7.協力を取りつけよう
アニー、チョロ過ぎ? かなり慎重に書いたつもりですが、難しい。
次の投稿は、昼ごろとなります。
4月25日(土)つづき
7-1.説得してみるわ
私、スノー=ブリジットは、シスター見習いのアニーちゃんを説得するために、リュウくんと別れ、アニーちゃんの手を取ると人気のない場所へと移動している。
「スノーさん、スノーさん、どうしたんですか?」
アニーちゃんは慌てて尋ねる。
「いいから。いいから」
私たちは、近くの建物の陰に入り、ひそひそ声で話し始めた。
「それで、なのよ。実は、教会の洗礼名簿を閲覧したいのよ」
「ええっ! 参照ではなくですか? 教会関係者以外は、閲覧禁止ですよ」
アニーちゃんは、あわてるが、私は、アニーちゃんの口を軽く押さえる。
「よく聞いて、アニーちゃん。リュウくんって、なかなかカッコいいと思わない?」
「まあ、すごくイケメンってわけじゃないけど、そこそこカッコいいとは思います」
アニーちゃんも素が出てきたようね。
「そうでしょう? それでね。さっきは、ただの探し人って言ったけど、
正確には、リュウくんのお嫁さんなの」
「お嫁さん!?」
アニーちゃんは、案の定驚いたみたい。
「そうよ。神のお告げでお嫁さんを探しているの。
ところで、アニーちゃんには想い人はいるのかしら?」
私は、ちらりとアニーちゃんを見ながら反応を伺った。
「いっ、いえ、わっ、私は、神に仕えるシスターになるつもりですから」
アニーちゃんは、自分に言い聞かせる様に言ったようね。
「でも、アニーちゃんも好きな人と一緒になることも夢見ているでしょう?
想像してみて、神のお告げで巡り合う二人……」
私は今、目がキラキラしちゃってるはず。アニーちゃんもうっとりとしている。
「ロマン…チック……」
アニーちゃんは、自分の言葉に紅くなったみたい。
カブリを振って、今の考えを忘れようとしてるわ。
「でも、リュウイチさんは、『探し人なら、相手の方からわかる』
と言ってましたから、私には関係ないことだわ……」
「アニーちゃん! それは違うと思う。
今は、確かにそうじゃないけど、これからそうなる可能性もあるって私は思うの」
「スノーさん、それって?」
私は、ちょっと不思議に思っていたことを話してみる。
「アニーちゃん、このお告げって、何か少し変だと思わない?
誰がお嫁さんなのか、リュウくんの方からは、わからないなんて」
「そうですね。確かに変なお告げですね。
普通は、誰かの協力がなくても何とかなっちゃうのがお告げですから」
アニーちゃんも、私と同じ事を考えたみたいね。
「だから、私思ったの。リュウくんのお嫁さんって、今はまだ、誰なのか
はっきりとは決まってなくて、これから次第なんじゃないかしら?」
さあ、ここからが、大事なところよ。
「リュウくんのお告げの人を探し出すには、色々と大変な事があると思うわ。
でも、それが神さまの与えた試練で、それを二人で協力して乗り越えることで、
自然と仲が深まって……」
私は、ちょっと盛り過ぎかもってどこかで思いながら、あながち嘘でもないような気もしていたの。そして、続けた。
「それに何も教会の規則を破れって、言っているわけじゃないわ。
規則の中で、できる範囲でリュウくんに協力してあげて欲しいの」
「う~ん、規則の範囲ならお手伝いしてもいいですが、リュウイチさんって、
スノーさんがそんなに手を貸して上げるほど信用できる人物なんですか?」
この程度の疑問が湧かない娘に、リュウくんを任せるなんて、心許ないなどと思っていた私は、満足しながらアニーちゃんの瞳を見つめる。
「実は、私の乗った王都からの帰りの馬車が、盗賊に襲われたの」
「え!? 大丈夫だったんですか?」
「ええ、リュウくんのお陰よ。どこからともなく颯爽と現れて、間一髪、
盗賊の凶刃から私を守ってくれたのがリュウくんだったのよ。
それに私の石化病だけど、本当に治してくれたのはリュウくんよ」
私は、アニーちゃんにリュウくんの武勇伝を話して聞かせた。
「すごいですね。まるで物語に出てくる勇者さまみたい。
でも、リュウイチさんは、どうしてそんなに強力な神聖魔法が使えるのですか?
高レベルの神聖魔法を使えるのは、教会関係者でも極僅かな人たちに限られます。
それをどうして? 私も、低レベルの神聖魔法しか使えません」
アニーちゃんは、ちょっと興奮気味に尋ねてくる。
「リュウくんって、長期睡眠の魔法とかいうので3週間ずっと寝てたのよ。
それで、昨日起きたばかりなの。教会の治療師さんにも見てもらったわ。
その睡眠の最中に少し心配になってね、一応ステータス確認用のアイテムで
リュウくんのステータスを確認したのだけれど、神聖魔法はおろか、
何のスキルもなかったわ。おまけに創造神の加護さえもなかったの」
アニーちゃんは、かなり驚いたようだ。
「どういう、ことです?
魔法スキルもないのに重篤な石化病を治せる? 考えられない!」
私は、その時の状況を一部を除き、詳しく説明することにした。
「リュウくんが目覚める少し前に、急に全身が光って私を包み込んだのよ。
それで、光が消えたら、石化病がきれいさっぱり治ってたわ。
で、リュウくん自身の予言の話を聞いて思ったの。普通の子じゃないって」
私は、アニーちゃんに本当に頼みたかったことを話すことにした。
「でも、あの治療師たちのような悪い人たちに知られると利用されるだけだわ。
だけど、リュウくんが、神聖魔法を身に付けるには、魔法の知識が必要でしょう?
そんな時、聖女さまのことを私に教えてくれたアニーちゃんの事を思い出したの」
私は、先日のことを思い出しながら、アニーちゃんにお願いする。
「カークの治療師たちは、お布施のために私の石化病がカークでは、治らない事を、
ずっと隠していたわ。でも、あなたは、そっと本当の事を教えてくれたわよね?
ねぇ、お願い。リュウくんを任せられる人は、そんなアニーちゃんしかいないの」
アニーちゃんは、複雑そうな顔をして私の話を聞くと、深く考えていたわ。
考え過ぎて口に出していることも気がついてないみたい。
「生まれたばかりに洗礼を受けずに加護が付かなかったのかしら?
教会もない余程の田舎の生まれなのかもしれないわ。
でも、加護がない者にお告げなんてあるのかしら?
お告げを受けて、旅立った後に何かしらの禁忌を犯して、
創造神の加護がなくなる咎落ちになった可能性もあるわね。
そもそも、お告げ自体が嘘の場合はどうかしら? 禁忌に当たるかも?
けど、咎落ちの人が神聖魔法を使えるなんて話は聞かないわね。
そういえば……あれは……もしかして?
でも、見た目は違うし、違和感も……ないわねぇ………」
アニーちゃんは、しばらく黙り込んだ後、決心したように話してくれた。
「スノーさん、私、まだ何ができるかわかりませんが、
リュウイチさんのお手伝いをしようと思います」
私は、うれしくなった。
「アニーちゃん、私からもお礼を言うわね」
「ただ、お告げも含めてリュウイチさんをどこまで信用していいか、
まだわかりません。でも、悪人が持つ嫌な雰囲気がないことも確かです。
私自身が少しずつ、彼を見極めたいので、少し時間を下さい。
その間、私ができることを考えます。」
アニーちゃんは、そう続けた。
「わかったわ。リュウくんには週に2、3回、教会に行くことが、
アニーちゃんがリュウくんを手伝うための条件ということにしましょう。
その間、魔法の手解きをしたり、孤児院の仕事を手伝ってもらったりして、
アニーちゃんにリュウくんという人物を見極めてもらうのはどうかしら?
このことは、私もリュウくんには、ないしょにするわね。
女同士の約束だから安心して」
アニーちゃんは頷き、同意してくれたみたい。
私は、この件については、誰の肩も持たないことにしたけど、まあリュウくんならアニーちゃんのお眼鏡にきっと叶うと思うわ。
ただ、神聖魔法の手解きは、リュウくんが望んだらってことになったの。
私たちは、首を長くして待っているだろうリュウくんを探しに行ったわ。
途中で年長組の子供たちが何やら討論をしていたみたい。
でもアニーちゃんが一括すると飛んで逃げていったの。
彼は、年少組の子供たちとなにやら楽しげに遊んでいたみたいね。
7-2.孤児院の敷地を散策しよう
俺は、しばらく歩くと4、5人の子供たちが集まって何やら話をしているのが見える。
白熱した議論をしているのか、俺がゆっくり近付いても誰も気が付かないようだ。
少年A「やっぱり、アニーねえちゃんを連れに来たんだよ。あの女の人」
少年B「院長先生が、院の財政が苦しいって言ってたから、
アニーおねえちゃん、売られちゃうのかも?」
少女A「メイドにでもするのかしら」
少年C「家事スキル習得不能のアニーねえちゃんには無理。無理」
少女B「でも、一緒にいた男の人は誰なの?」
少女A「じゃあ、アニーおねえちゃんのオムコさんになる人よ、きっと」
少年C「それはない。
あのガサツなアニーねえちゃんをお嫁にもらう人なんていないぜ」
少年A「でも、アニーねえちゃんってシスター服脱ぐとおっぱいデカイぜ」
少女B「いやらしいこと言わないで、そんなのが好きなのは、あんただけよ」
少年A「でも、奴隷だったら、それもあるかも」
少年B「そんなの嫌だよ」
少年C「借りたお金が払えないと奴隷にされるんだぜ」
少女A「あの男の人に毎晩いやらしいこと、されるのね、きゃ~~」
有名な格言『三人寄れば、文殊も姦しい』の如く何だか盛り上がっている。
しかし、向こうでは、小さな子供たちの泣き声が聞こえていた。
俺は、泣き声が聞こえる方へ急いで向かった。
建物に近付くと年少組の子たちが、3人泣いているようだ。どうやら、泣き出した赤ん坊があやしても泣き止まないので一緒に泣いているといったところか。
赤ん坊のオムツに指を入れ、濡れているのを確認して、手早く取り替える。
俺は一人っ子だったが、子供の頃、家で近所の赤ん坊や子供をよく預かっていた事もあり、こういう事が得意だった。
それから、赤ん坊を抱き上げる。赤ん坊は、いつも抱っこしてくれる人のクセによって、好きな抱かれ方が違う。幾つか抱き方を変えて最良な抱き方を選別する。
次に揺らし方とその速さ、お尻をトントンする強さと頻度の選定。
この赤ん坊の嗜好をわずか3分で掴み、泣き止ますことに成功する。
一緒に泣いていた年少組の子も泣き止んでいた。ふう~、ミッション・コンプリート!
少しの間、ゆっくりと揺らし続けると赤ん坊は、スヤスヤと寝てしまった。
元の場所に寝かせ、今度は年少組と遊び始める。
この世代の子は、十中八九高い高いが大好きだ。
筋力がかなり落ちていて大変だったが、高い高いのコースを3人3セットこなし、最後は、秘儀放り上げ高い高いでしめた。これを毎日やれば、かなり筋力が付きそうだ。だが、この思考がいつものフラグだったことを、後日知ることとなる。
重労働が終了するとスノーさんから声が掛かった。
どうやら、途中から見られていたようだ。
「おつかれさま、リュウくん」
「いえいえ、慣れてますので」
俺は、事も無げに答える。年少組の子がアニーに声を掛けた。
「アニーおねえちゃん、このお兄ちゃんが、
泣いてるカルクちゃんをあやして、寝かせてくれたの」
「本当? カルクは、私以外があやしても泣き止まないのに~。
すごいわ。でも、少し悔しいかも」
アニーは俺を感心半分、悔しさ半分の目で見る。
そして、少しだけ考えに耽ると、思い出したように叫んだ。
「年長組は何をやってたの!? ちょっと! 年長組来なさい!!」
呼ばれた年長組はお昼ご飯抜きを命じられ、すごすごと年少組を連れて建物の中へ入っていた。ちょっと、かわいそうな気もするな。そう考えていると、スノーさんから声が掛かった。
「リュウくん、アニーちゃんの協力を取り付けたわ」
「本当ですか?」
俺は、この十数分でどんな奇跡が起こったか、想像すらできなかった。
「本当よ。それでね、リュウくん。
代わりに、この孤児院で、週に2、3日お手伝いをしてほしいの」
「かまいませんよ。無償で協力してもらうのは、気が引けますから」
俺は、密かに払えないほどの金銭を要求されなくてよかったと思っていた。
「それじゃ、リュウイチさん。
火曜・木曜・土曜の内2日と日曜日とに、ここに来て下さい」
アニーは、俺の答えを聞いて頷くとそう提案してきた。
一方、俺は、少し展望が開けたことを素直に喜んだ。
「ありがとう、アニー。
火曜・木曜・土曜の内の2日は、週によって変わってもいいのか?」
「はい。できれば、前以て教えて下さい。
それと協力の方ですが、今は時期が悪いのでしばらく待ってもらえますか?」
「わかった。慎重に準備してくれ。それと、よろしく頼む」
俺は手を差し出し、アニーと握手する。不覚にも『脱いだら凄い』と言う年中組の会話を思い出し、アニーの手を握りながら、ドキドキしてしまった。
俺は、明日の日曜日から教会に来ると約束して、スノーさんと一緒にブリジットさんが待つ家へ帰りを急いだ。商業区にある時計台の時計が示す時刻は、もう正午を過ぎていた。
帰り道で、アニーをどうやって承諾させたのか聞くと、『女同士の秘密よ』と言われてしまい、それ以上の追求ができなくなってしまったが、まあ、協力が取り付けられたようなので、方法は問うまい。
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まとめ
えっ! 協力を取り付けた!? たった数分で? 流石はスノーさん。
代わりに週3回、教会のお手伝いですか?
大丈夫、大丈夫。 それじゃ、明日の日曜日からよろしく。
協力は、しばらく待ってくれ? まあ、慎重にしないとな。
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