5.アギル改めミミです
俺は気絶した姉ちゃんを開放して、そこに簡易テントを建てた。
もともと森の中を歩き回って暮らしている俺は定住をしないので、ここ2年間、獣の皮と木の枝で作ったテントでたまに寝泊りをしている。
日差しを避けるために今回は姉をこのテントに突っ込んだ。俺は近くの川から水をとって来た。
久しぶりに姉ちゃんに会った。目が覚めるのが楽しみである。姉ちゃん、2年も経っちゃったけど俺のこと気づくかな….
さっき捕まえたイノシシを調理(といっても、肉を焼いてるだけだが)をしていると、テントの中からもぞもぞする様子を感じた。起きたのだろうか。
俺は見に行った。
「起きた?」
「うわ!?あ、あなたは…?そ、それにここはどこ…?私は生きてるの…?」
「落ち着いて!とりあえずこれ飲んで。」
俺は汲んできた水を姉ちゃんに渡す。しかし姉ちゃん混乱してるな。
いつ俺に気づくか楽しみだな。
「さっきのイノシシは俺が退治したから大丈夫だよ。今料理してるから後で食べよう。」
「えっ、あなたが!?なんでそんな危険なことしたの!」
姉ちゃん過保護だなぁ
「このくらいは大丈夫だよ。」
「大丈夫なわけないでしょ、あなたみたいなかわいい女の子がそんなことして怪我したらどうするの!」
やっぱ姉ちゃんは心配性だな。自分の命よりも俺みたいなかわいい女の子のことをしんぱ...女の子…?
そうだったああああああああああああああ!
俺は女の子になってるんだった!
これじゃあ気づいてもらえない!
「あ、あの姉ちゃん実は俺は…」
姉ちゃんが抱き着いてきた。
「約束して」
「へ?」
「だから約束して。もう危険なことはしないって。」
姉ちゃんが目じりに涙を浮かべながら俺に迫ってくる。
「いやだから俺は…」
「だめ。約束して」
「…」
俺が言いたいのは約束の話じゃないんだが...
「いい?約束しないさい」
「…はい。約束します。」
「よろしい」
なかなか話させてもらえない…
姉ちゃんはなかなか俺から離れない。
「実は私にも昔は弟がいたの。」
俺の話か
「それお…」
「私の可愛い可愛い弟。アギルって名前だったんだけど、私の目の前で足を滑らせて…」
「いやだかr」
ダメだ聞いてくれない。え、こんなに耳悪かったっけ姉ちゃん。
「でもアギルのことはなんとか乗り越えたの。今でもお墓を見たり、アギルの跡を見ると心が震えるけど、私は前に進まないといけないからね。アギルも、きっとそれを望んでる。」
「姉ちゃん…」
「だから、あなたにも命を粗末にしないでほしいの。アギルは大体あなたと同じくらいの年だったわ。アギルの分も、あなたには生きてほしいの。わかった?」
ごめん姉ちゃん。俺はアギル本人なんだ。
「うん…わかった…」
しかしここでそんなことを言うほど俺は空気が読めないわけではない。ここでは素直に従っておこう。
「よろしい。それで、あなたはなんていう名前なの?どうしてここにいたの?」
困った。
折角俺の死を乗り切ったのにここで俺がアギルだと名乗り出ちゃうと姉ちゃんの心をまたえぐっちゃうかもしれない。だって俺、モンスターだし。
となると、やっぱり女の子としていくしかないかなぁ…
「俺、いや私の名前は…ミミ」
「そう、私の名前はエレナよ。よろしくね。」
こうして俺は、アギルとしてではなく、ミミとして、姉ちゃん、エレナと再会した。