50.男の浪漫を守ろう
約5300字 ゲーム決着です。
6/6 細かな表現を手直しました。推敲不足でした。
ですので、一度読んだ方は、特に読み直しは、必要ありません。
5月22日(金)つづき
50-1.勝敗の行方
ファグナは、自分を奴隷扱いした『流れの冒険者』とカード勝負をしていた。
勝負の初戦を落としたファグナは、衣装のベールを1枚脱いだ。
ファグナが、あと、4回負ければ、次のステージは、裸で踊らなければならない。
断じて、ファグナの裸をこいつらに、ただで見せたくはない。
だが、俺の隣にやってきたセグナが、不吉な事を言い出した。
このカードゲームで、ファグナは、一度もセグナに勝ったことがないと。
『がんばれ! ファグナ』 俺の十日間を無意味な物にさせないでくれ!
「次は、負けないわよ」 ファグナが、宣言する。
第二戦目の開始だ。カードのシャッフルは、親の役目、勝った男が、テーブルに広げた13枚の同じマークのトランプを裏返しにして、掻き混ぜる。
二人の前にそれぞれ5枚ずつ、場の外に3枚のカードをそのまま並べる。
二人は、それぞれ、配られたカードを、相手との対戦で有利になるように順番を変更することが出来る。
カードの強さは順に、2~10、J、Q、K、Aだ。ただし、Aは、2に弱い。
「このゲームのセオリーは、数字が小さい順に並べる事よ。
カードがよければ、それで大体勝てちゃうの」
「ん!? 逆じゃないのか? 大きい――強い順に出す方が、いい感じがするが」
「リュウイチさん、勘違いしてる。並べ替えてるのは、相手のカードよ」
順番を変更した後は、裏返しの状態で、お互い全部のカードを交換する。
交換した後のカードが、自分の手札となる。頭が、こんがらがりそうだ。
「そうやって、初めての人は、頭の中がグジャグジャになるのよ。
ズルイけど、相手が慣れる前に勝っちゃうのが、おねえちゃんの作戦なの」
だが、今回の相手は、奇しくも、このゲームのルールを知っていたらしい。
その時、男が、開いたカードが、後ろにいる俺たちにも見えた。
「2、3、6、7、9か、え~と、これがファグナのカードになるんだよな」
セグナは、頷き、口を開く。
「残りの4、5、8、10、J、Q、K、Aの内、場の外の3枚を抜いた5枚が、
あの男の人のカードだよ。8以上が、6枚もあるね。かなり、いい手札かも。
こんな時は、おねえちゃんが、並べ方を工夫する必要があるんだけど……」
ファグナは、考えるのを諦めて、適当にカードをシャッフルし始めた。大丈夫か?
お互いのカードを交換し、上から1枚ずつ、自分で見えないように相手に見せる。
勝負は、インディアンポーカーの形式で行われる。
だが、互いに事前にカードを見ているため、順番を確認する意味合いしかない。
むしろ、どちらかと言えば、観客を巻き込むためのパフォーマンスに近いだろう。
1回戦、男が選んだファグナのカードは、『3』だ。
もちろん、ファグナ自身は、これを知らない。
対して、ファグナが適当に選んだ男のカードは、『4』。
同じように男自身は、この数字を知らない。
「まず、子のあたしから宣言するわ。……勝負よ!」
「もちろん、勝負だ!」
勝負が成立した所で、お互いに自分のカードを確認する。ファグナの1敗。
残りのカードは、(2)、5、(6)、(7)、8、(9)、10、J、Q、K、Aだ。
男のカードは、5、8、10、J、Q、K、Aの内4枚になる。
(※以降、丸括弧の数字がファグナの手札を示す)
2回戦、男が選んだファグナのカードは、『6』。
ファグナが選んだ男のカードは、『Q』か。
ファグナが、『Q』のカードを見て、1度目の流す権利を使う。セーフだな。
場の外に伏せてあるカードは、2~4回戦が終わった後に、親が好きなカードを選んで1枚ずつ開いていく。男が、カードを開くと『8』が出た。
残りカードは、(2)、5、7、(9)、(10)、J、K、Aの8枚だ。
3回戦、ファグナのカードは、『2』か……終わったかも。このゲームは、5回戦の内、2回まで自分で流せる。逆に言えば、最低3回『勝負』を宣言すればいい。
つまり、2勝した方は、ほぼ負けがなくなるのだ。対する男のカードは、……。
「『A』!? ファグナが、もし勝負に出れば、勝つパターンだな」
「多分、勝負するわ。こういう時のおねえちゃんの勘はすごいの」
本当に勝負に行った。もちろん、ファグナの勝利、1勝1敗。札を見た男は、一瞬、驚愕の表情をしつつも、場の外のカードをめくった……『K』。残りカードは、5、(7)、(9)、10、Jになる。男の札は、5、10、Jの内の2枚か。
男は、『2』の順番を変えていたが、ほぼセオリー通り、弱い順に並べている。
次の数字は、間違いなく『7』だろう。ファグナが『5』を配置してれば、勝てる。
運命の4回戦。ファグナのカードは、案の定『7』だ。
対する男のカードは、………『J』か。
「あたしは、勝負よ!」
ファグナは、相手のカードが、現在の切り札と知りながら、無謀にも即答で勝負を選択した。だが、男の方は、かなり勝負を迷っているようだ。
男は、自らのカードが、1/3の確率で『5』である事を知っているからだろう。
この辺りで、ファグナが、ランダムに並べた効果が出て来たらしい。
「………流す。………ちっ!」
勝負を流した男が、自らのカードを見て、舌打ちをする。
そして、気を取り直し、場の外の最後のカードを開く。ここで、『5』が出てきた。
5回戦、ファグナは、『9』、男は、『10』だ。ファグナは、当然流してきた。
前回の無謀な賭けは、二度目の流す権利の温存の為か。これで、1勝1敗ドローだ。
今回の男の手札は、かなりいいカードが揃っていた。この引き分けは、存外大きい。
「ほら、チップだ。さて、脱いでもらおうか」
ドローは、両払い? これじゃ、衣装を脱ぐファグナの方が不利だぞ!
ところが、ファグナは、何の躊躇いもなく、ヒールを脱いだ。
「引き分けでも、チップは、戻さないって事でいいのね?」
「当たり前だ。観客を待たせるわけには、いかない」
卑げた笑いを浮かべて男が、そう言うと店内は、大喝采に包まれた!
ほぼ全員が、男を応援する態勢に入った。女の裸さえ見れれば、それでいいのか?
……いいのかも。だが、これが、すべてファグナの手の内だったことを後で知る。
50-2.ゲームの決着
引き続き、男が親を務め、カードを混ぜる。
お互いの前に、5枚ずつ並べ、場の外に3枚を並べた。
「このゲームはね。相手のカードを並べ替えるって思うと、ややこしいのよ。
カードの強さを逆にして――Aが一番弱くて、2が一番強い。けど、Aに弱い。
そう思って、最初に配られた手札を、相手に勝つように並べ替えるだけでいいの」
セグナが、このゲームを単純に考える方法をレクチャーしてくれた。
その時、男の後ろに陣取る俺たちに、男が開いたカードが見えた。
今回は、さっきと真逆で、ファグナにとって、いいカードが揃っている。
「楽勝って、感じだな」
「うん。配られたカードが勝負のカギだもん。死んだ父さんが、こう言ってたわ。
『戦略的に見えて、実際は、「運」がすべてのゲームだ』って」
第三戦目は、当然、ファグナが取った。
「あたしが、勝ったけど、衣装は、着直さない方が好くって?」
ファグナが、おどけて男にそう言うと……。
「もってけ! チップだ」
男は、大きな音を立てて、チップ代わりの鉄貨を1枚、テーブルに叩きつける。
「いいのね? これで、あんたのチップ2枚分の『運』が、あたしの物だよ」
男の顔色が、少しだけ悪くなった。
RPGの踊り娘といえば、踊りによるパーティの支援が主な能力になる。
その中に、命中率や回避率を操作する踊りがあったはずだ。率とは、確率の事。
確率は、運。確率が、操作できるなら、運は? 俺は、そんな考えが頭を過ぎった。
この勝利で、ファグナに親が回って来た。軽くかき混ぜ、第四戦目を開始する。
男もファグナに倣い、ランダムに札を並べ始めたが、ファグナは、勘が冴え渡った。
まるで、自分のカードが見えているかのように、的確に勝負を仕掛ける。
「こうなったら、おねえちゃんの独壇場ね。もう、誰も勝てないわ」
「え!? さっき、セグナに勝った事ないって言ってたろう?」
「おねえちゃん、札の並べ替えが下手なのよ。何か賭けてないと、勘も冴えないし。
私とは、唯の遊びだから、全然勝てないわけ。でも、何か賭けるとすごく強いの。
だから、未だに3枚以上脱がした人は、いないのよ」 何それ、紛らわしい。
時には、ハッタリで相手に流させたりしながら、第五戦目は勝ち、第六戦目は引き分け、2勝1分で、親をゆずり渡すことなく、相手の5枚のチップがなくなる。
でも、ちょっと危なかった。最後、焦った男のミスで何とか引き分けた様に見えた。
「これで、あんたの運の半分をもらったわ。あと半分もチップに変える?
確か、あたしに裸踊りをさせるまで、続けるのよね?」
このハッタリの効いた台詞を耳にした男は、酒場から血相を変えて逃げ出す。
他の冒険者も、満足したように男を止めることなく、道を空けてやっていた。
しかし、最後のファグナの台詞が、『流れの冒険者』の男に追い討ちをかける。
「一週間は、宿屋に篭ってな。迷宮に潜ると命に係わるよ」
ファグナは、この男に『二度と店に来るな』とは、言わなかったが、
このあり様では、男が、『酔いどれ仔猫亭』に来る事は、二度とないだろう。
50-3.男の浪漫を守ろう
『酔いどれ仔猫亭』でのカード勝負のニュースを知らせに行っていた冒険者が、多数の客を連れて戻って来た。俺は、急いで、お客が座れるように席を整える。
ファグナの酒場は、毎週月曜が定休日で、火曜から日曜までが、営業日だった。
話によれば、週の半ばの水曜日と週末の土曜日、日曜日が、書き入れ時とのことだ。
そして、週休1日のこの国には、景気の良し悪しに係わらず、『花金』はない。
それが、一つの騒ぎから、土曜を前に店の中が、お客で一杯になってしまった。
俺とセグナは、大量のお客を迎え、大ジョッキとお通しを運ぶのに大忙しだった。
ファグナは、極度の集中のためか、かなり消耗したようで、一旦席を外し、休憩しに行った。やって来たお客は、すでに勝負が、決していたため、少しがっかりしていたが、全員、口に出さず共、ある事を期待していた。それは、……。
ファグナの成績は、3勝1敗2分だ。引き分けの分も含むと3枚脱ぐ事になるが、対戦相手が逃亡した事で、最後の1枚は脱がず仕舞いだった。客の間では、脱ぐのは、ブラがいいか、スリット入りスカートがいいかのどうでもいい論争が始まった。
「賭けてた流れの冒険者が、途中で逃げたんだから、約束は、全部無効だろう?」
俺が、当たり前の事を言うと、お客全員から睨み殺されそうになった。
怖いよ、中堅冒険者……。そして、常連さんたちから、お叱りの言葉をもらった。
「バイトのあんちゃん、これは、『男の浪漫』ってやつだ。
『人の浪漫を邪魔する者は、Gフロッグに蹴られて死んじまえ』ってな」
まあ、百歩譲って、浪漫は分かるが、ファグナを巻き込むのは、どうかと思う。
だが、休憩を終えて、再び店へと戻って来たファグナは、もっとブッ飛んでいた。
舞台に上がったファグナは、俺を近くへ呼ぶと、肩を借り、下着を脱ぎ出した。
「それじゃ、これ。リュウイチくんが、責任を持って預かっておいてね」
あまりの衝撃的な出来事に観客は言葉を失い、辺りは、静まり返る。
俺が、渡された少し温かい下着を受け取るとファグナは、俺の耳に顔を寄せて、小声で呟いた。
「妹以外、リュウイチくんだけが、この店内で唯一、あたしを応援してくれてたわ」
動機は、唯で裸を見れるお客に対し、反発したからだが、それは、いいだろう。
「それが、とっても嬉しかったの。ありがとう、リュウイチくん。お礼よ」
『え!? 下着が?』と一瞬思ったが、ファグナが、耳元から顔を離す途中で
軽く俺の頬に口づけして行った。何ていうか、やっぱ、下着は返した方がいいよな。
俺は、借り物の下着をポケットへと大切に仕舞う。
俺が、急いで舞台を降りると、午後10時のステージが、始まりを告げた。
すると静寂から一転、店内は爆発的な熱狂の渦へと変化した。噛り付きに陣取る連中の目が血走っている。そこに近づこうする連中で、ごった返しえらい事になった。
ファグナも、これだけ客が熱狂したステージは、久しぶりだったろう。
まるで、悪魔どもの宴という表現がぴったりの様子だ。お前ら、咎落ち大丈夫か?
この週の売り上げは、盆と正月が一遍に来た位の売り上げだったと後で聞いた。
因みにファグナが、俺に渡した下着は、すぐに『みせパン』だと分かった。
匂い? 何の事かな……。疲れたと、休憩に戻った隙に重ね履きしたのだろう。
もちろん、後でちゃんと返したからな!
この日のファグナが、実は下着を着けていたと言う事実を俺は墓の下まで持っていく事にした。それが、ここにいる全員の『男の浪漫』を守る唯一の方法だろう。
熱狂に渦巻くステージを食い入るように観る冒険者たちを見ながら思うのであった。
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まとめ
ファグナ、そんな『流れの冒険者』との脱衣トランプ勝負に負けんなよ!
俺が、半裸を見ただけで、10日の強制労働なのに、唯で全裸を見せたくね~!!
がんばれ~! ファグナ~!!
だが、さっきの勝負は、得意満面のファグナが、あえなく1敗し1枚脱いだ。
あと、4回負けたら、裸踊りだぞ、おい! 風営法に引っかからないのか?
よっしゃ! 二戦目、男有利の札で、よく引き分けた! 偉いぞ、ファグナ!
って、両払い? ファグナが、ベールに引き続き、ヒールを脱いだよ~。
残りの衣装は、3枚しかねえ。何とかならんか、セグナ? 幸運を祈るの?
三戦目は、ファグナにいい札が行ったな運がいいぞ。ファグナの勝利!!
何? 男の運をチップ2枚分もらったって? 5枚で、運半分もらえるの?
ほんとにファグナの方に、段々といい札が行ってるな。 並べ替え適当過ぎね?
その微妙な札で、勝負? 勝ってら……。それ無理だろ? へ!? 男が流した。
すげ~運が、よくね? 男の運が、マジでファグナの運に上乗せされてんのか?
結局、ファグナの3勝1敗2分か~! でも、最後の六戦目はやっと引き分け
って感じだな。運の上乗せは、ハッタリだったのか? それとも運が切れた?
ファグナ?もう半分の運もチップにするかって? 男が、一目散に逃げ出したよ。
俺でも多分逃げ出す。というか、これが、ファグナが冒険者を恐れない理由か?
おまけに『1週間は、宿屋に篭って迷宮入んな』って、あの男どうすんだ?
・・・・・
ちょっと何これ? ファグナの博打を聞きつけて、すげ~人が来てんですけど。
一杯一杯だよ。机元に戻して、メニュー運ばなくちゃ、ファグナも手伝えよ。
何? 疲れたから少し休む? ざけんなよ~! セグナはいい子だな、よしよし。
でも、勝負が見られなくて、お客さん、がっかりだろうな。まだ、もう一枚脱ぐ?
ブラがいいか、スリット入りのスカートがいいかって? どっちでもいいし~。
大体、あの男逃げ出したじゃん。もう、賭けは、終わりだろう?
ちょ~怖え~! 何で皆、そんなに睨むの? ほんとの事じゃん!
男のロマン? でも、ファグナが承知しないと思うよ。
ファグナ登場! ステージに上がって、俺に手招き? 何か用? 肩貸して?
どうぞ………なっ、何やってんの? 生パン? ウソでしょ~?
俺が、預かるの? 一人だけ味方してくれたお礼? 生パンが?
『チュッ』って、こっちですよね~。あとで、返しますよ。
な、な、なっ、何? この熱狂! ノーパン踊りにすげ~盛り上がってるな。
噛り付きの所が、尋常じゃないぞ。大丈夫か? どうせ、見えないと思うよ。
それに、これって『見せパン』だし……、皆には、ナイショにしとくけど……。
それが、『男のロマン』を守ることになるんだろうな。
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