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ボク、私、俺の悩み事 その4

 いったん休憩を取ることになりました。 お嬢様は誰よりも先に席を立ち、駆け足で部屋を出ていきました。

 追いかけたかったですけど、まずはこちらの給仕をするのが先。

 豊国一敬とよぐにかずひろ様からスコーンとお飲み物を用意させていただき、旦那様にも同じように用意しました。

 旦那様は落ち着きがなく、置かれた紅茶を熱いにも関わらずに一気に飲み干されました。 しきりに一敬様のご様子を気づかれないように伺っています。

 この様子からうまい具合に話は進んでくれなかったようです。

 ボクは旦那様に「お嬢様のご様子を見てきます」と耳打ちし、カートを持って部屋を出ました。




 お嬢様の控え室のドアをノックしましたが、返事がありません。 もう一度ノックしても、返ってくる返事はありません。

 断りをしれてから部屋に入ると、ソファーで顔を埋めて倒れているお嬢様がいました。

 スコーンと紅茶を用意しながら、「いかがされました?」と聞いた。 「ふぁぐはぁれ」とくぐもった声が返ってきました。

 こんなに凹んでいるお嬢様は珍しいです。


「聞き取れるようにお願いします」

「げんじつにすると、つらい……」


 座り直したお嬢様の顔は雲っていました。


「……ひとまず落ち着かれては? カモミールがありましたので、淹れてみました。 カモミールはリンゴに似たおたやかな香りがするのが特徴になります。 その中でも、本日は甘く口当たりが良いジャーマン種をご用意させていただきました」


 お嬢様はカップを手に取って、香りを味わう素振りを見せました そして、そっと唇を湿らせ、カップを戻しました。 表情は少しだけ晴れたようにみえます。


「スコーンはベノアがありましたので、そちらをご用意させていただきました」


 一口だけ食べて、もとに戻しました。 そして重い息を吐きました。


「すっごいかっこわるい……」

「なにがです?」

「美味しいもので機嫌が直るのが」

「よろしいではないですか。 ずっと機嫌が悪いよりは、よっぽど」

「……………何があったのか聞かないの?」

「話してくれるのなら聞きます。 ボクから促すようなことはしません」

「……歩は変わったね。 昨日とはまるで別人」

「貴重な話を聞きましたので」

「ただの話だけでそこまで変われるのだから、すごいよ。 私は現実にならないと分からないもん……」


 それから、お嬢様はさっきあったことを話しました。 話せば話すほど顔は曇っていきました。 途中、何度も話を止めようと思いました。 そんなに辛いのなら話さなくてもいい。 ボクも聞きたくない。

 それでも口をつむいで、耳を傾けました。


「貴船家として、話を受けないといけないことはわかってる。 わかってるけど、道具みたいに使われるのが辛い。 ねえ、歩。 私、どうすれば良い?」

「お嬢様はどうしたいのですか?」


 お嬢様は耳をふさいで、激しく首を何度も横に振りました。


「分かんないから聞いてるの! ねぇ、助けてよ……! お願い……」

「貴船家の人間ではなく、貴船一果としてどうしたいのですか?」

「だから、分かんないって! そんな難しいことすぐに答えられるわけないじゃん! なんで、私をいじめるの……。 歩は私の味方じゃないの……」

「ボクはいつでも、いつまでもお嬢様の味方です。 お嬢様の望むものはボクが叶えます。 ですから、言ってください。 ボクは何をすればいいですか?」

「--------」


 声を詰まらせながら、お嬢様は言いました。


「ボクに任せてください。 一果お嬢様」

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