2.アギルは二度死ぬ
俺の名前はアギル10才。貧しい農村の一家の長男だ。
長男、といっても姉がいるだけで妹弟はいないから、むしろ末っ子にあたる。
今日も今日とて畑仕事だ。3才のころから手伝ってるから辛いとは思わない。
日常のサイクルに含まれてるから大変とも思わないが、そうは言っても疲れるものではある。
俺は畑仕事を終えて家に帰る。
「アギル君今日もお仕事お疲れさまぁ~」
自分より少し背が高い女の子が俺に抱き着いてくる。これがわが姉、エレナだ。
俺より2才しか変わらないくせに俺を子供のように扱ってしきりに抱き着いてくる。
俺のことをおもちゃか何かだとその年で未だに思っているのだろうかと思うこともあるが、まぁこれも家族のスキンシップだということにしてる。
「なんだよ姉ちゃん。仕事終わりで疲れてるからそっとしておいてくれよ。」
「そんな冷たいよアギル君….私のこと嫌いになっちゃったの…?」
「姉」が涙目で俺のことを見てくる。これ、姉としてどうなんだ。
「水浴びてくるから後にしてくれ。」
「じゃあ私も一緒に入るよ!アギル君一人じゃ寂しいでしょ?」
…本当にこれは私の姉なんだろうか。
「やめてよ姉ちゃん俺はもうそんなに子供じゃない!風呂だって一人で入れる!」
「そうやって強がってもお姉ちゃんにはわかるんだからね!さぁ一緒にはいりましょ。」
「強がってない!」
俺は姉ちゃんを振り切って風呂場に向かおうとする。その時、俺は気づかなかった。あしもとに布が転がっていたことに。
俺はその布に足を乗っけてしまい、ものの見事に転倒してしまった。そして手も姉ちゃんを振り払うために不自然な状態にあったため、自分の頭を守ることができなかった。俺は頭を地面に殴打した。
「アギル君っ!?」
俺を呼ぶ声がした。しかしその声に返事をすることができないまま。俺は意識を失った。
「ここは・・・?」
「ようこそ、異世界センターへ」
異世界センター・・・?なんか聞き覚えがあるような・・・?
「履歴書によると…貴方は二度目の利用ですね。お気の毒です。」
「は?二度目?」
どういうことだ
「貴方は10年ほど前にこのセンターを利用して異世界に転生をしていますね。異世界、といってもあなたにとっては自分が住んでいた世界ですが。」
え、何それ初耳なんだけど。
「仕方ないことですよ。転生する際には記憶を封印しますので。そうしないとあまりに知性が高い赤ん坊が生まれてきてしまいますからね。」
これは夢とかじゃないのか?どうにも現実感が沸いてこない。
「それじゃ、封印解きますよ。そうすれば納得もできるんじゃないですかね。と言っても、どうやら前世では脳をやられているようですので、ここでの記憶しか残っていなさそうですけど。じゃあ目をつぶってくださいね」
よくわからないまま目をつぶらされる。彼女は手を俺のおでこに乗せ、そして刺激が走る。
これが過去の記憶なのだろうか。今の自分とは似ても似つかない細い腕をしている者が目の前の女性としゃべっている。一人称視点だ。
この細い腕が自分の腕なのだろうか。この光景が、俺の封印されていた記憶なのだろうか…?
「思い出しましたか?それがあなたの記憶です。」
これが俺の記憶…ということは俺は本当に、「二回目」だというのか….。
「本当にお気の毒です。そんなお気の毒なあなたに、一つ提案があります。」
提案?
「はい、提案です。あくまで提案なので、断っていただいてもかまいません。」
なんだそれは。詳しく説明してくれ。
「実はですね、あなたに生き返ってほしいのです。」
生き返る?俺はまたアギルとして生きていけるのか?
「いえ、アギルとしてではなく、モンスターとして。」
……は?
「貴方には、モンスターとして生き返ってほしいのです。」
はああああああああああああああ?なんで?
「実は今『ミミックスライム』というユニークモンスターの枠が空いてまして。あ、ユニークモンスターというのは一体しかいないレアなモンスターなんですけど、ちょうど10年ほど前にミミックスライムが亡くなったので10年後である今新たなミミックスライムを世に送らないといけないのです。」
なんでそれが俺なんだよ!
「今自我を持ってミミックスライムになることができるのがあなたしかいないのです。」
断ったらどうなる?
「仕方がないのでミミックスライムは自我を持たないモンスターとして生まれます。その場合、むやみに村を襲ったりして被害が出てしまうかもしれませんが仕方ありません。」
まじかよ……俺がやらなくちゃいけないのかよ…
「別にやらなくてもいいんですよ?被害が出るだけですから。」
それは実質俺がやらないといけないと言ってるのと同じじゃねえか!
「で、やってくださるんですか?」
仕方がないだろやるしかないじゃん
「ありがとうございます!お礼としてなんですが、こちら異世界センターからの餞別として、記憶の封印免除と人化の術を贈呈しますね。」
なにそれ人化の術って。
「この術を使えば、あらかじめ人間に変身することができます。ミミックスライムは自分が捕食した生き物に変化することができます。まぁ人化の術があれば人間を食べずに人間になることができますので、便利だと思いますよ。」
そうか、これはありがとうというべきなのか?
「いえ。お気になさらず。それではそろそろお旅立ちの時間にいたしましょうか、目を閉じてください。」
俺は目を閉じた
「それでは、いい旅を。」
そして、再び、暗転。