41.旅立ちの朝
約5100字です。
スノーさんとブリジットさんの出番は、これで終了。
再登場は、当分先になるため、41-1は、長めです。面倒な方は、ジャ~ンプ!で。
5月17日(日)
41-1.旅立ちの朝
今朝は、旅立ちの朝だ。俺は、何時もより、早く目が覚めた。
ソファーの寝心地は、悪くはなかったが、起きたばかりなのに、既に疲れている、そんな状態だった。ふと俺は、アニーと俺を隔てる客間のドアを見つめる。
夕べは、寝付かれない夜だった。
時折聞こえる客間からの微かな寝返りの音も手伝い、自然と目も冴えてしまう。
やがて、壁の向こう側にいるアニーの事が気になって、客間のドアを見つめた。
俺は、中庭でのアニーとの抱擁を思い出す。何も考えずにした行為だった。
アニーは、嫌ではないと言ったが、本当は、どう思っていたのだろうか?
待て、待て、アニーが、どう思っていても、俺は、それに答える事はできない。
『アニー、あのさ……。もし……』あの時飲み込んだ言葉の続きが、俺の頭を周る。だが、もしはない。俺は、そのために、ここにいる。……でも、もし……。
明け方まで続いた客間のドアとの何十度目かの見合の後、俺はやっと睡魔を捕えた。
~・~・~
俺は、旺盛な睡眠欲をねじ伏せ、一度伸びをすると、顔を洗いに中庭へ出る。
今日もいい天気だ。この世界に来てから、まだ雨の日に当たってはいないが、こちらの雨具を揃えて置く必要があるだろう。
そんなことを考えながら、乾いた喉を潤し、水筒を一杯にして居間に戻ってきた。
俺が立てた物音で、アニーとスノーさんが起きてきたようだ。
「「おはようございます」」
スノーさんは、まだ寝ぼけた様子だったが、アニーは、シスター服をきちっと身につけて、すでに身支度を整えつつあった。俺からベッドを取り上げたのが、少し後ろめたかったのか、昨夜の様子を訊ねてくる。
「リュウイチ、夕べは、ちゃんと眠れた?」
「まあ、ぼちぼちな……」
「そう……、よかったわ」
アニーは、少し微笑むとドアから中庭へと出て行った。
ベールのないアニーの金色の髪には、見覚えのある髪留めが映えていた。
「どうして、客間で一緒に寝ないかな~」
アニーを目で追う俺の様子を見たスノーさんの欠伸交じりの声が聞こえてくる。
俺の考えが、顔にでも出ていたのだろう。あえて聞こえない振りをした。
「朝食の準備ができたわよ」
朝食を食堂のテーブルに並べ終えたスノーさんからお呼びが掛かった。
アニーも中庭から戻ると一緒に朝食を取るために食堂へと向う。
「今日は、朝食をご馳走になって行くんだな」
「今回は、スノーさん勧めもあってご馳走になることにしたのよ」
うれしそうなアニーを見て、孤児院の忙しい食事風景を思い出す俺だった。
「俺も、ここでの食事は当分お預けだからな。味わって食べることにするよ」
「遠慮しないで、もう少しここに居ればいいのに~」
身支度を整えたスノーさんは、そう言いながら、昼用のお弁当を用意してくれた。
心遣いにお礼を言いながらも、その話は断るしかない。
「スノーさん、決心が鈍るんで、もうその話はしないで下さい」
「だって、鈍らせるためにしてるんだもん」
スノーさんらしい答えだった。
俺は、宣言通りに一通りお代わりをすると水筒の水を飲み食事を終了する。
「ちょっと、洗い物のお手伝いをしてくるわ」
アニーは、俺が食べ終わるのを見計らって、二人分の食器を持って台所へ立つ。
すると、それを待っていたようにスノーさんが話し出した。
「いい? リュウくん。ここを、自分の家だと思って、いつでも帰ってらっしゃい」
「そうだぞ、リュウイチ」
情報誌を読みながら、コーヒーを飲んでいたブリジットさんも続けた。
「ありがとうございます。 俺もお二人を大切な家族だと思っています」
俺の言葉を聞いたスノーさんの目が少しだけ、うるうるしていた。血は繋がってないが、ブリジットさんとスノーさんは、紛れもなくこちらの世界での俺の家族だ。
「はい、これ」
少し落ち着いたスノーさんが、俺に小さな革の袋を渡してきた。
金貨が10枚も入った袋だった。驚いてスノーさんを見ると、微笑むと口を開く。
「邪魔になるものじゃないから、持って行きなさい。
でも、無駄遣いはダメよ。どうしても必要になった時に使ってね」
「でも、こんな大金を……」
「それじゃ、借りてると思えばいいのよ。返すのはいつでもいいわよ」
スノーさんは、ウィンクしながら、指で俺の鼻先を軽く突いてきた。
俺は、スノーさんの気持ちを汲んで、お礼を言うと革の袋をアイテムバッグの底に大切にしまった。使う機会がないことを祈ろう。
「じゃあ、私は、これを」
そう言うと今度は、ブリジットさんが納戸から、一振りの剣を出して来た。
俺は、差し出された剣を受け取り、鞘から抜くと、思わず声を上げる。
「ロングソードだ!」
俺の感嘆の声を聞くと、ブリジットさんは、感慨深げに微笑んだ。
昔、初めてこの剣を手に取った時の自分の姿でも思い出したのだろう。
「それは、私が成人した時に父からの贈られた物だが、今は納戸の住人さ。
使ってこその道具だ。少し古いが、何もないよりマシだろう?」
それは、祝いの品と言うには、特に何の飾りもない普通の剣だったが、良い品だというのが、柄を握っただけで何となくわかった。
俺は、すぐにでも素振りをしたくなったが、ぐっと堪えてお礼を言う。
「ありがとうございます。大切にします」
こちらは素直に受け取り、サブバッグにしたリュックにしまった。
「お二人とも何から何まで、本当にお世話になりました」
俺は、ビジネスマナーで学んだ、お辞儀の角度を無視して、最大限に頭を下げた。
「リュウイチ、こういう場合、この国ではこれだ」
ブリジットさんは、俺に右手を差し伸べて、そう言ってくる。
俺は、ブリジットさんと硬く握手をし、スノーさんにも手を差し出すとスノーさんは、その手をするりと避けると俺にしっかりと抱きついて来た。
「リュウくん、身体に気をつけてね………」
しばらく、スノーさんは俺を離してくれなかったが、台所から不意に聞こえてきた何やら騒々しい音で、ようやく開放してくれた。
「ごめんなさい、スノーさん、食器を……」
「気にしないで。怪我は、なかった?」
「はい」
大きな破砕音がした後、台所から戻って来てたアニーが謝っていた。
確かアニー、台所の仕事は、免除されているとか。原因は、もしかしたら……。
そして、俺たちは、玄関に移動し、いよいよ出発の時となった。
「昨日今日と食事を頂いた上に一夜の宿をお貸し頂き、ありがとうございました。
暫くの間、王都に行って参りますが、また戻りましたらよろしくお願い致します」
アニーのお礼の言葉に続き、俺が話す番だ。
一瞬、両親と別れ、東京に出た若き日のほろ苦い気持ちが蘇った。
「……長々とお世話になりまして、……お二人には、たくさんご迷惑を……
「「いってらっしゃい」」 ……いってきます。……」
俺の言葉を、遮るように――迷惑なんてしていないと言うように、二人は言葉をかけてくれた。俺とアニーは、スノーさんたちに見送られ、そして出発する。
玄関先から見送る二人の姿を見ながら、次に会う時は、もっと逞しくなった自分でありたいと思う俺だった。
41-2.アニーとの散歩
俺とアニーは、城から東北方向に伸びたギルド通りを城へに向って歩いていた。
これでアニーが、シスター服でなければ、俺たちは、恋人同士に見えるのかな?
等と考えながら、ちらりとアニーを伺うと目が合い、アニーは少し微笑み口を開く。
「リュウイチ、私がいない間の事だけど……」
「今日は、予定通り孤児院へ手伝いに行くつもりだ」
今日は、アニー自身が指定した日曜だったので、アニーの所在と関係なく孤児院へ手伝いに行くつもりだった。
それに、魔法の訓練に協力してくれた子供たちへ直接お礼もしたかった。
「それじゃ、今日はそれでいいけど、次は、来週の日曜でいいわよ」
「助かる。でも、どうしてだ?」
アニーは、肩を並べて歩きながら俺の方を向いて答えた。
「大教会の勇者探しの件よ。孤児院の例の3人は目を付けられ易いはずよ。
多分、未成年だから候補には挙がらないとは思うけど」
「あの子達の周りをうろうろして、俺が目を付けられては不味いと言う話か。
今日も気をつけた方がよさそうだな」
アニーは俺の目を見て頷いた。
「でも、イザと言う時は、王都に逃げてくればいいわ。
王都で熱りが覚めるのを待ってから、カークに戻れば、大丈夫よ」
「そうだな。ブリジットさんからは、実家への紹介状を預かって来たことだし」
俺は、この時かなり楽観的に考えていたが、後にカーク教会がどれだけ真剣に勇者を探しているか思い知ることになる。
「手紙の件だが、朝と正午と寝る前の三回、バッグに手紙が来てるか調べる事に
しよう。すぐに返事が欲しい場合は、宛先に『至急』と書いた方がいいな」
「そうしましょう。でも、しばらくは忙しくて手紙を書いている暇がないと思うわ」
アニーも、王都に遊びに行く訳ではないし、仕方がないだろう。
頻繁にカークや孤児院の情報を知らせようと思っていたが、返事がない手紙を送っても寂しい。当分、手紙を書くのは止めようか。
「それじゃ、寂しいから、手紙……」
「そっ、そんなに寂しいの? 日に一度、短い手紙なら書いてもいいわよ」
「本当か! それなら、俺もやる気が出るな」
にんまりするアニーを見ながら、俺は、遠い王都に行くアニーの心細さを紛らわす手伝いが出来ることを素直に喜んだ。
そう言えば、似た話が最近あったような気がするが、何時だったかな?
俺たちは、第二城壁の北東門を潜り、大教会方向と商店街方面とに道が分かれる北東門広場まで来ていた。俺たちは、立ち止まって別れの挨拶を交わす。
「次に会う時は、いよいよ正式なシスターか」
俺には、現在と何がどう変わるのか全く分からなかったが、ミヨコ探しの進展も含めて期待含みにそう言うと。アニーは、別の期待を抱いていたようだ。
「そうよね。カークに戻った時には、お祝いの件、期待してるわ」
スノーさんの陰謀(?)で、アニーが、正式なシスターになったら、お祝いのデートに誘う事が、既成事実化してたんだったな。
これで俺は、生活費の他に多額の接待費の確保も急務になってしまった。
「アニー、見送りには行けないが、気をつけて行ってこいよ」
「ええ、リュウイチこそ、勇者狩りには気をつけるのよ」
アニーは、茶目っ気たっぷりに言ってきた。それにしても、教会の『勇者探し』を『勇者狩り』とは恐れ入るが、俺にとってはぴったりの感覚かもしれない。
「「じゃあ、また」」
月並な別れの挨拶を交わし、アニーに見送られながら、俺はボロダー商店に向う。
途中一度だけ振り返ったが、その時には、アニーの姿はもう見えなくなっていた。
少し残念な気がしたが、それを吹っ切るようにボロダー商店までの道を走る。
何時もの道のりが何だか遠く感じられた。
41-3.口止めをしよう
俺は、アニーと別れ、ボロダー商店に到着した。
店に入り、ボロダーさんと挨拶を交わすと、借りているサブバッグを渡す。
「それで、ボロダーさん、頂いたアイテムバッグなんですが、
何だかすごい事になってまして」
「それは、もうリュウイチの物じゃよ。ワシも商売人じゃ、一旦手放した物が、
どんな性能や効果を持っていても、やっぱり返せなどとは言わんぞ。
逆に、リュウイチに合った品なら、ワシとしてもうれしいのお」
ボロダーさんは、そう話しながら、手元でサブバッグの再設定をしているようだ。
「ありがとうございます。それでは、大切に使わせて頂きます」
ボロダーさんが、ここまで言ってくれたんだ、もうこの件については、ありがたく貰って置く事にする。そこへ、奥からルネさんが、出てきた。
「あなた、作業場の方の片付けは、終わったわ。
あら、リュウイチさん、いらしてたんですね。おはようございます」
「おはようございます、ルネさん!」
俺は、二人に神聖魔法について、口止めしておくことにした。
アニーの言う勇者狩りに会うのは、ごめんだからな。
「実は、お二人にお願いなんですが、俺がスーリンの病気を治したことは、
もちろんですが、神聖魔法を使えることも、ないしょにして貰えませんか?
他の人に知られると、かなり厄介なことに成りそうでして」
二人は、誰にも言わないことを確約してくれた。
あと、口止めが必要なのは、スーリンとネルさんだな。
「ところで、スーリンは、上ですか?」
「そうそう、リュウイチさんが来たら、『部屋に来て欲しい』ってスーリンが
言っていたわ。リュウイチさん、すいませんが、行ってやって下さい」
俺は、頷くと、ボロダーさんに断りをいれたが、不承不承に頷いて、早くしろという無言の圧力を感じた。俺は、スーリンが待つ、二階へと上がって行く。
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まとめ
ふっ、何だか、太陽がまぶしいぜ。
夕べは、アニーとしっぽり……なんてするわけないだろう?
あの客間のドアさえなければな。俺の破壊の瞳よ、あのドアを粉砕せよ。
・・・・・
ダメだ。強く望んでも、やはりスキルは、覚えられないか。顔でも洗って来よう。
おはよう、アニー。眠れたかって? もう爆睡よ。
客間からへんな音なんて、全然聞こえなかったぞ。
何、焦ってるんだアニー、聞こえてないって言っただろう?
ごちそうさま。アニー? 食器洗うの、へ~気がきくな。
スノーさん、そんな大金は、ちょっと。え!?手切れ金!! 冗談?よかった~
ブリジットさんは、ロングソードですか。二人とも餞別ありがとうございます。
この国では、握手か。では、ブリジットさん、握手、握手。スノーさんも……
ハグですか………………まだ? 台所で破砕音が~!! やっと、放してくれた。
スッポンハグだったな。アニーお前の仕業か! ありがとう。
でも、孤児院で台所仕事を免除されてるって、もしかして、アニー……。
別れに涙は……うれし涙? 今日からイチャイチャできるって。ハイハイ。
さあ、行こうぜ、アニー! 何だか、俺もうれし涙が出そうだぜ。
ふん! 偶には帰って来い? 暇でやることなかったらな。あばよ!
なあ、アニー、俺たち恋人同士に見えるかな?
え!? シスターに教会まで、説教されに連行されるダメ男に見える?
そっ、そうか~><。
ところで、手紙の件だけど……、忙しいから返事は無理?
じゃあ、手紙は出さなくてもいいな。返事がないと寂しいからな。
別にアニーと連絡とれないから寂しいわけじゃないよ。
何テンション上がってんの? まあ、出したいなら出せば。
じゃあ、気をつけて行けよ。帰ってきたらデート? そんな約束もあったな。
さあ、仕事仕事。実は、ボロダーさん、もらったアイテムバッグすごいんです。
一度、やった物を返せとは言わない? 流石商売人の鑑ですね。
はい。300t以上入ります。やっぱ返せって、このエセ商売人が!
となると面倒だから、あんまり詳しく説明はしないぞ。
俺が、神聖魔法を使えることもスーリンを治した事もないしょでお願いします。
頼みましたよ、ボロダーさん、ルネさん。俺、勇者狩りに会いたくないんで。
ところで、スーリンは、上ですか。ボロダーさん、敵を見るような目やめてね。
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