表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/132

19.ミッションを完遂せよ 1/4

やっと、まとまりました。でも長い。5800字弱です。

19-2は、ジャ~ンプ! でも大丈夫でしょう。

何とか、連休中に その4まで、行きたいです。

5月5日(火)つづき


19-1.ストラテジー -戦略-


 水筒に井戸の水を汲んだ俺は、中庭から居間へと戻ってきた。水筒の秘密を明らかにして、一仕事終えたブリジットさんは、コーヒーを飲みながら寛いでいる。

水筒の事で後回しになったが、今日一日の出来事を色々と思い出した。


「ブリジットさん、今日はお陰で助かりました」


 俺は、配達先で、スーリンの病気について聞かれた事を話し、お礼を言っておく。


「娘さんについては、タイミングがよかったな」


「ええ、上手く誤魔化せました」


 そして、今朝ボロダー商店ですれ違った男たちやその人物と教会近くで再会したことについて、意見を聞いてみた。


「店に来たというのも、やはり教会関係者と見るべきだな。

 噂を流して、ボロダー氏に揺さぶりを掛けて来たというところだろう」


 ブリジットさんは、そう言って、コーヒーを一口、口に含み、ゆっくりと飲む。

洗い物を終え、台所から戻ったスノーさんが、ブリジットさんの隣に座った。


「リュウイチが見た花売りの少女への仕打ちは、教会区での出店規制令のせいだ」


 教会区とは、城から北方向へ延びる『北大路』と北東へ延びる『ギルド通り』、第一城壁と第二城壁に囲まれた大教会のある区域のことだ。そこは、治外法権が認められた特別区であり、そこでは、独自の聖令と呼ばれる法律を制定していた。


 この出店規制は、元々、大きな店舗の出店を規制し、区域の小店を守るためものだったが、現在、意に沿わない露天商を排除するための免罪符になっていた。

 要は、露天商は、お布施(ショバ代)を払う義務はないが、払わないと『出店規制令』違反にされるという事らしい。


「リュウくん、その女の子は、大丈夫だったの?」


 スノーさんが、心配気に訊ねて来たが、怪我一つしていない事を伝えると安心したように微笑んだ。ブリジットさんは、思案気な顔で話を続ける。


「リュウイチ、その子は、本当に運がよかった。あそこで細やかな商売をした者が、

 幾人も再起不能にされている。ボロダー氏の娘さんを神聖魔法で治すつもりなら、

 そういう連中に顔を覚えられない方がいい」


 ブリジットさんの予想では、教会はすでにスーリンの病気が石化病だと当たりを付けており、それが急に治れば、裏切り者の神聖魔法の使い手を捜すと言うのだ。


「ボロダー商店と孤児院の出入りの際には、特に気をつけるんだ。

 そして、娘さんを治したら、ボロダー商店とは、早めに縁を切った方がいい。

 これは、リュウイチだけでなく、周りの者にも害が及ぶ問題だからな」


「リュウくん。一刻も早く神聖魔法を覚えてスーリンちゃんを

 治さないと、ボロダーさんの所は、大変なことになるわよ」


 スノーさんは、そう言って俺に発破を掛けたが、大変という割りにどこか余裕があるように感じた。


「それがですね、スノーさん……」


 俺は、アニーを水筒絡みのことで怒らせてしまったことを話した。


「ふぅ~。リュウくん? そういう時は追いかけるものよ。

 そして、誠心誠意謝ればよかったの。怒らせたまま、帰ってきちゃダメじゃない」

 

「面目次第もありません。流石、接待スキル持ちのスノーさんは違いますね」


 と言うと、もう一度タメ息をつかれた。


「明日、依頼が終わってギルドに報告したら、真っ直ぐ孤児院に行くこと」


 スノーさんは、有無を言わせない雰囲気だが、俺にも予定という物がある。


「次に孤児院に行くのは、土曜ですよ。明日は、別の職業訓練も受けないと」


「土曜に行くのはお手伝いのため、明日行くのはアニーちゃんに謝るためよ。

 それに神聖魔法の訓練だって、立派な職業訓練よ。わかった?」


 スノーさんは、珍しく全く反論の余地のない理論的な話運びで俺に迫って来た。

それだけ、俺にとって、重要なことなのだろう。ここは、素直に同意した。


「はい。わかりました」


「そして、理由をつけて買い物に連れ出すの。

 そうね……。……それじゃ、服を選ぶのを手伝ってほしいって誘うのよ。

 服を選び終わったら、カフェでお茶をご馳走するの。

 後は、お礼だと言ってかわいいアクセサリーをプレゼントして上げてね」 


「でも、いつもシスター服のアニーに、私服選びは、難しいんじゃないですか?」


 俺は、素朴な疑問を投げかけた。


「も~~、服選びは、口実よ。お茶とアクセサリーがメインなんだから。

 それに、アニーちゃんの服のセンスが残念じゃなければ、

 リュウくんが選ぶよりもずっとましな服を選んでくれるわよ。

 その服を平気で着続けられること自体が、リュウくんのセンスを物語っているわ」


 確かに昔から俺には、服選びのセンスは皆無だったけ。


「わかりました。上手く行くかどうか分かりませんが、がんばってみます」


 俺は、洗礼名簿と神聖魔法のためにこのミッションは絶対にコンプリートせねばならないと思った。


「それじゃ、デートがんばってね」


「でででで、デート? 」


 俺は、年甲斐もなくうろたえた。だってそうだろう?

俺は、妻のミヨコとさえ、デートらしいデートは、したことがないんだ。

それに、今回のは、アニーへの謝罪の一環のはずなのに。


「そう、デートよ。世間では、男女が一緒に、買い物したりお茶したりする

 ことをデートって言うのよ? 知らなかった?」


 そっ、そうだったんですか。知りませんでした。

スノーさんは、何を考えているのかニヤニヤしながら言った。


「でも、俺には、お告げの人がいますし……」


 そう、俺にはミヨコという、生れ変って尚、異世界まで追っ駆けてきた最愛の人がいるのだ。これだけは、譲れない。


「リュウくん、デート相手と必ず結婚しなくちゃならない訳じゃないのよ。

 それとも、お告げの人を探すのに必要な洗礼名簿と

 スーリンちゃんを治すための神聖魔法は諦めちゃうのかな~~」


 俺は、退路がすでになくなっていたことを自覚した。


「スノーさん、了解しました。

 このミッションを成功させるための、詳細なアドバイスをお願い致します」


 俺は、やると決めたら、とことんやる。絶対にこの計画を成功させてやる!

そう決意を新たにした。


「ミッションか~。リュウくんらしいかも………」


 スノーさんは、小声で何か言っていたようだが、この後、更に詳しい計画を俺に語ってくれた。俺は、一言一句聞き漏らさないよう話を聞いた。



5月6日(水)


19-2.リコネセンス -偵察-


 昨夜は、スノーさんのレクチャーが遅くまで続き、睡眠時間が大幅に削られた。

俺は、眠い目を擦り、支度を整えると、朝の食事もそこそこに玄関へと向う。

スノーさんに見送られ、時間に追われるようにボロダー商店へと走った。


 到着したボロダー商店の店先では、念のため、店内を伺ってから中へと入る。

いつもの定位置に座っているボロダーさんに、挨拶を済ますとサブバッグを渡した。


「ボロダーさん、昨日の客、今日は来てませんね」


 俺は、見ればわかる事をいちいち確認せずにはいられなかった。


「あの胸糞悪い連中なら当分は来ないじゃろうな」


 ボロダーさんは、作業の手を一旦止めると嫌そうに答える。


「やっぱり、昨日の連中は、教会の人なんですか?」


「ほ~う。リュウイチ、よくわかったの。

 それとも、ブリジットのトムス坊やの入知恵かの?」


 一応、確認のために訊ねたが、情報元は、バレバレでした。

そうそう、ブリジットさんのフルネームは、トムス=ブリジット。

因みにボロダーさんは、ション=ボロダー。男の扱いはどうしても雑になるな。


「ご明察のとおりですが、俺が、お世話になっていることをよくご存知でしたね」


 ボロダーさんは、サブバッグと伝票と地図を俺に渡してくれた。

俺は、さっと伝票と地図を照らし合わせ、伝票に目を通す。


「リュウイチ、今日は10件だ。

 ……昨日の午後、ブリジットのスノー譲ちゃんがここに来てな」


「スノーさんが!?」


「リュウイチのことをよろしくと言っておったぞ」


 俺は、顔が熱くなるのを感じた。スノーさん余計なことを……。


「そっ、それでは、行って来ま~す」


 俺は、逃げるように配達に出かけた。



 地図と睨めっこしながら周った配達先も、今では既知の場所となった。

早々に配達を終了した俺は、ボロダーさんの在庫チェック中に食事を取る。


「リュウイチ、今回の配達も間違いはなかったようじゃ。それと急ぎもないの」


 ボロダーさんは、俺に再設定したサブバッグと依頼達成書を渡してくれる。

俺は、これからの予定を考えると急ぎの配達がなかった事を喜んだ。


「ボロダーさん。実は、ルネさんに少し、お訊ねしたいことがあるんです」


 ボロダーさんが、すぐに二階のルネさんに声をかけてくれた。


「は~い。あら、リュウイチさん、こんにちは」


 二階から下りてきたルネさんは、更に疲労の色が濃くなった気がする。


「カカア、リュウイチが聞きたいことがあるそうじゃ」


「ルネさん、こんにちは。ちょっと、こちらへいらしてもらえませんか?」


 ルネさんは、ボロダーさんの傍に移動してくれた。


「まず、謝らさせて下さい。口止めされていたスーリンの病状を

 ご厄介になっている2人に話してしまいました。本当に、ごめんなさい」


 俺は、スーリンの病気の噂がブリジット商会にまで、聞こえて来たことを知り、早めにブリジットさんに相談した事を話した。


「リュウイチさん、謝罪はもう十分です。広がるべくして、広がった噂です。

 私たちは、リュウイチさんが、その噂を広めたとは、思っていません。寧ろ……」


 俺は、それを聞いて少し安堵したが、聞くべき事が、まだある。


「あの、スーリン――娘さんは、やはり石化病なのですか?」


 ボロダーさん夫婦は、しばらく顔を見合わせると、ボロダーさんが、話す許可を出すかのように頷いた。


「私の見る限りでは、スーリンは、間違いなく石化病だと思います」


 わかっていたことだが、ルネさんの口から直接聞いた言葉に思わず喉がなる。


「やはり、そうでしたか……。それと、昨日、スノーさんがこちらへいらした

 そうですが、スーリンのことについて何か言ってましたか?」


 ルネさんが、ボロダーさんを非難するような目で見るとボロダーさんは、

ちょっと困った顔をした。ルネさんは、こちらに向き直ると話し始める。


「スノーさんからは、自分も最近まで石化病だったことや王都に行って聖女さまに

 見て頂いたこと、教会との関係が薄い立場の方に神聖魔法で治して頂いたことを

 お聞きしました」


 やっぱり、何か言っているとは思ったが……。ルネさんは続ける。


「その方とは、7日程で、連絡が取れるので、もうしばらく、待って欲しい

 とおっしゃってくれました。そして、この話は、誰にも秘密にしてほしいと」


 スノーさん、俺にプレッシャーを掛け過ぎないように気を使ってくれたんだな。


「わかりました。今の話は、聞かなかったことにします」


 ルネさんは、少しだけ微笑んだ。俺は次に確認して置くべきことを訊ねる。


「ブリジットさんから、このお店と教会や治療師との確執はお聞きしていますが、

 王都の聖女さまを頼るのは無理なんですか?」


 スノーさんの時は、聖女さまも匙を投げたらしいが、

スーリンなら、まだ完治可能かもしれない。


「スーリンは、15歳になったばかりでギルドに属していません。

 それに理由わけあって、役所に戸籍もないのです。

 ですから、カークから出る事ができません」


 前に聞いた話では、ギルドカードがない人が出都市する場合は、役所の証明書が必要になり、それを申請するためには、戸籍が必要だった。

そして、同じ都市でも、入都市はいるより、出都市でるの方が何倍も難しいらしい。


 ルネさんは、無念そうな顔をしていた。そして、続ける。


「極稀にですが、王都の主教会の聖職者でも高位の方が、各地の城塞都市へ

 順番に行幸されることがあります」


 ルネさんが、言うには、行幸の際、教会の威信を増すため、数日間、出自や門地を問わず無差別に無料で治療を行うらしい。スーリンの病気が石化病とわかってからは、新たな聖女さまのカークへの行幸に期待していたそうだ。


 そして、期待通り5月中に最初の行幸の地として、王都から近いこのカークへの行幸が、予定されていたらしい。


「ところが、先日ここに来た、教会の関係者と名乗る者が、

 すべてをめちゃくちゃにしてしまいました」 


 ルネさんは、そう話しながら、大粒の涙があふれた。

慰めるようにルネさんの肩を抱いたボロダーさんが、代わりに話す。


「あの薄汚いクソ野郎どもは、カークへの行幸を後回しにさせたんじゃ。

 これで、カークへの行幸は、いつになるかもわからん」


 無念そうに話すボロダーさんが、更に怒気を強めて話す。


「そして、あやつらは取引を持ちかけてきた。

 向こうの要求を呑めば、スーリンに神聖魔法による治療と、

 教会関係者用の出都市カードを用意すると言ってきおった」


 俺は、ブリジットさんの言葉を思い出した。


「ポーションと万病薬の製造禁止とジェーンのポーションのレシピの譲渡ですか?」


 ボロダーさんは、目を一瞬見開くと


「……そうじゃ。やはりトムス坊やは、恐ろしく切れるの。

 ………の…ルマ…が…………わけじゃ」


 小声で、ボロダーさんが何か言っていたが、よく聞こえなかった。それよりも。


「ごめんなさい。

 私のせいなの………私が不注意にもスーリンの状態を教会の人に………」

(犯人は、ルネさんだったのか、俺じゃなくてよかったよ)


 ルネさんは、ボロダーさんに許しを求めるようにボロボロ涙を零しながら言った。


「それを言うたら、戸籍に登録できんじゃったのは、ワシのせいじゃ。

 お前ばかりが悪いわけじゃねえ」


 ボロダーさんは、自分の手をあまりにも強く握っていたので、血が滲んでいた。


「それじゃ、スノーさんの言っている神聖魔法の使い手だけが頼りと言う事ですね」


 二人は、揃って頷く。俺は、自分が責任重大な立場なのが分かった。


「こう言う話は、お辛いと思いますが、スーリンは何時まで大丈夫そうですか?」


 ルネさんは、一切の感情を取り去った冷静な顔をするとしばらく考えてから。


「命の有無だけを考えるなら、短くて10日、長くて2週間前後です。

 でも、スーリンの心は、そこまで持たないかもしれません」


 そういうと自分の言葉を反芻し涙を溢れさせた。


「わかりました。

 俺も自分のできることを精一杯やって、皆さんのお役に立てる様にがんばります」


 何をがんばるのか、突っ込まれると答え難いと思ったが、ボロダーさんたちは、仕事の依頼の方だと思ったらしい。


「ええ。リュウイチさんには、配達の方をがんばってもらって、

 主人が少しでも病状に効く薬を研究する時間を作って下さい」


-------------------------------------------------------------------

 まとめ


 ブリジットさんの予想

 店に来たのは、教会のやつら。

 配達先で聞かれたのは、教会の流した噂のせい。 以上!


 速やかに神聖魔法の習得とボロダーさんの娘スーリンの治療が必要なようだ。

 しかし!アニーを怒らせてしまった。

 そこで、スノーさん監修による、

 『アニーと仲直りして、もっと協力してもらおう作戦』の始動だ!


 しかし、その前に確認することがある。スーリンの病状だ。

 やっぱり、石化病か。


 聖女さまの行幸を当てにしてたが、妨害された?

 余命10日程度か。急ぐ必要があるな。


-------------------------------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ