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4.異世界

 いよいよ本編開始ですが、大分前に書いたので改めて読み直すと…無駄に長。

量は、3つに区切っていますが、5000字超あります。

1話5000字前後で書いているので、他の話もこの量になります。


 後半の暦、貨幣、ギルドの説明は、ほぼテンプレですので、後書きに

ジャ~ンプしても大丈夫です。


4月1日(水)


4-1.異世界


 俺は、一瞬の浮遊感の後、再び地面を感じた。頬をなでる風と野鳥の鳴き声が聞こえる。ゆっくりと目を開けると総天然色の景色が俺の目に飛び込み、否応なく現実感が戻ってくる。俺は、手早く周囲の状況と自身の身を確認した。


 そこは、街道から幾分離れた林の中だった。木々の間から街道がのぞいている。

周囲を確認してわかったが、この場所は、人目につかない絶好の転移先だった。

受付係天使としてのエルエルは、やはり優秀なのだろう。


「やっと、現実に戻ってきた感じがするな」


 俺は、大きく伸びをすると、身の回りを確認した。

衣類は、麻のような手触りの上下、下着は、綿なのか肌触りは兎も角実用的だ。

靴下はなく、靴は麻製の袋のようで酷く頼りない。


 事前の約束通り左手の中にあったネックレス――指輪を2つ飾りにしたものを、手早く首に掛ける。右手の中に1つあった薬の錠剤を、大切にポケットにしまった。


「これが、あると言うことは、『転生の間』は現実だったと言うわけか」


 俺の持ち込めるアイテムは、本来これだけだったが、担当のエルエルは、付与できるスキルの枠が小さかったことのお侘びに餞別を持たせてくれていた。


 自分が食べるつもりだったのか、巨大な箱に詰められたお弁当と竹筒を加工したような水入りの水筒が布に包まれ、俺の背に襷に結わえてある。


「腹も減ったし、頂くとするか」


 俺は、近くの倒木の幹に腰を下ろすと貰った弁当を広げて食べ始める。

味は、まるで薄味の病人食だ。完食しろと言われてなければ、残してしまったろう。

弁当箱は、中身が減る度に小さくなり、最後に消えてなくなってしまった。

どういう仕組みだ? 最後に水筒の水を半分飲んで食事を終了する。


 この竹筒の水筒は入れた飲み水を浄化し、俺が飲んでも平気な水に変える魔道具らしい。そして、先の錠剤が、この世界の細菌やウィルスに対し全く免疫がない俺に免疫を獲得させるための薬となる。何れもスキル付与の代わりだ。


 だが、錠剤は、副作用として免疫獲得の際に短時間の眠りが必要となるらしい。

眠りの間は結界で守られるが、自由意思が制限されるため、安全な場所での服用を薦められた。


「この辺りのはずだけど……、あった」


 俺は、エルエルが調べてくれた街道のすぐ近くにある横穴に身を隠し、錠剤を水筒の水で飲み下した。水筒は、大事にズボンの脇に括り付けて置く。

数分待っても眠気が差さない中、俺は、目を閉じて横穴に留まるしかなかった。


「きゃ~~!!」


 やがて、絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえた。俺は、急いで横穴を飛び出す。

木の陰に隠れるように街道に近づきながら、状況を把握しようと努めた。

街道に止められた乗合の馬車は、前方が障害物で塞がれている。


「お前ら、とっとと、外に出やがれ!」


 馬車の乗客が、盗賊たちに馬車の外へ引き出されていた。

武器がない俺は、街道傍の木の陰に隠れながら状況を見守るしかない。 

次々と下車する乗客たちを見ていると一際目立つ女性が現れた。


 それは青白い顔に紅い口べにが目立つ20歳ぐらい印象的な女性だった。

長く患っているのか頬に赤味はなかったが、眼は未だ生き生きとしている。

ただ、俺には、それが最後の残照にも感じられた。


「さあ、通行料を出しな」


 しばらく観察していると、盗賊の目的がわかってきた。

目的は、身代金目当ての拉致ではなく、金品を巻き上げる事のようだ。

この様子なら乗客に命の危険はなさそうだ。俺は、安堵と共に強い眠気に襲われた。


「このガキ、さっさと出しやがれ!」


 突然、盗賊の怒声が響いた。

10歳ぐらいの商人見習い風の少年が手荷物を盗賊から庇うように抱え込んでいる。

盗賊が、少年から荷物を引き剥がそうとするが、少年は頑なに拒んだ。

業を煮やした盗賊が少年に向かって短剣を振り下ろそうとした。


「止めて!!」


 真っ先に動いたのは、先ほどの女性だった。

女性は、有りっ丈の力を使って盗賊に向かって体当たりをする。


「このアマ~、何しやがる」


 お陰で少年は助かったが、盗賊は、荷物を掴んでいた手を離すと怒りに任せ短剣を振り上げながら女性に近づいた。


 女性は後退りしたが、数歩下がると、そこで障害物に行く手を阻まれる。

盗賊が、女性に正に短剣を振り下ろそうとした時、俺の身体は、自然と盗賊と彼女の間に割り込んでいた。


 俺は、眠気のために低下した意識とは反対に周りの時間の経過が遅くなるような感覚を覚える。刹那、薄れ行く意識の下、女性と目があった気がした。

振り下ろさせる短剣を自分の体で受け止める覚悟をした瞬間、俺の意識は途絶えた。



4月24日(金)


4-2.3週間後


 俺は、混濁した意識の中でどこか中空を漂っているようだった。

しばらく漂っていると何やらひどく悲しそうな表情のフランス人形が浮かんでいる。


 俺は、その人形と意味もなく額同士をくっ付けた。

しばらくして額を離し、人形の顔を見るとうれしそうな表情に変わっていた。

満足感を覚えた俺は、意識がふわりと覚醒する。


 目を開くと、『見知らぬ天井』――ではなく見知らぬ女性がいた。

うれしそうに鼻歌を口ずさみクルクル回る女性に目が釘付けとなる。

いや、正確には、見たことはないが見覚えはあった。


「あっ、あの~」


 世話になった人の奇行を、改めて問い質す程、俺も無粋ではない。

無難な言葉を選び、声を掛けてみる。


「あら? おはよう? よく眠れたみたいね」


「はい、なんだか何年かぶりにぐっすり眠った気がします」


 おそらく、一度は、永久に眠ったはずだが、今の俺は、いつになく清々しい気分で、まるで、生まれ変わったようだった……って、生まれ変わったんだったな。


「そうね。 眠り過ぎって気もするけど……。ところで、お腹空いてない?」


「何だか、そう言われてみればお腹が減ったみたいです。何か頂けますか?」


「そうでしょ。そうでしょ。

 3週間も寝てて減らない方が変だから。ちょっと待ってね~」


「???、はい。」


 何か可笑しな単語を聞いた気がする。3週間? 翻訳スキルの誤訳か?

こっちでは、24時間が1週間なのかな?


「おまたせ~。起きてこられるかな?」


「大丈夫のようです」


 俺は、体をあちこち動かして調子を見てから、差し出されたサンダルを履き、テーブルまで歩く。

やっぱり、西洋風なんだな。室内で履物を履く習慣にどうも俺は馴染めない。


「どうぞ。どうぞ。簡単なものだけど、取り合えず食べてね」


「はい、頂きます」


 女性は、見た感じ在り合わせの物をこれでもかという感じにテーブルに運んでくれたようだ。


 俺は、目の前のものを口に入れてみる。腹が鳴った。

黒パンに目玉焼き、鶏肉をあぶったようなもの、蒸かしたイモのようなもの、色々あったけど美味しかった。う~ん食べた、食べた。


「ご馳走様でした」


「それでは、自己紹介。私の名前は、スノーよ。スノー=ブリジット、20歳。

 これでも人妻だから、惚れちゃ~~ダメよ」


 スノーさんは、俺が食事を終えるのを見ると話しかけてきた。

少し、ニヤニヤしながら、そう言うが、俺にも想い人がいますので……。


「俺の名前は、リュウイチロウです。リュウイチロウ=キサラギ、一応15歳。」


「リュウくんね。よろしく。それと何度も命を助けてくれて、ありがとう」


「やっぱり、盗賊に襲われていた女性はスノーさんだったんですね。

 なんだかあの時と印象が全然違うんで驚きました」


 今のスノーさんは、肌は相変わらず白く、やや頬はこけたままだが、両頬に赤みが差して、目は相変わらず、生き生きとした年相応の女性に見えた。


「今の方が、断然いいでしょ?」


 俺は、頷きはしたが、やつれているのは、多分俺のせいだろう。

少し申し訳なく思った。


「俺の方こそ散々お世話になったみたいで、ありがとうございました」


「平気! 平気! ギブ&テイクよ。十分元を取らせてもらったわ」


 スノーさんは、人差し指を1本立てて唇の上に付けるとそう言ってきた。

(なっ、何をテイクしたんだ、俺は……)


 この後、俺がスノーさんを盗賊から庇ってから、今さっき目覚めるまでの間に起こったことを色々と聞いた。


 盗賊の前で眠りこけた俺をスノーさんが逆に庇ってくれたみたいだ。

程なく、騎士団の到着により盗賊は逃げ出したが、未だに捕まっていないらしい。


 その後、迎えに来たスノーさんの夫、ブリジットさんの馬車に俺は乗せられ、この城塞都市カークに入った。俺の入場の際の審査は、病気ということにして、多少金額を多く積み、入れて貰ったそうだ。


 この家に俺を迎え入れた後、治療師に見せてくれたが、魔法による長期睡眠の症状との診断でずっと寝かせたままにしてくれたらしい。


 そして、どうやら盗賊の襲撃(最初にこの国に降り立って)から23日間経過していることがわかった。 スノーさん一家にはかなり借りができたな。



4-3.常識を知ろう!


 俺は、外国から人を探しにこの国にやって来たことを話すとスノーさんは探し人に興味を持ったらしい。


「リュウくんは、どんな人を探しているのかな?」


「ええと、15年ぐらい前に、このカークで生まれた人なんですが」


「それって、15年ぐらい前に生まれた人なら誰でもいいの?」


「えっ? ……………………」


 俺は、絶句した。

 スノーさんは、もったいぶっているとでも考えたのか更に聞いてくる。


「ね~ってば、教えて~よ、リュウくん~」


「え~、こっちに来る前に……俺の妻がこっちにいる……と聞きまして………」


 俺は、答えに窮して若干まずいことを言ってしまったような……気がする。


「へぇ~、この都市で15年前に生まれた人が、将来リュウくんのお嫁さんに

 なるって夢のお告げがあった訳ね」


 するとスノーさんは、都合よく脳内変換してくれたようだった。

完璧だ! それ頂きます!


「えっ、ええ、そうなんですよ。それで、ここまで探しに来たんです」


「で、お相手はどんな人なの? 」


「よくわからないんですけど、多分会えば向こうも俺をわかると思います」


 希望的観測かもしれないが、きっとミヨコは俺を覚えてくれていると思う。

それを聞くとスノーさんは、完全にノリノリになって、独演を始めた。


「神さまからの夢のお告げを受け巡り合う二人」

 視線を右斜上に向け、右手を口元に当て、左腕を斜下方にまっすぐ伸ばす。


「お互い目を合わせた瞬間、運命を悟る」

 俺の目を見つめ、次に両手で口を覆う。


「歩み寄り何の躊躇も無く抱き合う二人」

 俺の方に小走りに来て背を見せエア抱擁をする。


「初対面にも関わらず、もう何年も会えなかった恋人のように、熱い口付けを……」

 そして、そのままエアキスをしばらくするスノーさん。


「……そしてリュウくんが言う。『結婚しよう』……」

 こちらに向き直り、俺の声色っぽく低い声で言う。


「キャ~~! すご~く ロマンチックじゃな~い。

 私、今のシーン、生で見たくなったわ」


 スノーさんは、両手を胸の前で組んで、目をキラキラさせながら言った。

俺は、かなりの疲労感を覚えた。


「でも、私のリュウくんに悪い虫が付いたみたいで、ちょっと悔しい気もする」


 いつの間にやら俺は、スノーさんの物になっていたらしい。

でも、スノーさんって旦那さんがいるんじゃなかったんですか?

俺は、苦笑いするしかなかった。


 仕切り直し、俺は外国から来たため、この辺りの一般常識が他の人に比べ著しく劣っていることを説明し、基本的な常識を疑われることなく教えてもらった。

と思う………多分。


 まず、暦の話だが、日本と同様に1日は24時間。1週間は7日、1年は12ヶ月で、1月から6月までは30日あり、7月から11月までは31日で12月は通常30日で、計365日となる。また、偶に12月が1日増えることもあるそうだ。


 次に生活に直結する貨幣だが、紙幣はなく硬貨だけらしい。硬貨は、鉄貨、大鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の順に高額なり、白金貨を除く1つ上の種類貨幣は10倍――銅貨10枚で銀貨1枚、大貨は同種の貨幣の5倍――銅貨5枚で大銅貨1枚、白金貨のみ金貨の100倍の価値だそうだ。


 スノーさんに聞いた宿代や食事代から類推して、日本の物価で考えると銀貨1枚100ギリスが多分一万円ぐらいだと思う。



 また、ギルド――相互援助のための団体だが、一般庶民の多くが属する職業ギルドとそれを統括するギルド連があり、貴族が属する社交界と教会関係者が属する教団とを相互に繋ぐ役割を持つ冒険者ギルドがある。


 ギルド連に属するためには、誰もが一旦、冒険者ギルドへの登録が必要となる。

ここで、身元を確定し希望の職種のギルドへの登録移転が行われる。


 冒険者ギルドは、ギルド連内外からの困難な依頼を受け解決するギルド連の『総務ギルド』という性格を持つらしい。しかし、危険な依頼も多いため、冒険者がこの処理に当たる。そのため、『冒険者ギルド』と呼ばれているそうだ。


 そして、単にギルドといえば、冒険者ギルドを指す。仮にこの都市を後にして、ミヨコを探すにしても冒険者ギルドに登録した方いいそうだ。

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 まとめ


 異世界に着いた。色と音がある現実の世界だ。

 おっ! ちゃんと持たされた物もある。やっぱ、あれも現実か…。


 ネックレスは、首にかけて。弁当食べて、デカ。いただきます。もぐもぐ。

 水飲んでゴクゴク。ごちそうさま。

 病気にならないように、薬飲んで、この辺の洞窟で一眠り……寝れない。


 ……!!

 悲鳴だ! 美人が危な~~い! やってやるぜ! やられる~~~~!?

 眠くて気が遠くなる~~~~~。


 俺は、目が覚めた。何~、3週間も経ってるって。

 面倒を見てくれたのは、盗賊から庇った女性――スノーさん?


 何から何まで、ありがとうございます。えっ? 報酬はもう貰った? 一体何を?

 ヒミツ!? マジですか。


 ここへ来た理由? 外国から人探しに来ました。神のお告げで嫁探しかって?

 ハイ、それ、それです。


 まずは、この国の常識を色々教えてもらってっと。

 暦、貨幣、ギルドとラノベ読者の俺には、特に真新しいことはないな。


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