ちょっとした御話
ちょっとだけホラーチック?な作品となっております。タグの通りバッドエンド一択です。
注意して閲覧してください。色々とひどいです。
「…………」
橋の欄干には強い風が吹いていた。背中に強く当たっているため、今、手を離せばバランスを崩して簡単に下に落ちることが出来るだろう。橋の下には川がある。もし、僕がこの世に必要な人間なら助かるはずだ。そしてもしも、必要がなければ…………
その先のことを想像して、ごくりと唾を飲み込んだ。ここに来てから約40分。欄干に乗ってから15分が経過しようとしていた。決心が固まらなくて、もう何度も登っては降りて、登っては降りてと繰り返している。
そして、深呼吸をしてまた欄干から降りようとしたとき。
「やめちゃうの?」
そいつは僕の真後ろに、いつの間にか立っていた。
「うわぁ!?だ、誰だ!」
そいつは小学生くらいの見た目で、しかし雰囲気はその容姿に見合わず、まるで感情が死んでいるかのようにひどく静かだった。
「別にいいじゃん、誰だって。それより、やめちゃうの?」
「え……」
「飛び降りないの?登ったのに?」
「…………」
そいつは不思議そうに俺を見ている。そして俺が返答に戸惑っていると、さらにこう言ってきた。
「何で死にたいの?」
「……お前に言ったところで…………」
うつ向こうとするが、そいつはさらに続ける。
「何で死にたいの?それは、家族とか、友達とか、そういう人達を悲しませてまでやり遂げたいことなの?」
「…………」
そいつの言葉に思わず黙ってしまう。確かに、突発的な行動だった。けど、別に軽い気持ちでやろうとしたわけじゃない。だんだんと腹が立ってきて言い返す。
「うるさいな!お前には関係無いだろ!」
「うん」
「…うん、って…………」
なんだか拍子抜けしてしまう。そいつはこう続けた。
「君が今、ここで死んでも僕には関係ない」
「……お前、とめたいのか?それとも飛び降りさせたいのか?」
「どっちでもいいよ。好きにしたらいいじゃない」
その言葉に底知れない悪意を感じて、身震いする。そいつはため息をつきながら地面に座り込んだ。
「そうやって、関係ない、放っておいてくれ、とか言って、かまって欲しがって」
「なっ……」
「けど、誰にも振り返ってもらえない」
「…………」
そいつは全てを見透かしているかのように話している。しかも、全部当たっている。
「当たり前だよ。言葉でしか伝わらないんだから」
「……本当に大事なことは、心で__」
「伝わらないよ。実際、今君が死のうとしてるなんて誰も夢にも思わない。家族でさえも」
「……だって、言ったって…………」
「本気かどうかなんて本人にしか分からない。けど、必死になって伝えるからこそ伝わることもある。僕はそう思うけどね」
「…………」
「伝える努力はしたの?」
「……してない」
「しなくていいの?」
その質問で、胸に込み上げてきた思いはたくさんあった。下らないことで喧嘩して、下らないことで口応えして、友達も、親もたくさん傷付けた。
「……実はさ、死ぬ気なんてなかったんだ」
「…………」
「ただ、ちょっとだけ心配させたくて……」
「…………」
そいつは黙って俺のことを見ている。
「けど、大人しく家に帰るよ」
「……そうか」
「ありがとな。止めてくれて」
「礼を言われる筋合いはないよ」
「ははは」
僕が笑っていると、遠くから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。その声はだんだんと近付いてきて、近づくにつれて声の主が分かってきた。両親だ。 こんな夜中に、いなくなった僕を捜しに来てくれたのだ。
「おーい!」
両親の方へと手を振る。両親はそれに気づいて慌ててこちらに駆け寄ってくる。家に帰ったら両親とたくさん話をしよう。それから感謝の言葉を伝えて、今までのことも謝らないと。
最後に、僕を引き留めてくれたそいつに礼を言おうと下を向こうとしたとき___
カンッ
「あっ」
___グジャッ!!!
*****
後日、彼の部屋から遺書が発見されたらしい。警察は自殺と断定。捜査はされずに終わった。
「~~♪」
鼻唄を歌いながら街を歩いていると、同僚に声をかけられた。
「よぉ、また成功したらしいな」
「まぁね」
「聞いたぜ。相変わらず趣味の悪いやり方してるよな」
同僚の言葉にふと、あのときのことを思い出した。
家族を見つけて喜ぶ少年、その顔が、一瞬で歪んだあの瞬間を。
「さすが、最悪の死神だな」
これだから、仕事はやめられないのだ。
後味の悪い作品を作りたくて書きました。
初投稿なのでご指摘をもらえるとありがたいです。
part2 親不孝
part3 好奇心




