魔女の思い
私はかつて赤髪の勇者と呼ばれていた頃がある。
その時代、魔王は歴代で有数の魔法使いで
また、私も歴代勇者の中で1、2を争うほどの魔法使いだった
そんな私と魔王との戦い
勝負は長引き、お互い最後の力を振り絞った一撃により勝敗は決した。
魔王の魔法を打ち砕き
立っていたのは私と支えあっていた仲間達
私の勝ち‥…だが違っていた。
私は魔王からある呪いをかけられていた。
一番大切なものを食べてしまう
そんな狂った呪い
私にとって一番大切だったのは、今まで守り抜いてきた人、人間達だった。
主人を無くした魔王城
その戦いの後の広間で私は一緒に苦楽を共にした仲間を殺し‥…
食べた。
どれだけ拒んでも
どれだけ自分を傷つけようとも
手や口は止まらず
全て平らげてしまった。
残ったのは、魔王の死体のみ。
私はその死体を母国に送り姿を眩ました。
もう、人とは関われない。
そう思い、人里離れて暮らしていたのだが‥…
ある時、気がつけば私は村の中にいた。
真っ赤な鮮血に染まった村の中心にだ。
その村にもう人は一人もおらず、全て私が食べ尽くしてしまっていた。
絶望した。
呪いは凄まじく
一定期間人を食べなければ我を失い無差別に人を襲ってしまう。
それに気づいた私は、適度に悪人を殺しつつ食べることにした。
不味い
不味い
不味い‥…
悪事を働いた奴らの味は最悪で
もう、食べることに嫌気がさすほどだった。
そして思い出してしまう。
かつての仲間達の忘れられないあの味を‥…
もう、その頃の私は呪いに蝕まれ壊れ始めていたのかもしれない。
私は、近くの村から身寄りの無さそうな少女を拐った。
「お姉さんは私をどーするの?」
「私は‥…」
そう、問い詰められなにも答えられず
数日間少女と暮らした。
いろんなことを教え
少女のいろんなことを聞き過ごした。
でも、別れは直ぐにやって来た。
私は呪いの力に耐えきれなくなった
少女の腕を魔法で切り落とし
魔法ですぐさま傷を塞いだ。
少女の絶叫が響く中
私は切り落とした腕を一心不乱に食べ始める。
美味しい
美味しい
美味しい‥…
気がつけば、少女の声は聞こえなくなり
腕を食べ終わる頃には静かになっていた。
「おねぇ‥…ちゃん?」
少女の掠れたような細い声が耳にはいる。
私は直ぐに、少女の顔を覗き込むと涙を流しながら少女は私の頬に触れた。
「泣きながら‥…美味しいって食べるって変だね‥…美味しいなら‥…笑うんだよ?」
焦点の定まっていない少女
私にそれを言い残しそのまま息絶えた。
私は最早戻れない。
もう、人の形をした化け物なのだ。
私は自身に魔法を掛け
持っていた力をいくつも封印し森へと引きこもる。
その姿は自分の行いを忘れないようにその少女の姿へと変えて
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自身にかけた魔法のおかげか、呪いは少し弱まり暴走するのは少なくなった。
しかし人は食べねばならない。
私は森に入ってきて警告しても帰らない人間や、人を襲う悪人を食べ過ごしてきた。
気がつけば私のすむ森の近くに街ができ
東側の魔物を殲滅する変わりにと供物を貰うようになる。
供物は人だった。
それはその時その時で変わり、
供物として捧げられた人間は殆どが街で大きな罪を犯した者達だ。
しかし、冤罪などもあった。
その人達は望むならと復讐をさせ
対価としてからだの一部を食べ自由にさせた。
そんな生活を続けているとある時一人の少女と出会う。
綺麗な黒髪の少女
もとの私からしたら幼いこの少女は、この世界に送られた異人だった。
始めて彼女の記憶を覗いたとき
その生い立ち、こちらの世界に来てからの仕打ちに私は悲しんだ。
そして、この子なら私はずっと一緒にいられるかもしれないと喜びもした。
不死
この世界に送られたときに渡されたであろうその力に、私は心奪われた。
少女の了解もろくにとらず、現状を説明しパニックにさせるも
何とか、お互いにいい関係を築けることに成功した。
この娘は大切にしよう。
勝手な私だが、笑顔で一緒にいてくれるアオバという少女を‥…