銀河のお食事会。ある日の戦闘機内にて。
「ではアイーダ。このパララポレレプラプトン定食とやらの説明をして欲しい」
ニコライはコクピットから隣のスペースへと移動しながら自身の戦闘機に搭載されている『人工知能アイーダ』に、本日の献立をたずねた。
戦闘機といえどもサイズは中々のもの。数々の便利な機器も備わっており、単独での長期の航行を想定し最新鋭の食物合成機器までもついている。データさえあれば、この世のどんな食事でも再現が可能というそれは、地球暦の二十一世紀に開発された3Dプリンターなる物に似ているそうだが、温かさや鮮度等をも再現可能な為、利便性は非常に増していると思われる。
かつては王公貴族しか食べる事が出来なかった晩餐も、一番美味しい状態で味わう事も出来るのだ。
寝室であり食堂でもある小さな部屋に到着し(大した距離ではないが)ニコライはワクワクと待っていた。なるべく自身が食べた事が無い物をリストアップしてもらう。そこはアイーダに任せているからこそ期待が上がる。
『まず見た目等は魚料理に類似しています。プルプルとした皮の食感。あっさりとしながら、どこか上品な味わいがなんとも言い難い。かつてはこれを食べられるならば命を天秤にかけても惜しくはないとまで言われた逸品……と、ユニバーサルスペースジャーナルのグルメコラムで絶賛されていました』
あの宇宙的に有名な新聞社が推すのだ。どれほど美味しいのかニコライの期待はさらに高まる。だがニコライは食卓になるテーブルに置かれた物を見つけアイーダに問い掛ける。
「テーブルの上に光線銃と、高周波ブレードが用意してあるのだが……」
『調理器具です』
「なんでゴーグルと、前面装甲型前掛けがあるんだ……?」
『何やら跳ねるそうです。では、ご武運を』
何やら不吉な言葉にニコライが聞き返そうと声を上げた瞬間、テーブルの上の皿へと光が当たり物質が固定化する。だが……
「ちょっと待て! なんでこいつこんなに動いているんだ!?」
『鮮度が高い状態で再生致しました。美味しいそうです』
「おい、こいつなんかこっち見て目が光ってるぞ!?」
『活きがいい証拠だそうです。早く眉間を光線銃で撃ち抜いて下さい』
「うわ、なんかこれレーザー的なの撃ってきたぞ!? おいこれ食えるのか!?」
「前面装甲型前掛けできちんと防いで下さい。なお、船体に傷がつかないようにお願いします」
『無茶言いやがって! 絶対これ調理していないだろぉ!?』
暴れまわる魚状の謎の生物と一時間近くの格闘の末、高周波ブレードで切り分け、ニコライは食事にありつく事が出来た。疲労困憊の体だが、一口含めば疲労が吹き飛ぶ。口の中でさらりと溶け、それでいていつまでも食べたくなる蛋白な味わい。いつの間にか用意されていた黒いさらりとした豆由来のソースに付ければさらに味わい深くなる。そして味が良ければ良いほどに、ニコライは別の疲労が増していくのを感じた。
「嘘だろ……。なんでこんなに美味しいんだよ……」
『やはり信用出来る記事だった様で何よりです。なお、どこかの地域では成人の儀にこれを食べられるかどうかで今後の人生が決まるとの記載もありました』
「命がけじゃないか!?」
ニコライは、今後は自分でメニューを選ぶことを心に誓ったのであった。
ユーザー企画、妄想お食事会に掲載した物を加筆して掲載しております。