第1話 アキツシマの風
まどから光が射す。眩しさを感じて、ゆっくり目を開けると、そこは、建物の中だった。
小綺麗な木造建築らしい。起き上がろうとすると、ひどく腰が痛み、思わず声が出てしまった。
「痛っ」
苦痛をあげながら、なんとか起き上がるのに成功すると、そこには唖然とした表情の綺麗なお姉さんがいた。
「サギリ様…お、お、お」
どうやら驚きで声が出ないようだ、それもそうか、サギリの記憶によると、生まれて14年寝たきりだったのだ、そりゃビックリするだろう。
目の前の女性はサラ、アルフォード家のメイド。20歳 彼氏なし スレンダーな金髪の女の子だ。うーん、かわいい感じだね。なんて、オヤジなことを考える。
「おはよう、サラ」
つとめて、平然を装って挨拶してみると、サラは走って出て行ってしまった…まずいさっそく失敗したか、と思っていると、叫び声が聞こえきた。
「ご主人さまー!奥様ー!サギリ様が‼︎サギリ様がー!」
ご主人さまって良いなぁ。なんて思っていたけど、この叫び声はまずいんじゃないかなぁと思う。どちらかといえば、危ない方向に転がりそうな…と思っていると、案の定ドタバタと足音が聞こえる。
「サラ!どうした?サギリが危ないのか⁉︎」
渋い声とともにドアが勢いよく開けられる。
「サギリ!!えっ?」
「おはよう、お父さん」
俺はまた平然をよ装って挨拶する。
「おまっ、えっ!起きてるし、なんか血色良いし…ミキっ!ミキっ!ちょっと!」
慌てているのは父親である テル アルフォードだ。金髪のイケメン男、村の騎士をしているだけあって、かなりいい体をしている。
「どうしたの?あなた?サギリに何か⁇」
そう言いながら部屋にやってきたのは、ミキ アルフォード、母親である。青髪のとても綺麗な女性だ。やばい、ドストライクだ…いやいや、母親だし、それはまずいでしょ。なんて考えている間に、サラとテルの慌てっぷりは高まってゆく。
慌てている2人をよそにミキは、こちらを見つめて、鋭い瞳で問いかけてきた。
「サギリ、あなた術式を行使して何かしたわね⁇」
どうやら、少しばれているようだ。どうやってごまかそうか悩んでいると、ミキから声をかけてくれた。
「いいの、どうしたのかはわからないけど、いまのあなたからは、溢れんばかりの、生命力と術力を感じるわ。サギリ、病気は大丈夫みたいね。よく頑張ったわね」
どうやら、ミキはすべてを受け入れてくれるようだ、サギリの記憶によると、ミキは結婚前、国でも有名な治癒術師だったようだ、術師だけに術力と、生命力の変化にはすぐ気づいたのだろう。
「お母さんありがとう。お母さんの言う通りだよ。、僕はサギリのまま変わりないからね」
正確にはわからないが、サギリであることは確かなので言っておいた。サラとテルはぽかーんとしていたが、元気になったことは変わりないと喜んでいた。
ここはラウスヤ村。人口300人の小さな村だ。ここの駐留騎士の家から物語は始まる。
両親とサラが落ち着いたところで朝食をとり、サギリはこれからのことを考える。まぁ、考えたところで、できることは限られてるんだけどねぇ…こういう性分なんですよ。
どうやら、アルフォード家は一応騎士爵を持つ下級貴族のようで、本来は1代限りの爵位であるはずの騎士をラウスヤ村の駐留を行うことで、世襲のようにして、引き継いでいる家系。ということらしい。
そういえば、妹がいるはずだけど…兄ちゃんが元気になったのに、あらわれないなんて…兄ちゃん寂しいよ…ヒデ時代は一人っ子だったから、妹にお兄ちゃんなんてよばれたいなーって思ってみたり…
「ヒカリには手紙を出しておいたから1週間後にはこちらに来るだろう」テルが何気なく言う。
ヒカリ…ヒカリ・アルフォード、我が妹、名前を聞いて初めて記憶を呼び起こせた。
ヒカリ・アルフォード、13歳であり、現在サギリの代わりに公都にある士官学校に通っている。
ソラット公国には、軍関係の学校が3つあり、上級士官学校、士官学校、兵学校で、兵学校を出れば下士官、士官学校で士官、上級をでると、士官学校より早く出世ができるのだ。
ヒカリは、本来ならば長子のサギリがテルの跡を継ぐため、行くはずの士官学校に、自ら希望して入学したたらしい。うーん、家族想いだねぇ。
「ヒカリに会うのが楽しみだよ。でも、お父さん学校はどうしよう?」
「うん?またいつ病気が再発するかわからないんだ、様子を見た方がいいだろう。体力もつけないと、教育についていけないぞ。」
「そうかなぁ、大丈夫だと…」
「何言ってるの!ずっと寝たきりだったんだから、少しゆっくりしなさい!」
というミキの一言でひとまず様子を見ることになったみたいだ。
1人になったサギリはこの世界について、記憶を呼び起こすことにした。
まず、この世界はアキツシマと呼ばれている。なんで日本の昔の呼び名なのかわからないが、翻訳の関係でそう聞こえるだけなのだろうか。
ちなみに、言語はサギリの知識のおかげで問題なく通じている。まぁ、1つになったということなので、サギリの知識はすべて思い出せるはずだ。
この世界では、術力という力があり、術式というファンタジーでいう、魔法のようなものがある。あと、生命力というものが一般的であり、術力は生物以外の生命力を、集める能力。生命力は、自分の中の生命力を使う力のようだ。体力と魔力みたいな感じだろうか。
このサギリの体は生命力、術力ともに優秀なようなので、これから使い方をよく思い出す必要があるだろう。
『うん、なんとかやっていけそうだね』
「ぎゃーーっ」
突然頭の中に響いてきた言葉に、サギリは悲鳴をあげてしまった。
どうやら、家族には聞こえなかったようだが…
『ごめん、驚かせちゃったね、サギリだよ』
「えっ…」
まだまだ、この世界には慣れそうにない。