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Girl with a glow

◆過去の回想

◇現在の時系列

と、今回は念の為分けております。

「照会コード8BS308。月姫那由多(つきひめなゆた)です。先日連絡した通り、この先で発見された遺跡内の調査並びに解読に参りました。こちらが許可証です」


 きちんと先に連絡をして取り寄せたIDプレートと、今どき時代遅れどころか貴重な紙を使った書類を掲げ、私の顔写真と共に新市街地を封鎖している受付の男性に見せる。だが……


「嬢ちゃん。遊びじゃねぇんだ。地球の学生はさっさと月の石でも拾って(けぇ)んな」

「正式な物ですよ? ちゃんと見て下さい」


 問答をしても見た目だけで判断されてしまう。確かに私はティーエイジャーにしか見えない。出来るだけそうは見えない様に、研究者然とした恰好の白衣だ。それでもまさか書面を突きつけても頭から信じてもらえないとは……。こんな時に成長しない自らの身体に溜め息が出る。母から貰った大事な身体なのだけど。


「ともかく今は取り込み中だ。何やら地面に大穴開いたとかで全面立ち入り禁止。月政府からの命令だ。俺たち工事の人間も入れない。そういうこった。諦めな」


 やけに態度が悪いと思ったら、役所の人間では無かった様だ。私は溜め息をつくと低重力で浮き上がり気味の体と長い髪を落ち着けながら、市街地へと引き返した。







 ――もと光る竹なむ一筋ありける。


 老人が見付けたのは竹林の中で異彩を放つ銀色をした円筒であった。蒸気を上げ光沢があるそれに老人が恐る恐る近付くと、それは中からひとりでに開いた。

 そこには一人の赤子の姿。こんな所に置き去りにしてはいけないと、老人は慌てて連れ帰ると妻と共に育てた。







 さて……どうしたものか。長く待っていた地球から月への航路も安定し、あの人の手がかりと思しき物が見付かったというのに。ここまで来て私は何も出来ないのだろうか……。ここ二千年近く無駄だったのだろうか……。

 私はいつも見上げていた月ではなく地球を見上げると溜め息をついた。とりあえず今日の宿を確保しなくては。こんな身体でも疲れる物は疲れるし、眠いものは眠いのだ。腰程もある髪の毛も、ここ月の低重力ではうまくなびかない。宿についたら少し結んでおこう。母の様に流しておくのが好きなのだけれど。







「……活性酵素注入。さぁ眼をお開けなさい」


 私が初めに聞いたのはこの言葉だった。水の中から見上げた先にいた女性は、とても柔らかく微笑んだ。


「私は、なよたけ。あなたを産み出せし者よ」


 母は自分では一度も母とは名乗らなかった。




「私に求婚をするから欲しい物を伝えたというのに、どれも偽物だなんて……」


 母は人払いをした部屋で泣き崩れる。私は透明な水が入った容器から必死に飛び出すと母を抱き締める。泣かなくていい。私がいるから。


「あなた……動ける様になったのね」

「……うん」


 さらに喋った私を持ち上げると、母はとても嬉しそうに笑った。


「私の理論は間違っていなかった!」







 ホテルでのやり取りもやはりだった。わざわざ長い休眠から目覚めてから学位まで取った本物の博士の証明書。それを見せても保護者はどこかと聞かれる始末。宇宙世紀になったというのに、人類は本当にこういう部分は進歩しない。これは野宿でもするしかないのかと頭を悩ませていると、ロビーにいた男性が声をかけてきた。


「おや、月姫博士じゃないか。君もここのホテルにしたのかい?」

「スメラギ博士お知り合いですか?」


 受付の者が目を丸くする。同期の博士過程で出会ったスメラギ博士。確か彼もこの調査で許可を取っていた気がする……。私を馬鹿にしない珍しい人間なのだが、すぐに頭を撫でてくるのはごめんこうむりたい。しかし、こういった時に成人男性はありがたい。速やかに話しをつけてくれ、私はようやく温かなベッドにありつく事が出来た。







「まさか帝まで求婚に来るなんて……」

「かか様、みかど、きらい?」


 私の言葉に、着物の裾をきちんと捌き目線を合わせると母は答える。


「好き嫌いではないわ……。私はもうすぐ来る追っ手に対抗しなければならないの……。巻き込む訳にはいかないのよ」


 目に力が溢れていた。先日連れていかれたあの光る竹。そこで何やら紙に残らない文をもらってから、母は日毎に私に物事を教えつつ、必死に何かを行っていた。時間が無いと呟きながら。




「かぐや姫をお守りしろ!」

「しかし、力が……」


 ついに来てしまった追っ手たち。帝の連れてきた屈強な男たちも為す術は無い。今なら分かる。技術力が違い過ぎる。対抗出来る訳が無い。

 母は私にあの光る竹に向かう様に伝え、不甲斐ない産み出せし者で済まないと謝罪すると、真夜中なのに昼間の様に光る外へ向かおうとする。


「待って! かか様! 私も行く! かか様ともっといたい。もっと沢山の事を教えて!」


 母は足を止めると振り返らずに、ただ一言「ごめんね」とだけ呟くと光に飲まれていった。


「かか様! 行っちゃやだ! かか様!」







「かか様!」


 飛び起きた私は一瞬自分がどこにいるか分からなかった。しばらく夢と(うつつ)をさまよいながら、ようやく自分が月のホテルに宿泊していた事を思い出す。ここには私の第二の親ともいえるあのロケット搭載のメインコンピューターはない。状況把握は毎回きちんと私自身が行わなければならない。


 あの時から私は死ななかった。死ねなかった。


 あの母が連れていかれた日。人々の記憶は操作され、あれは全て絵空事として処理された。私は以前教えられた光る竹――母が母星より脱出に使ったロケットに入っていた為無事だった。

 母は研究者だった。母星の為に不老不死の技術を発見したものの、既に老いきった権力者たちに悪用される事を恐れて脱出。自らにその研究段階の方法の一つである若返り処置を施し、宇宙を旅して来たのだった。

 優しい老人夫婦に助けられ、一度赤子にまでなった身体から少しずつ自分を取り戻し成長したまでは良かった。だが追っ手に発見され、その技術の粋を集めた研究結果全ては隠しきれず、母星の月へ強制的に連れて行かれたのだった。


 眠気を払う為にシャワーを浴び、備え付けの鏡越しの私の姿に目を合わせる。足に魚の鱗じみた皮膚が並んでいる。水中で呼吸が可能であり、遺伝子の細胞の分裂回数の限界を決めるテロメアが無限大となった……人魚。それが私だ。人類種・哺乳類の母ともいえる海でそのまま進化した者なら、何かが変わるのではないかという母の理論で作られた私。

 多少怪我をしても治癒するし、腕が切り落とされても時間がかかるが再生もする。ただ私の本体である脳が完全に破壊されれば活動は停止すると思われる。通常の人類には重篤な状態でも私には怪我という扱い。基本的には不死・不老ともいえる。未完成の研究だった様で人類に似た容姿ながらも、服を脱げば似て非なるもの。世界中をめぐる中で、何度か目撃されてしまっていたらしい。あちこちで文献に残されてしまった。


 故郷ともいえる日ノ本の国は動乱が絶えなかった。巻き込まれない様に私は母が残してくれたロケットで定期的に休眠し、そして残された技術を必死に学び、地球上をくまなく探した。母が求めていたものを。


 ファイアマウス(火鼠)スキン()は強力な耐久力の宇宙服の素材に。


 白銀を根に、黄金を茎に、そして白玉を実とするレアメタル産出の機構を兼ね備えた植物は宇宙船の外装の強化素材に。


 遥か深海にいた巨大な生物が核にしていた五色に光る玉は、ロケットの強力なエネルギー源に。


 渡り鳥が使う地磁気を感じ取れる石は、揺らぐ事の無い羅針盤に。


 どれだけ座っていても疲れないという石は、上質なコクピットの建材に。


 あの時代の人間に手に入るはずは無かった……。そして私は待った。人類が宇宙に進出し、月に入植し、情報を手に入れるだろう時を。きっと母は私の為に足跡を残してくれると信じて……。




「月姫博士。よく眠れたかな」

「月姫でいいです。スメラギ博士」


 ホテルの喫茶店で、まるで私が来るのを待っていたかの様に優雅に珈琲を飲んでいたスメラギ博士はカップを上げて挨拶する。


「僕もスメラギでいい。月姫君」


 呼び捨てや博士呼びよりはましだと私は頷いて対面の席へ。モーニングメニューという名の全時間やっているメニューを頼む。目を上げれば彼が読んでいるユニバーサルスペースジャーナルが目に入る。わざわざ紙版という豪華さだ。大見出しでいくつも記事が掲載されている


【人類以前の遺跡か! 月に謎の碑石発見さるる!】

【月に第一の都市が完成して二十年。第二の都市の開発中に、工事現場で巨大な穴を発見。工事は中断。内部には見たことも無い文字の様な物も刻まれていたという……】


 やはり話題になってしまっている。私が調べた時は、小さなネットワーク上の記事だけだったというのに……。ユニバーサルスペースジャーナルめ。

 私が紙を睨んでいると、さっきの注文した料理が届き私を現実に立ち返らせる。私が食べ終えるのを待って、スメラギ博士は持っていた紙の新聞を閉じると、では行こうかと声をかけてきた。


「僕も許可を取ってわざわざ月まで来たのに立ち往生だよ。どうやら本格的に封鎖したいらしいね政府は。ただ、幾つか手は打ってある。勿論来るだろう?」


 是非も無しと、私は急いで支度した。




「では、参りますね。いや、こっちの方面ではツテは無くて本当に助かりましたよ。しかも! 聞けばお二人とも言語関係に大変お詳しいとか。いや、ありがたい」


 明るい声で話すユニバーサルスペースジャーナルの社員モロゾフ氏。大柄で目つきも鋭く手入れされていないヒゲだらけの顔と、一般人(カタギ)には見えない雰囲気だ。結局、私が情報を入手して月へ来るまでの間に、あの場所の情報を独占したい政府が立ち入りを禁止。過去の遺物どころか施設までも見付かったという事で、急遽外部の調査機関を締め出したらしい。それでもどうしても情報(とくダネ)が欲しいモロゾフ氏は、工事関係者を巻き込み、どうにか強引に開発中の市街地へと入る方法を聞き出したそうだ。そして今私たちは車上の人となっている。


 ドームが直接繋がってはいない為、電動中型車(エレキワゴン)で外部から現場へと大回りして向かっている。岩と砂しかない世界の月の夜の中、流れていく景色は変化も無くだんだん眠くなってくる。


「寝ていても構わないよ月姫君。着いたら起こすから」


 その言葉に甘えて静かに目を閉じる。モロゾフ氏の低音と、スメラギ氏のそれよりは少し高い声が、波の音の様に私を眠りに誘った。意識が落ちる前に、お子様は眠いのだろうという失礼な声が聞こえた気がした。




 開発中の新市街地ドームの非常用外部ハッチから静かに侵入する。念の為三人共宇宙服を着込みエアロックを抜ける。私のだけはわざわざ子供用の小さいサイズだ。


「酸素は充填されてますな……。オーケイです。ヘルメットは外して大丈夫です」

「やはり地球で暮らしてると、慣れないね」

「我々月の人間でも、ヘルメットは苦しいもんですよ」


 軽口を叩きながら進む二人の後ろからついていきながら私は景色に見惚れる。建造中の建物が幾つも乱立し、公園だろう広場や、大きなドームも幾つか並んでいる。見上げれば半透明の天井が星の光を静かに取り込んで光っている。誰かが住む為の場所で誰もいないというのは何故どこか物悲しいのだろう。戦乱の後の廃墟とは別の静けさが胸に来る。まだ重力制御もあまりされておらず、私たちは若干跳ねようとする体を抑えながら、問題の遺跡部分へと向かった。


「特に監視も無いようですな」

「電子関連での監視は大丈夫かね」


 念の為に撹乱電波を出しますと何やら操作をするモロゾフ氏。手慣れ過ぎていて妙に怪しいが今は助かる。私たちは地下へと繋がるぽっかりと空いた穴にゆっくりと侵入した。




「何だここは……」


 二人にはきっと見慣れないものたちが私には懐かしい気配。間違いなくここは母の研究所だ。私が地球に隠してあるロケットよりもかなり進歩しているけれど、設計思想は同じだと思われる。降り立った穴から左右に長く伸びている通路は滑走路だろうか。使用してからかなりの時間が経過しているのが分かる。モロゾフ氏が大発見だと大騒ぎしている間に、管制室と思しき場所を発見し中へ。セキュリティが生きているのか封鎖されているけれど、サッと私の身体をスキャンの光が走ると扉が開く。まさか……!


『識別ナンバー001。最愛の娘と確認。ゲートOPEN』

 

 その音声に胸がドキドキして視界が歪む。母は分かっていた。私が来るのを分かっていたんだ。


「大発見だが、人類に渡して大丈夫かな」


 振り返ると、モロゾフ氏を置いたまま当たり前のようにスメラギ博士がやって来る。思わず追い出そうとするその前に部屋の真ん中にホログラムが浮き上がる。母の、なよたけの姿だ。少しやつれただろうか、それでもあの決意した強い目でこちらを見つめている。


『そこにいるのは、私の娘、那由多と……きっとあなたでしょうね……帝』


 驚いて振り返る私に、スメラギ博士――帝は、頷きながらひどく淡い顔で母を見つめている。


『この星に住まう我々は退去が決まりました。地球の様に戦乱もあり……私たちはここを汚染し過ぎました。生が長ければ良いというものではやはり無かったのです……』


 憂いに満ちた顔は、あまりにも苦しそうで、私は必死に抱きしめようと手を伸ばして、それが揺らめくのを感じて呻く。――ここにはもう、いないのだ。ずっと昔に。


『出来るだけ必要な物はこの部屋に集約してあります。今後もし何かあれば……』


「うぉぉ凄い! なんて精緻なホログラムだ!」


 そう言ってモロゾフ氏が部屋に入りながら私達に銃を向ける。何を! という私の声が上がりきる前に、私の足元に飛んでくる銃弾。


「いやいやいや、想像以上でした。これを発表すれば……いや、独占出来れば!」

「やめたまえ!」


 黙れという言葉と共に、放たれる銃弾が、宇宙服越しにスメラギ氏……帝を撃つ。慌てて駆け寄る私を無視して、奥の操作パネルと思しき場所へと陣取ると素晴らしいと連呼するモロゾフ氏。


「動けますか……? えっと……帝……?」

「今まで通り、スメラギでいい。君と違って通常の人間レベルだが、鍛えてはあるからね」


 そして鍛えているのはこういう時の為だと、自分のヘルメットを宇宙服からもぎとると一挙動で投げつけるスメラギ氏。綺麗にモロゾフ氏に当たったそれは、跳ね返って操作パネルを無茶苦茶に叩く。――あ、それはさすがにまずい……。


 明滅する赤い光。けたたましい警告音。文明が違っても意味は一つ。


「逃げろ!」

「でも……!」


 モロゾフ氏が顔を強く打ち付けて周りが見えないのか無茶苦茶に銃を撃つ。その度にまだ生きていただろうコンソールが死んでいく。悲鳴を上げる私に、銃口が向いて……。


――重低音が響いて世界が揺れる。

 

 自爆の為の何かが作動したのか連続して爆発音がこだまする。その最中に私に向かってゆっくりと飛んでくる一枚の強化樹脂のプレート。それを慌てて掴むと、カチカチと銃の空打ちする音とモロゾフ氏の叫び声が聞こえてくる中、私たちは母の手がかりの場所に背を向けた。




「先の揺れで気密が」


 酸素濃度が下がり、内部で調整されていたらしい重力もどんどん軽くなる。地上へ、あの電動中型車(エレキワゴン)へ急ぐけれど、これは絶対量的に酸素が()たない。既にスメラギ氏の顔が酸素不足の色に変化してきている。ヘルメットを投げてしまって宇宙服から供給出来ていない。だったら……。


「何をするんだね月姫君!?」

「私なら……! 無酸素でも、死にはしませんから!」


 笑顔で私のヘルメットをスメラギ氏に強引にかぶせる。子供サイズだから少し苦しそうだけど、日ノ本の国の民。欧米圏よりも体格が小さくて助かった。本当は私だって脳の酸素がなくなればおしまいだけどまだ()つ。


「はやく……地上へ……」

「全く、強情な所は母親譲りじゃないか!」


 私を抱えて、宇宙服内の酸素を消費しながらスメラギ氏は一気に走る。後ろから崩落の振動が、少ない空気を静かに震わせていく。私の視界が徐々に赤くなり、酸素不足の頭痛がする。でも、でも母が心を残した帝を……スメラギ氏の為なら私はもう……。


「君には聞きたい事が沢山ある。だから死ぬな! 何世紀生きたんだ! 命を無駄にするんじゃない!」


 意識がブツリと途絶えた。ごめんなさい、かか様……。




   **********




【月の遺跡崩落!? やはり危険なものだったのか!?】

【新市街地に発見さるる謎の遺跡が突如崩壊。危険を予測し、立ち入りを禁止していた月の政府に賞賛の声】

【人類には早すぎたか!?】

【巨大な縦穴と思しき箇所は他にも複数見つかっており、そちらから侵入出来ないか、調査隊が苦心しているが、現状ほぼ壊滅的だという】


 ユニバーサルスペースジャーナル 号外より




「行くのかね」

「ええ。まだこの身体がある内は、手がかりがある内は、会えると信じて」


 スメラギ氏のおかげで私は辛うじて生き永らえた。私は帝と一緒に地球へと帰還した後、ロケットの医療機器で回復する事が出来た。彼は……帝は、母が最後に土産として渡した不老長寿の薬を、日ノ本で一番高い山で燃やしてしまったらしい。だけどその時に煙を吸った影響か、寿命が尽きて死に次の生を受けた時に生前の記憶があったのだという。それからずっと死ぬ度に記憶を引き継いで今に至るという。「君のはハード面。僕のはソフト面のアプローチだったのだろう」と。彼は私とは違い、何度も生きて死んで人生をここまでやってきていたのだ。

 

 かつて地球上で集めた素材は、全てロケットが銀河系へと飛び出す強化に必要なものだった。そして、地球人類が銀河系へとさらに進出する前に私は行かなくてはいけない。今度こそ邪魔が入る前に母に会うために。

 プレートに刻まれた座標は銀河の遠く彼方。母たちが向かっただろう場所。プレートの年代測定は約八百年前。それだけの時間があれば母は不老不死の研究を進め、きっと自身に施しているだろう。まだこの銀河のどこかに生きているだろう。だから私は行く。


「地球からも何か分かったら連絡をする」

「はい」

「無理するな」

「はい」

「君も、ある意味私の娘みたいなものだ。地球圏で銀河系へと行ける船を作って、僕も必ず向かう」

「うん」

「諦めるな、死ぬな。命を粗末にするな」


 私は一度だけ振り返って、彼を抱き締めると、光る竹に乗って遥か彼方を目指した。ただ、母に。生きている母を抱き締める為に。




【後に、亜空間航法の理論を確立したスメラギ博士は、地球圏に大宇宙開拓時代を到来させた。理論を実践した船の開発はさらに先になったが、間違いなく宇宙への憧れを加速させた事は間違いない。この年、月より先の銀河に人類が初めて足を伸ばした年月を記念して、西暦から宇宙暦へと暦は変わった】


 ユニバーサルスペースジャーナル 【宇宙開拓史の始まり】序文より引用。

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