプロンだったのが、今の身長では普通のエプロンになってしまっている。いつの間にかすっかり綺麗な赤い色に戻った髪の毛は、肩甲骨に届く位まで長くなっているのを面倒なので適当に後ろで縛ってまとめている。


『レディ。いい加減、食物合成機器の購入を検討してはいかがかな?』


 真上の船内スピーカーから聴こえて来る”お父様”の声――この船のメインコンピューターでもある――に、保存庫を見たままの姿勢でドボルベルクは丁寧に答える。


「購入となると本体価格だけで戦闘用の船が一隻買える。リース使用……賃貸しにすると、月々に払う金額で一年使えば地球に住める位になる。中古品は大体がとんでもないデータが詰めてあって、味付けも無茶苦茶。つまり、導入は大変難しいのです。おーけぃ? お父様」


 実は何度か話題にもなっていた話なのだが、丁寧に調べた結果が酷すぎて断念したのだった。


 【食物合成機器】は、データを入れればこの世のどんな食事でも再現可能とうたわれている。それは原料の【食物原子】だけで食事が作れる優れものだ。

 温かい物も、冷たい物も、さらには稀少な食材を使った料理も、原料の食物原子さえあればボタン一つで作り放題食べ放題。連日、銀河ニュースネットワークの宣伝動画も流れるし、ユニバーサリースペースジャーナルが筆頭株主でもある為、専用コラムまであるという。ちなみにそのコラムは、パンジーことパンドラと”お父様”が愛読している。


「おはよードボちゃん。なになに!? ついに購入しちゃうの!?」

「しーまーせーん」


 そんなやり取りをしながら、ありあわせの物で簡単なサンドイッチを作ってしまう辺り、実はドボルベルクかなり手慣れている。食べながらも食物合成機器の導入にわいわいと盛り上がっている船内に、外部からの連絡を報せる音が鳴り響く。


『仕事の依頼の様だレディ。モニターを繋いでよいかな』

「食物合成機器!」

「かーいーまーせーん」


 居住まいを正したドボルベルクが、外部会話用のモニターの前に座って頷くと”お父様”が通信を繋ぐ。そこに映った人物を見て、パンジーと”お父様”が叫び声を上げる。


「ユニバーサルスペースジャーナル、毎月の銀河のグルメコラム担当! カミラ・レッカー様!」

『先月のコラム、惑星エスペラントの味わい彩り御膳の記事! あれは文字だけで食べた気になる程の最高のものであった!』


 思わずトラストが(いなな)いて止める程の盛り上がりに、画面の向こうの相手――カミラ氏は、わたわたとしながら答えたのだった。


『えっと……あ……、自己紹介は必要なさそうね……。ご紹介にあずかりましたカミラ・レッカーでございます』




 銀河でも屈指のグルメ食材【パララポレレプラプトン】。それを調理し食べる所までを詳細にレポートしたく【護衛】を依頼したいとの事。以前運び屋以外にも仕事を増やすかと一度だけドボルベルクが出したお仕事募集を見たらしい。


「でもなんでグルメレポで【護衛】が必要なんだ?」

『まず依頼の為に簡単にパララポレレプラプトンについてまとめた資料を送るから、読んでもらってからお仕事検討して頂いてもいいかしら。あれね、鮮度がいいと撃つのよ』

「うつ?」

『撃つ』


 頭を「はてな」にしている一行の元、届いた資料を展開した”お父様”が頭を抱えた様な声を出す。


『これはまた……難易度が高過ぎる。普通は依頼を受けないであろうな』

「えーって……これ生死問わずってやつ……?」


 しかし、依頼の内容の報酬を見たドボルベルクは、しばし茫然とした後に報酬を指差すと依頼を即決したのだった。


【成功報酬として、報酬とは別に食物合成機器を進呈】




   **********




 待ち合わせの中継ステーションにて合流した一行。カフェで優雅にお茶しているカミラ女史が気付いて声をかける。


「ハーイ、私がカミラさんですよ」

「依頼を受けたドボルベルクだ。こっちはパンジーとトラストだ」


 何故馬がいるのかと(いぶか)しげなカミラ氏。馬くらい宇宙にいるだろうと、あまりにも平然とした態度でいられた為、そういうものかと納得して話を進める。


「惑星アクアリウム。その名の通り水槽と名付けられただけあって、海産物が豊富な惑星よ。大半が研究施設になっているのはこのパララポレレプラプトンのせいなの」


 なんでもパララポレレプラプトンという生物は凶暴極まりなく、自然に繁殖した生物だというのに独自に進化した水晶体から、光を収束させてレーザーと思しき攻撃を行う。また、縄張り意識が非常に強く自分よりも大きな生物を駆逐したがるというトンデモな生態なのだ。攻撃性が非常に高い生物だが鮮度が高い状態で食べると味もトンデモなく美味であり【命は惜しいがレプラプトン食いたし】という名言まであるという。


「迷言じゃないのか……それ」

『一部に住まう部族では、成人の儀式に使う等とも言われているらしいが、確かに始めに生で食べた者は勇者であっただろうな』

「そそ。という訳で、限り無く生で食べてみたいのだけど、どれだけ報酬をつり上げても誰も依頼を受けてくれなくて、駄目元で見つけた依頼板にお願いしたら貴女達だったという訳。こんなに可愛らしいお嬢さんたちだとは思わなかったのだけど、本当に大丈夫?」


 説明の後に背丈の低いドボルベルクの目線に合わせしゃがみながら質問するカミラ氏に、しっかりと目を見て答える。


「荒事も慣れてるしな。そっちこそ【食物合成機器の最新版】頼むぞ」

「無事に依頼が完遂したら、数年分の食物原子だってつけちゃうわ」




   **********




 惑星アクアリウム近郊に亜空間転送で移動し、惑星軌道から停泊ドックも兼ねている研究施設に船を停めると、いつもの輸送船の中からさらに小型の船を出して釣りポイントへ向かう。研究所のスタッフも慣れているのか特に止める様な事はしない。どこかの金持ちが道楽で来たのだろう程度の反応であった。

 事前に”お父様”が在り合わせの材料でレーザー対策の装甲を作り、護身用に船に置いてあったビームピストルも改造され貫通性を高めてある。


「まずは一匹倒してみるか。カミラさん、危なかったら船内に逃げてくれよ。パンジー、最悪な時は”ダイサン”で吸っちゃって。ただ極力使わない方向で」


 二人とその横で控える一頭が頷いたのを見て、明らかに装飾過多な面頬を下ろし、盾(対レーザー装甲)を構え、その隙間からビームピストルを構えるドボルベルク。地球の中世時代の板金鎧(プレートアーマー)にしか見えないのは”お父様”の趣味である。

 水面から少し浮かせた船体から身を乗り出すと水中に見えた影に一発お見舞いする。通常は水で減衰するはずのビームが何かに命中し水面が揺れる。


「来たか?」


 激しい水飛沫を上げて飛び出したのは、頭だけでも船の半分近くもある映像作品等で見かけるモンスター。――いわゆる首長竜。


「カミラさん、こんな見た目のやつだっけ?」

「間違い間違い! 逃げてー。それも美味しいけど違うからー!」


 慌てて水面から上昇した船体の下を、大きな尻尾が薙いでいった。




 その後も、巨大な鮫にトラストが食われかけ、群体の魚に船ごと流されかけ、巨大な蛸や烏賊に触手攻撃を食らいネバネバにされ……et cetera(エトセトラ)……。

 沢山の海洋生物に襲われながらようやく目当てのパララポレレプラプトンを見つけたのは、この惑星の陽が沈み始めた頃だった。


「なんでもいいから早く食わせろー! もういい。烏賊とか蛸とか取ってくる、この際尻尾だけ切って食べる!」

「待って待って、ドボちゃん来るよ!」


 パンジーが指差した先、一行が休憩していた浅瀬の近くの水面が突如盛り上がると何かが大量に跳ね上がる。そして夜空に向かって放たれる光線。


「夜行性ってどこにも書いてなかったわよ!」

『これが現場と資料の違いというものであるな……』

「のんきに話してる場合かよ! 光線こっちに角度変えたぞ!」


 惑星アクアリウムの衛星である月に向かっていた光線が、角度を変えて一行の船へと向かってくる。空中に飛び上がって回避するにも時間が無い。パンジーは前に出ると、両手を前に突きだし叫ぶ。


「非常事態だからリミッター解除! 唸れ、ダイサン!」


 パンジーの手の先から放たれる、光ですら全て内向きに落下させる力。全てを吸い込む暗黒の玉が広がる。発生した極小のブラックホールにパララポレレプラプトンから放たれた大量の光線が集中し飲み込まれていく。


「いいぞ! パンジーもう止めていいぞ」

「あれ、久々にフルパワーだから、加減が、あれ……あれ……? むしろ何かあれと干渉してる!? 止まらないんだけど!」

『いかん! 皆、近くにあるものに掴まれ!』


 一度大きく広がったブラックホールが収束するが、船が入るには充分なサイズでしばし停滞。大丈夫かと一行が安心したした途端に一気にそれは巨大化。一瞬で小型の船は丸々飲み込まれた。

 少ししてブラックホールは跡形も無く消滅。後には静かな水面のみ残っていた。




   **********




「いらっしゃいませ」

「え?」


 誰かに話しかけられてドボルベルクが目を開くと、そこは洒落たレストランのテーブルだった。パンドラは首に”お父様”入りの端末をかけて、カミラ氏と共にテーブルに突っ伏している。トラストもテーブルの横で立ったまま寝ている。慌ててドボルベルクが皆を起こして回る。


「え、何ここ」

「なんかさっき凄い事になってたわよね?」

『酸素濃度問題無し。生命維持にも問題は無いようだが、ここは一体……』


 一行が目覚めたのを確認して改めて声をかけてきた一人の男性。物静かな気配ながらも捉えどころの無い不思議な雰囲気を醸している。


「星屑のレストランへようこそいらっしゃいました。ここは、ふとした拍子に訪れる場所なのです。ご注文はいかがなさいますか?」


 そう言って渡されたメニューには、星屑のレストランの名前に相応しく、銀河の名前を冠した料理名がずらりと並ぶ。


「嘘、ブラックホールって食べられるの!?」

「ちょっと待って! ユニバーサルスペースジャーナルでも載った事が無い料理の数々! 私、大手柄じゃないの!」


 はしゃぐカミラ氏に、驚愕のパンドラ。


『まぁ……私はこの身体では楽しめはしないが雰囲気を味わうとするか。トラストも適当に草でも貰うといい』

「銀河高原牧場の特製乾草に、スペースアルファルファのミモザサラダはいかかでしょう。またそちらの方には深みあるsourceインフォメーションソースも人気の逸品でございます。体が無くても味わえる逸品でございますよ」


 その言葉に一人と一頭は歓喜する。その横で静かにメニュー表を眺めていたドボルベルクは、一つ気になったメニューについて尋ねる。


「お目が高い。ミルキーウェイ(天の川銀河)のスープは、飲んだ方が一番愛しいと思うものに会えると噂の逸品でございます」


 自分が一番愛しく感じるものはなんなのか、考えた事も無かったけれど、心惹かれて注文をお願いする。

 各々の注文が終わり、出された水を飲んでようやく人心地ついて辺りを見渡すと、静かなざわめきで満たされているのを感じる。離れたテーブルに色々な客がいるのが見てとれる。何故か黒猫と食事をしている女性は、まるで会話が出来るかの様に語らいながら食事をしている。時々「な!」と猫がたしなめる様な声を上げているからやはり会話が出来ているのかもしれない。また、別のテーブルでは男女が数名抑えた声で談笑している。


「ハッブルさんは、あれを見たのですか?」

「ああ……あれは最高だった」


 と、片眼鏡をかけた年配の男性が横にいるかなり幼い女性に答え、そして青年が熱心に頷く。


「はやぶさちゃんも見ただろう? あの輝きを。あれは至高だよ」

「カッシーニさんも凄い経験してましたしね」


 どこかで聞いた様な名前だと”お父様”が呟く。パンドラとカミラ氏が窓の外の見たこともない星々に目を奪われる中、優雅な所作でテーブルに料理が運ばれてくる。

 前菜に筍の様に並べられたのは、ほうき星のサラダとアンタレスの火で炙った宇宙鳩のソテー。アンティパストに出て来たのはまさかのパララポレレプラプトンの刺身。


「お刺身で食べられるなんてっ!? 厨房でどれだけ戦ったのかしら!」

「パララポレレプラプトンは、実は暗黒物質(ダークマター)の粉末を少しかけてやると、攻撃行動をしなくなるのですよ」


 すぐさまメモを取るカミラ氏に、ただし暗黒物質の粉末化は当店でしか出来ませんとやんわりと釘を刺される。そしてサービスですと提供されたスパークリングワインにしか見えない飲み物は白色矮星の気泡入りのドリンク。飲む端から口の中に新しい感触が生まれて楽しめる。


「一口毎に味も感触も違うよ!」

『何やら新たな発明が生まれそうであるな』


 いつのまにやら”お父様”も端子からコードが伸びていて味わえているらしい。横ではトラストが大量のサラダをむさぼる様に食べている。そして落ち着いた頃合いにメインディッシュ。


キャンサー(蟹座)で採れ立ての新鮮なシュリンプを太陽の直火で焼き上げ、バラ星雲の星屑をあしらった当店自慢の一品でございます」


 一尾で人の顔ほどもありそうなそれは、丁寧に火が通されフォークでつつくだけで殻から身が踊り出す。その身は純白ながら香ばしく、口に入れれば跳ねそうな程の弾力。一口噛めば豊潤な味が滲み出し、バラ星雲の星屑がくどくなりそうなそれを爽やかに昇華させる。

 一行が感想を述べる暇も無い程に食べ進め、満足の吐息を上げる頃にはデザートが並べられる。パンドラが注文したブラックホールタルトの他にも、土星のリングのアイスクリームや、ホワイトホールのシュークリーム等がテーブルに並べられ舌鼓。


「本日はプレアデス星団の星屑をイタリアンロースト(極深炒り)して時間をかけて水出しした珈琲と、そちらのお客様にはミルキーウェイ(天の川銀河)のスープでございます」

「俺だけデザートと一緒?」


 いぶかしがるドボルベルクに、男性は柔らかく微笑んで答える。意識が飛ぶほどのお味ですからと。

 それは一口食べてその意味を理解した。喉をスープが通過していく感覚の中、ドボルベルクは目の前がするりと暗くなったのを感じた。だがそれは不安の無い優しい暗闇だった。




   **********




 気付けばそこは病院の様な施設。左右に広がるのは生まれたばかりの赤子が眠るベッドの群れ。――新生児室だ。

 沢山の名前の中で【薔薇の名前】を関する子供の前でドボルベルクは足を止める。それは愛らしい女の子。ただどこかで見た事がある。その既視感を確かめようと手を伸ばしたドボルベルクをすり抜けて一人の女性がその前に立つ。


『私の可愛い薔薇のつぼみ』


 その柔らかく微笑んだ表情は、恐らくその赤子の母なのだろう。そこでドボルベルクは気付く。その女性と赤子は、鏡で見た今の自らの姿にとても似ているのだという事に。

 思わず声をかけようとした所で、ノイズの様な物が走り辺りには誰もいなくなる。気付くと赤ん坊は少し大きくなっていた。そこへやってくる白衣の男性が二人。


『これがそうか』

『はい。()の者の力を引き継いだハイブリッドならば、よい結果は出せるかと試算されております』


 その言葉に鷹揚に頷いた一人は、当然の様に赤ん坊を中から連れ出すとどこかへと去っていく。ただ遠くから「我らの幸福の義務の為だ」と音を残しながら。


 暫し後に、先の女性がやってきたが赤ん坊がいない事に気付いて半狂乱になる。


『私のローザ! 私の可愛いローザが!』


 意識を失い倒れた女性を男性が飛び出してきて支える。それはドボルベルクも知っているあの俳優。ただし、かなり若い。俳優が医師を呼び、辺りは騒然となる中で、またノイズが走る。




『見込み違いか? 女だから力が発揮出来ないだろうか』


 場所が変わって、ドボルベルクもどこか見慣れたあの孤児院という名の研究施設。成長した赤ん坊だろう女の子が沢山の実験をされている。体力の計測、脳波の計測。女の子は常に泣きはらした顔だ。


『主任。いっそ男に変えてしまいましょうか』


 いつぞやの白衣の男性は、何やら黒い球根を持って入って来る。それを見て主任と呼ばれた男はほんのわずかだけ思案した後にGOサインを出す。


『いいだろう。研究の余地がある植物だが……【我々の願い】を叶えてくれるだろう。幸福は義務だ』


 計測の結果が芳しくなく研究員に女の子は叱責され泣き出す。そこに迫る黒き球根はとてつもなく禍々しく映る。部屋が違うからか悲鳴は聞こえない。ただ良からぬ物が近づくのは分かる。


『我々の幸福の為だ。我らが望む様になって頂く』


 悲鳴を上げる女の子に球根が近付く。ドボルベルクは本能的に見てはならないと目を背けたい。だが、身体が動かない。ドボルベルクと女の子の悲鳴が重なる。




 ――ダイジョウブ。カナラズ、アナタガ、”ノゾム”ヨウニナル。イマハ、スコシガマンシテ――


 遠くから聞こえたその声は誰だったのだろうか。長い黒髪の女性が一瞬見えて優しく声をかけてくる。


 ――この種は、球根は、宇宙の希望を吸って育つ。必ず願いは叶う。でも、私はそんな物を放って良かったのかしら。月姫が、あの娘がここにいたら私を怒るかしら。でも、私は人類に希望を届けたかった……。


 その種は、永い時を越えて、いつか大きくなった男性の体のドボルベルクの元にやってきた。そして”本来あるべき姿”に戻した。今のこの女の子の姿に。


 ――ああ、あれは俺だったのか。俺はこの俺でいいんだ。




「ドボちゃん寝ちゃったね」

『安らかな、何かを悟った様な顔であるな』

「白色矮星のスパークリングお代わりー!」


 静かにテーブルに突っ伏して眠りこけるドボルベルク。それを静かに見守る一行。出来上がるカミラ氏。夜は更けていく。

 皆が、もういいと満足だと思った時、気付けばここから元の宇宙に帰る。ここはそういう場所なのだ。また新たなお客が到着するのがぼんやりと見え、外は新たな星が誕生し、それでも静かな喧騒の中レストランは運営していく。

「カミラさんに貰った食物合成機器。本当に最新版なんだなー。珈琲の好みも選べるし、ウパルパ珈琲まで入ってるぞ」


 備え付けられた食物合成機器で盛り上がる中で通信が入る。あの俳優からだ。ドボルベルクは嬉しそうに自室へいそいそと向かう。話す事は沢山ある。二人の溝を埋めるには、まだまだ語るべき事は沢山あるのだ。



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