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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

名無しの短編集

Professional killer

作者: ネームレス

『…というわけだ。頼んだぞ』


「へーへー。了解しましたよ」


何処とも知れぬ世界。魔法と剣の世界では無い。だからと言って日本でも無い。ファンタジーのようでファンタジーじゃ無い世界。気付いたらそんな場所にいた。

転生、という奴だろうか。それとも異世界トリップ、という奴だろうか。まあ、どっちでもいい。

この世界では“殺しが仕事”になる。俺の好きな、殺しが。その事実だけで十分だった。


『いいか!お前なら確実だ、と聞いたから頼んでるんだぞ!』


「俺の成功はその日のモチベーションに状況、後は運だ。今までは成功しただけ。他よりも成功した回数が多いだけ。頼んできた側のくせに文句言うなボケ」


この世界は日本、というか地球に限りなく似てる。品物も、風景も、ほぼ同じ。


『なっ!?貴様、我を誰だと思って』


「知るかバーカ。俺に依頼してくる奴は誰かを死を願うクソ野郎だ。きっちり最後の最後、地獄の果てまで強制連行、絶対に成功だがなんだか言うんだったら自分でやれ。お前の頭はそんな事もわからないのか?」


この世界は魔法は無い。そのため科学技術はかなり発達してる。俺が今使ってるのも見た目は携帯と同じだった。


『………わかった。では、頼んだ』


「へーへー。りょーかいっと。この飛沫(シブキ) (ナガレ)にお任せあれ」


殺し屋。俺の仕事だ。誰かを殺す。そのためだけの存在。

連絡を切り、俺は意識を入れ替える。


「今回の目標(ターゲット)はこの世界でもトップクラスの資金を持つ風流家の一人娘、風流(フウリュウ) 華蓮(カレン)。こいつはどんな悲鳴を聞かれてくれんのかね」


俺は思わずにやける。ただこの先、殺す目標の悲鳴を想像するだけで、ゾクゾクする。

殺しに飢えていた。

それが俺だった。


・・・

・・


「あそこか。いやー、豪勢だねー。こんなに広いと逆に住みにくそうだ」


現在、高台から望遠鏡を使い風流家の場所を確認していた。

最初は探すのは大変かと思った。今までも、金持ちの家は大きいっちゃ、大きいが、実際そこらの家を一回りぐらい大きくしたものだった。

この世界の金持ちは家を大きく、よりも、家の中をどんだけ豪華か、を重視する。

そのため、家の物全てが貴重品、しかも常に綺麗じゃ無いと気が済まない、ということだ。使用人もなるべく少なく、優秀な者を雇う。量より質、それがこの世界だ。

そのため、予想よりも遥かにでかい、それどころか、みんなが想像するような金持ちの家を全てを超える勢いででかい、風流家の家は途轍もなく見つけやすかった。

俺は携帯を取り出し、風流家の功績を確認した。


「えーと、70年前に突然現れた資産家で、当時そこを統治してた高嶺家をほんの3年で市民の信頼と票を獲得し、追い越した。その後も『親しみやすいトップ』として栄えている。

だが、数年前に謎の爆発事件が起こる。その被害は膨大で至る所で爆発が起こった。だが、その被害に対し、現3代目当主は迅速な対応をし、被害を最小限に抑えた。その功績は今も街の市民からの信頼を強固なモノとしている、か」


めっちゃ良い奴じゃん。どうしてこういうのを殺して欲しい奴がいるんだが。…実際には娘だが。


「今夜中に逃走経路確保、侵入経路確保して、実行は1週間後でいいか。その間に目標に接触できるならして、と。こんぐらいか」


いつも通り。後は殺して逃げる。いつも通り。

これから血が見れると思うと、身体中の血が沸騰するような感覚を覚える。


「我慢しろよ?俺」


獰猛な笑みを、俺は浮かべていた。


・・・

・・


「拠点はここでいいか」


見通しのいい山の山頂。ここにテントを設置する。ここならいつでも監視ができる。


「にしても、異世界つっても、魔法も剣もスキルも神もレベルも魔道具もポーションも魔物もダンジョンも騎士も街を守る結界も高い塀も幽霊も悪魔も亜人も錬金術も………etc.

本当に何も無えなー」


魔法ではなく科学。剣ではなく銃。スキルではなく技術。神ではなく信仰。レベルではなく練習。魔道具ではなくただの道具。ポーションではなく傷薬。魔物ではなく野生動物。ダンジョンではなく遺跡。騎士ではなく自衛隊。街を守る結界ではなく警察。高い塀ではなく検問所。幽霊ではなく勘違い。悪魔ではなく凶悪犯。亜人ではなくコスプレ。錬金術ではなく合成。

どれもこれも異世界にありがちなモノを全て排除してやがる。まあ、仕事がしやすくていいのだが。


「でも、変にわけわからん物が出るよりマシか」


見たことも無い植物、動物、事象、現象、道具、仕事、…etc.が出るよりよっぽどマシ。特に、食事なんか見たこと無いのが出たら、俺はこの世界で生きていく自信は無い。


「…さ、何時までも愚痴ってないで、食糧調達といきますか」


金は今までの依頼の報酬が有り余ってる。はっきり言えば、贅沢しなければ一生暮らせるだけの金が。


「…まあ、その大金が麻袋に入ってるってのは、かなり悲しい状態何だが…」


サンタクロースも驚く大きさで、サンタクロースも涙を流すボロさの麻袋。今にもそこが破けそうだ。


「………頑丈で大きい袋、売ってるかね~」


この依頼がもし成功して、また大金が入ったら、この麻袋は使いもんにならなくなるな。確実に、絶対に。


・・・

・・


「流石は世界有数の資産家、風流家がある街だ。活気もあるし、何より品物が豊富だ」


右も左も前も後ろも、というか全方位が店と人に溢れてる。


「…美味そうな匂いだ」


外食店もある。いかにも、高い!、という店も無く、どれもこれも親しみやすそう入りやすそうな店だ。


「お、あんた観光客かい?」


「ん?ああ、そうだ」


「あっはっは。やっぱそうかい。珍しそうにキョロキョロ見てたからなー」


「噂じゃ聞いてたよ。これ程とは思わんかったがな」


よし。このおっさんから情報を聞き出そう。一週間は住むんだしな。


「そうかいそうかい。だったら聞きたいことはあるか?俺はこの街に住み着いて長えからな。だいたいの事は把握してるぜ。ま、他のやつも大抵そうだがながっはっは」


愉快なおっさんだ。


「助かるぜおっさん。そうだな。金持ちが住んでる街だから高級そうな店とかいっぱいあるイメージだったが、結構庶民的だよな」


「ああ、それかい?それはな、ここの領主、風流(フウリュウ) (ハヤテ)殿が無駄使いをお嫌いだからだな。あと、一部の人しか使えないモノより、みんなが利用できるモノの方が便利だからという理由らしい」


「ほおー。そりゃお優しい領主殿だ」


俺が知ってるのは金に目が眩んでたり、権力に固執したり、気に入らない奴は老若男女誰でも処刑にするとか、クズばっかだからな。


「だが、領主の家が俺の知ってる領主の家より、かなりでかいのは何でだ?」


それは無駄使いでは無いのか?


「それは、領主殿の家が避難所の一つだからさ。見た目が大きいだけなら、領主殿の家以外にもあったろう?そこは避難所なのさ。で、領主殿が自分の家も避難所にしちまおう、て考えたのさ」


「別に、必要無くないか?」


「あっはっは。確かにな」


「ん?怒らねえのか」


「なんのなんの!そのぐらいじゃ怒らねえよ。あんたと同じ事を考える奴はいっぱいいるよ。俺もそうだったしな!だがな、『どうせだったら自分の家を強固にしとけば避難の必要無くね?』とか領主殿は考えてな、全く横着な領主殿だよな。でも、領主殿の家はこの街の中心だからなー。避難所として使う者は多いんだこれが。しかも!領主殿は避難所を体育館とか称してさ!休みなんかは子どもはみんな、領主殿の家さ」


「いやそれは、何か凄いな」


「しかも!月の半分くらいは秘書に仕事おっつけて自分は街に遊びに来てんのさ。自由だね~」


「本当にな!何処まで自由なんだよ!?」


「その分、みんなは親しみやすくてな。普通に呼び捨てだったり、ツッコミを本気でやる奴も大半だ」


「“多い”じゃなくて“大半”だと!?おっさんは珍しい人なのか!?」


「俺の知り合いは全員呼び捨てだぞ?」


「珍しい奴だった!」


このおっさんがレアだと?マジでこの世はわかんねー。


「いや、話がそれたな」


「あっはっは。全くだ」


元気だなー。


「んじゃ、ここら辺でオススメの食材か店ってあるか?」


「そうだな。オススメの食材は魚類だ。魚」


「魚ね」


「店は…メイドカフェだ」


ドヤァ、という得意気なおっさん。


「じゃあな変態。教えてくれてありがとよ」


「あれ!?何か名称が変態になってる!?」


「気のせいだろ変態」


「いや、今言ったよな!?」


「そういう意味じゃ無えよ」


「んじゃ、どういう?」


「最初から変態って呼んでたってことさ」


「最悪だな!?最初はおっさんだったよ!?」


「ついでに、メイドカフェはどんな所なんだ?」


「お、結局興味あんのかい。いいぜ、ここのメイドカフェを教えてやろう。まず、客がメイドを指名できる。【ツンデレ】【天然】【僕っこ】【幼女】【物静か】【お嬢様】【家庭的】などなど!オプションアイテムだと【動物耳・尻尾】【ミニスカメイド服】【あざとい台詞】【特殊行動】とかだ!ついでに特殊行動は一部のメイドさんにしか使えないオプションで、例えば【天然】と合わせるとワザと転んでパンチラとか、そういうのだ!俺はついでに全てを確認済みでプラチナ会員カードも持ってて…」


「じゃあなキモい変態」


「ランクアップしやがった!?」


いや、当たり前だろ。


「気のせいだろキモい変態」


「そんなゴミを見るような目で見るな!」


「また勘違いだぜキモい変態」


「その呼び方はやめ」


「ゴミじゃない。クズだ」


「実質的にはあまり変わらないよねえ!?」


「諦めなキモい変態」


「くー!この街じゃ珍しい事じゃ無い!領主殿はすでにプラチナの上の上の上!オリハルコン会員なんだぞ!」


「ダメだろそれ!?」


ついでに、

オリハルコン→アダマンタイト→ミスリル→プラチナ→ゴールド→シルバー→ブロンズ→一般

らしい。


「…よし!少年におじさんがメイドカフェのいいところを伝授してやろう!もちろん、メイドカフェでだ!」


「断る!」


「さあ来い!拒否権は無い!」


「無いのかよ!?おい!待て!引っ張るなあああああーーーーーー!!!」


結局、メイドカフェに連れてかれた。料理は美味かった。ごちそうさま。


・・・

・・


「全く。酷い目にあった」


あのおっさん。無視するおれに永遠に説明し続けるもんな。忍耐強いな。


「ま、あのオチは笑えたが」


あの時、


『あんた!何をしてたんだい!』


『ひ!さ、さえさん!?』


『え?誰?』


『俺の妻さ。美人だろ?』


『ドヤ顔やめい』


『あっはっh』


『笑ってないでさっさと戻ってきな!あんた、この一ヶ月でどんだけメイドカフェに突っ込んでるんだい!』


『うっ!」


『ほら!さっさと仕事をしな!』


『しょ、少年!助け』


『おばさん!捕まえたぜ!』


『よくやった!』


『裏切ったな少年!?』


『うっせえ!仲間になった覚えも無いわ!』


『いや、しょうn』


『グダグダ言ってないでさっさと来な!』


『いやあああああーーーーーーー!!!』


うん。いい記憶だ。


「さーて、とりあえず、魚でも買いに行くか」


当初の目的、食糧の入手。まあ、遠回(メイドカフェ)りで結構時間かかったしな。


「まずは市場を一通り見て…ん?」


何か、周りからの視線を凄く感じる。俺、何かしたか?


「あ、あの」


「ん?」


後ろから声がする。


「す、すいません」


「お前、誰だ?」


俺の後ろには少女がいた。うむ。一部の特殊思考のおっさんや同年代からはモテる容姿だ。普通に言えば、可愛い。普通に可愛い。

だけど、こいつ…


「聞きたい…事が…あり、あある、あるんですけど」


「あーはいはい。観光で今日来た奴に何を聞きたいかはわからんが、とりあえず演技はやめろ」


「…え?」


「聞こえなかったか?演技をやめろと言ってるんだ」


周囲の人たちからお~、と、驚かれてる。どういう事?


「あら~。ばれちゃいました」


さっきまでのオドオドした様子とは一転、一気に明るい笑顔となる。


「結構高いレベルだな。が、俺の目は誤魔化せん」


「そのようですね。でも凄いですよ。私、観光客の皆さん全員に同じイタズラをしてて」


「お仕置きだクソガキ」


思いっきり殴る。


「いたー!?いきなり殴らないでくださいよ!クソガキって、ガキじゃないです!これでも17歳です!」


「何だと!?」


俺は18。一つ下のようだ。


「こんなチビなのに?」


「言ったあああーーー!みんなが気を使って触れてはいけない暗黙のルールになってる話題を包み隠さず言ったあああーーーー!!」


「いや、それを言っちゃダメだろ」


暗黙のルールをその対象となってる本人が知ってたらあまり意味無いだろ。ほら見ろ。周りの人も苦笑してんじゃねーか。


「じゃ、用事はこれで終わりだな」


「まだ終わってないです!」


「幼児の用事。つまんな。もっと笑いの腕を磨いてから来やがれ」


「うぅ!たしかにつまらない!わかりました!修行して…たまるかあああああーーーーーーー!!!なんで私が言ったみたいになってるんですか!?言ったのあなたでしょう!?」


「いや、お前がチビだけならず貧乳という、本当に一部の人間にしか需要が無い幼女体型をしてるのが悪い」


「巡り巡って私に回って来た!?いいです!まだ成長期が来てないだけなんですから!」


「…そうだといいな」


「いきなり優しい声音になって憐れまないでくださいよおおおーーーーーー!!!」


「わかった。その言い訳マジウケるwwwその年で成長期とかwwwマジでwwwwwwありwwwwwwwwwwwwwwえなwwwwwwwwwwwwwww」


「うるさいですううううううーーーーーーーーーーー!!!!」


「…ガキが」


「一言に全てを集約しないでください!怖いです!」


「ああもう!いちいちうっせえガキだな!」


「結局はそれですか!?」


「いやー、久しぶりに楽しませてもらったわ。じゃ、俺はこれで」


ふー。久しぶりに思いっきり毒吐いたぜ。スッキリスッキリ。


「その扱いは酷すぎでしょおおおおおーーーーーーーーー!!!」


後ろから絶叫が聞こえるが、俺はそれを無視して市場へと向かった。


・・・

・・


「ふぁ~。ねみ」


現在テント内で料理中の俺。時刻はすでに7時であり、はっきり言って、遅すぎる晩飯だった。


「にしても参るぜ。あのキモい変態、また来やがるからな」


逃げてるうちにこんな時間だった。あのキモい変態、できる。


「…と、こんなもんか」


焼く、煮る、炊くの超手抜き料理。まあ、得意なわけじゃ無いしな。


「んじゃ、いただきます」


しばらくカチャカチャという音だけが響き渡る。

食べ終わり、食器類を洗った所で外に出た。


「星空か。今日はいい天気だな」


と、いう事で、日課である、殺しの相棒、サバイバルナイフの手入れをする。


「……………………………ん?」


サアアアアアアア、と、風の音がする。その中に俺は違和感を感じる。


「…………………………………」


サアアアアアアアアザアアアアアア


「そこだ!」


手近の石を草むらへ思いっきり投げる。


「いた!?」


少女の声が響く。この声…まさか。


「昼間のうざったいアホ面下げてるチビのクソガキか?」


「いきなり罵倒ですか!?休む暇も無いんですか!?」


やはり昼間のうざったいアホ面下げてるチビのクソガキか。


「やはり昼間のうざったいアホ面下げてるチビのクソガキか」


「心の声がそのまま声に出てますよ!?」


「済まん。(わざ)とだ」


「なお悪いです!」


「どうした?死にたいのか?」


「飛躍した考えですね!?」


「少女は家で酷い仕打ちを受けていた。だが、健気な少女は外では必死に明るいキャラを演じていた。しかし、その日、街に来た観光客に罵倒の数々を言われ心はズタボロ。ギリギリのラインで保たれていた心の均衡は崩れ、少女は崩壊する。せめて、最後に素敵な死に方をしたい少女は山頂で星空を見ながら死のうとする。だが、山頂に登ると昼間の観光客がいた。ダークサイドに堕ちた少女は自殺より先に復讐を決意。壊れた心の狂気が観光客を襲う!」


「長々とご苦労様ですねえ!?」


「で、何をしに来たんだ?」


「急に戻しましたねえ!?」


「うっさい。殺すぞ?」


「物騒過ぎですうううううーーーーーーーーーーーーー!!!」


「というか、そのモノローグだとあなたが1番悪いじゃないですか!」


「あー、ほんとうだー。きづかなかったー」


「棒読み!超棒読み!」


「ごめん!悪かった!この埋め合わせいつか絶対するから!頼むよ!」


「くぅー、頭下げて手も合わせるなんて、…わかりました。次の日デートはまた後じt…待ってください。何で私とあなたが付き合ってるみたいになってるんですか!?」


「好きだ。付き合ってくれ」


「まさかの告白!?」


「必ずお前を不幸にするから!」


「そこは“幸せ”でしょう!?」


「え?お前ドMだろ?」


「私のキャラを勝手に決めないで!?」


ふう。


「で、何でここに来たんだ?」


「急に話を戻すなああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


肩でぜーぜー、と息をする昼間のうざったいアホ面下げてるチビのクソガキ。


「私もこの星空を見に来たんですよ…」


「ふーん」


「興味無さ気!?」


「無えもん」


「アッサリし過ぎですねえ!?」


「んじゃ、お休みー」


「やる事なす事全部自由ですねえ!?」


「うっさい。その体半分に割けるぞ」


「………………………………」


ふっ、ようやく自分の立ち位置がわかったか。


「………」


少女はなるべく音をたてないように静かに寝っ転がる。星空を眺めてるようだ。

…そういえば俺、風流 華蓮がどういう奴か、全く知らねえな。聞いてみっか。


「おい」


「…何ですか」


機嫌悪そうだな。どうでもいいけど。


「お前、風流 華蓮ってどういう奴かわかるか?」


「………ぷふっ」


笑われた。


「あはははははは!知らなかったんですか!ぷ、くふふ、はははは!あー、腹痛い」


「ブッ殺すぞクソガキ」


本当に亡き者にしてやろうか。


「あははは。すいません。ひーひー」


何処まで笑う気だこいつ。


「風流 華蓮ですか。知ってますよ。よーく知っています」


「関係者か?」


「いえいえ。じゃあ、あなたに聞きますけど、“誰か”について知りたい時、その“誰か”について、1番知っている人って、誰だと思います?」


「はあ?そりゃ、親とか友人とか、身内もしくは身近な奴じゃねえのか?」


「違いますよー。“誰か”の行動も、“誰か”の思考も、“誰か”の望みも、全てとはいかなくとも、その“誰か”について1番知っている人はただ1人です」


「どういう、ことだ?」


こいつは何を言っている?こいつは何を知っている?


「答えは、“本人”ですよ」


………“ホンニン”?


「お前、まさか」


「そのまさか。あなたが知りたがってる“風流 華蓮”。えー、誰よりも知っています。なぜなら


私が“風流 華蓮”だからです」


「っ!」


こいつが、風流 華蓮…。

こいつが、目標(ターゲット)…。

こいつが、“ここにいる”。

なら、殺せばいい。


殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ


「………そうか」


俺はゆっくりとナイフへと手を伸ばす。


「ええ。それにしても、まさか私を知りたかったとは、私も隅には置ませんねー」


明るい声で、はしゃぐように、話してくる。


「何か知りたい事はありますか?できる限り答えてあげてもいいですよ!」


元気に、疑いもせず、話してくる。


「そうだな」


「何でもどうぞ!」


だから、俺は、


「じゃあ、





























お前はどんな悲鳴を上げてくれる?」


「え?」


俺のナイフは風流 華蓮へとその刃を走らせた。


・・・

・・

殺した…

はずだった。

仕留めた…

はずだった。


なのに、


「どうして、“生きている”?」


「あいたたた…」


首を狙った。首を刈れば、生きれる奴などいない。だから、狙った。


「まさかの殺し屋さんでしたか…。これは、驚きました…」


避けられた?あのタイミングで?


「危ないですね…。“私じゃなかったら”死んでました」


…“私じゃなかったら”?


「…どういう意味だ」


「そのまんまの意味ですよ」


「そんな答えを聞きたいわけじゃ無え」


1週間いらないと思った。なのに、こいつは生きている。この場で殺すはずだったのに、こいつは生きている。


「…数年前、謎の爆発事件で私の体の殆どは消えました。はっきり言って、死んだ、という事でしょう。だけど、私は生き返りました。体の殆どを“別のもので肩代わり”して。何をどうやったか詳しい事は知りません。ですが、私は頑丈な体を手に入れた。医療と科学の勝利というわけですよ。…体の成長は止まりましたが」


「…成長期はこれから、て言ってなかったか?」


「うるさいですよ!これから先、一生背が低いというコンプレックスと育たなきゃいけないんだから諦めきれなくて当然じゃないですか!」


失礼ですね!と続けて怒ってるアピールの風流 華蓮。

…こいつの過去などどうでもいいが、ダメージを与えるなら、その“殆ど消えた場所”以外を狙わなきゃなんねえ。だが、“殆ど”だ。あまり多くあるとも思えない。奴は絶対にそこを集中して守ってくる。1番確実なのは頭だが、それは奴も予想済みのはずだ。


「殺し屋さんは私を殺す依頼を受けたわけですよね?」


「…だからどうした。俺を処刑にでもするつもりか?」


強がりを言ってはみるが、完全に声は震えてる。

スペックも、経験も、全てに関して俺が上。だが、俺は奴を殺すには、奴の防御を掻い潜り、その脳天にナイフを突き刺すしかない。

だが、奴の体には、傷をつけることができなかった。

この世界には魔法なんて都合のいいものは無い。銃だって、予め弱点を防御しとけばいい。そもそも持ってない。銃よりも遅いナイフはわけ無いだろう。

王手。限りなく詰みに近い王手。

どうする、どうする、どうするどうするどうする…


「提案があります」


この空間に、凛とした声が響き渡る。


「提案、だと?」


「ええそうです」


こいつ、ふざけてんのか?


「いやー、実は親が思いの外心配性でしてね」


「おい、何を勝手に話進めてんだ」


「あなたに他の選択肢があるとでも?」


「………チッ」


「では続きですね。まあ、それで親がボディガードつけろとうるさいんですよ。でもですね、ボディガードの皆さん、堅苦しくて。街の人は私の事知ってますし、体の事も知っています。だからつけてもいいんですが、やっぱり融通が効かないのは問題なんですよねー」


困ったもんです、と続ける。


「それで!あなたに頼みたい事はただ一つ!」


ズバッ、と音がしそうなほど勢いよく、指をこちらに向ける。


「おい、待て。まさか…」


「そのまさかですよ」


それはもう明るい笑顔で、声で、提案。


「私のボディガードやってください」


自分を殺そうとした奴を、自分の身を守る役職に置く。


「…アホかああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


俺の絶叫が空に響いた。


「アホか!?アホなのか!?自分を殺そうとしてる奴を自分の近くに置く!?頭おかしいんじゃね!?」


「重々承知です。ですが」


はっきりと、自分の答えになんの疑いも無く、


「あなたは私を殺さなければ、次の依頼は受けれないでしょう?」


言い放った。


「………………………………」


唖然。

きっと今の俺はとても無様な顔を晒しているだろう。

こいつはきっと見切り発車で事を進める、脊髄反射で動く奴だ。

何も考えていない。俺は今、ここで依頼を破棄すれば、次の依頼(コロシ)へと移れる。多少、名声も下がり、依頼も来なくなるだろうが、俺にはすでに、汚ねえ貴族のボンボンから巻き上げた金が、一生暮らせるだけの額がある。


「あなたはこう考えているでしょう。『依頼を破棄すれば次の依頼へ移れるから、小娘の提案に乗る必要なんか無い』と」


「…………………………」


概ねその通りだ。


「なら、こういうのはどうでしょう?」


「ああ?」


「バーカ」


「…………………………」


イラッ


「女の子1人殺せないで、よく殺し屋できますね」


「…………………………」


ビキッ


「そして終いには、女の子を殺せないから、依頼を破棄、ですか。ほんと、ここまでくると感嘆に値しますよ」


「………て、テメエ」


殺す!絶対殺す!


「ほら、どうしました?先ほどのように襲ってきたらどうですか?まあ、しかし、こう言うのは意地悪ですかね。なんせ、“あなたは私を殺せない”のですから」


「っ!」


俺はナイフを構え、一気に踏み出す。

声は出さない。そんなの素人の仕事だ。狙うのは頭、と見せかけての太もも!

とにかく、攻撃しまくって通じる所を探す!


「うわ!うわ!」


慌てる風流 華蓮をよそに、攻撃しまくる。右太もも、左手、右肩、右わき腹、左足、


「いたっ!?」


「っ!」


ビンゴ!


「左足か」


「あ、やば」


殺す。


「死ねよ、お前」


「まあまあまあ、話し合いをしましょう。言語は人類の大いなる発明なんですよ?」


そう言われて、止まる俺じゃあ、ない。

ナイフを振り上げ、慌てる風流 華蓮をよそに、左足を突き刺ー


「何をやってんだー」


『いえー、何でもありませーん』


くっ、ここで市民とエンカウント。

俺は即座にナイフを隠す。


「お、華蓮ちゃんかー。相変わらずここ、好きだねー」


「それ程でもー」


「そっちは噂の観光客かい?ここにテント張ってるのか」


「まずかったか?」


「いやー、一応宿はあるからな。今時、テントで寝る奴が珍しくてな」


「ま、そりゃそうか」


とりあえず気付かれてないようだ。が、この後どうすっかな。

その時だった。バキン、という音が鳴った。…て、


「っ!?」


この女、ナイフ折りやがった…!


「じゃ、私はそろそろ帰りますね」


よくもまあ、ぬけぬけと!


「じゃあ送ってくよ」


「ありがとう」


そして風流 華蓮は得意気に笑ったあと、この場を去って行った。


「…………………………」


しばらく放心する俺。

そのせいか、自分の手の中にあるものに気付くのが遅れた。


「…紙?」


手紙変わりか?というか何時の間に…。

俺は紙を広げて中を確認する。


<殺し屋さんへ。

今は断られましたが、きっとあなたが私のボディガードになると信じています。その気になったら我が家まで来てください。

風流 華蓮より>


「…勝手過ぎだろ」


どこに信じられる要素があるんだが。


「あの女は何を考えてんだ?」


全くわかんねえ。

…いや、一つだけわかってる。


『あなたは私を殺さなければ、次の依頼は受けれないでしょう?』


「…たく、お人好し過ぎんだろ」


そういえば、俺は何で人を殺すようになったんだっけが。

………めんどくせえ。無理に思い出す必要も無いか。今の俺には、関係無い。


「寝るか」


こうして俺は、本来1週間かけて行うはずだった下準備を全て省略し、目標を殺そうとした結果、無様に敗北。さらに情け(?)までかけられるという体たらく。

今回の依頼成功が遠ざかった。

………もう、破棄した方いいんじゃねえかな?


・・・

・・


「…何で、来ちまったんだろうなー」


気の迷いか、気が動転したか、自分でもよくわからず、次の日の昼に俺は風流家の前にいた。


「…ダメだろ、やっぱ」


相手は殺す対象。情が入ったら殺し屋として終わりだ。…あっちはそれが狙いだろうけど。


「…帰るか」


踵を返し、とりあえず街の中を探索しようと俺は立ち去ろうとする。だが、この世は俺が嫌いらしい。


「いらしたんですね」


めっちゃ明るい声だ。まるでプレゼントが届いた幼児みたいだ。

俺は無視して歩き続けるが。


「あれー?」


「…………………………」


「無視しないでくださいよー!」


「…………………………」


「ちょっとー?」


「…………………………」


「…実力行使です」


はい?


「って、おわわわ!?引っ張るなクソガキ!」


「いーやーでーすー!」


「子どもか!」


だが、俺だってただ引っ張られるわけじゃない。


「っ!」


「あ!踏ん張らないでください!」


「踏ん張るわ!」


ぐぬぬぬぬと、互いに引けをとらない。…女と同じぐらいの筋力ってやばくねえか?


「らあ!」


だが、男の意地で辛くも勝利。さて、帰ろう。


「待ってくださいよー!じゃあ、何で来てくれたんですかー!」


「気の迷い。じゃあな」


そう。気の迷い。明日になれば殺す対象にもどるだろう。


「おや?君が、昨日娘が言ってた殺し屋さんかい?」


ギギギッ、とブリキのオモチャよろしく不自然に首を動かす俺。

風流 華蓮は、乾いた笑いをしていた。


・・・

・・


「さ、ここが君の部屋だ!好きに使いたまえ!」


まず一つわかった事がある。

こいつらバカだ!


「荷物は自分で取りに行くのだったな。では、軽く部屋の間取りを確認したら、下の居間に来たまえ」


軽い!対応が軽過ぎる!


「…俺、あんたの娘さん殺そうとしてるんですけど」


「そんな細かいこと気にするなって!」


「細かいのか!?」


俺の頭がおかしいのか!?


「ん?ああ、細かいのは娘本人の方だったな!」


「そうですよ!」


殺しが軽いって、殺ろうとしてる本人が言うことでも無えけど、絶対細かくねえ。


「お父さん、殺し屋さんと何を話してたの?」


華蓮(チビ)参戦。


「ああ、殺し屋くんとは殺しは軽いね、て話をしてたんだ」


「軽く無いですよ!?」


「同じ反応を殺し屋くんにも言われてね、だから細かいのは娘本人だったな、て言ってたのさ!」


「細かく無いです!」


「え?殺し屋くんにも同意を貰えたんだが?」


「殺し屋さん!」


「ええーい!殺し屋殺し屋うるせえ!俺の名前は飛沫(シブキ) (ナガレ)だ!」


「じゃあ渋柿くんだね!」


「どうしてそうなった!?」


「シキさんですね!」


「人を某海賊大人気漫画の映画に登場する触れたものを自在に操作できる能力を持った伝説の大海賊みたいな名前で呼ぶな!」


「逆に式や四季や指揮などの数あるシキの中でそれをチョイスしたことに驚きですよ」


「気長に行こうよキナガくん」


「何に対して気長なのか、何故そこをチョイスしたのか、いろいろ言いたい事はあるが、上手い事は言ってねえからな!?ドヤ顔やめろ!」


「すいません渋いくん」


「おい!俺をいつも不愉快でいるような名前で呼ぶな!」


「失礼、噛みま」


「黙れええええ!!その流れには乗らせんぞ!お前には某怪異と主人公とその周りの奴が関わっていく物語に出てくるツインテールにいつもリュックサックを背負ってる女の子に並ぶ程のギャグセンスなど無い!」


疲れる。凄い疲れる。こいつらなんなの?何でこんな疲れんの?


『だったら』


「俺の事は飛沫か流で呼べ!それ以外は殺す!あと!お前らの家で勝手だとは思うが、お前らどっか行けえええええええええーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


『はーい。後でね流くーん(さーん)』


静寂。


「…疲れた」


とりあえずベッドに寝転がる。


「今から夜の営みかしら?私は夫がいるのにね~」


「っ!?!?」


跳ね起きるようにベッドから降りる。ベッドの方を見ると、何かこう、凄い美人がいた。


「うふふ、冗談よ」


口に手を当て、上品に笑う。だが、油断してはならない。こいつは強い。


「そこまで気を張り詰めなくて言いわよ」


「…誰だ」


「初めまして。風流(フウリュウ) 水輝(ミズキ)です。颯さんの妻で華蓮の母です」


母ああああああーーーーーーー!?!?!?

ありえねえ!あんな破天荒で自由人で無茶苦茶で人格破綻者の当主の妻で風流 華蓮の母!?


「あなたの考えてることはわかります」


きっと俺は、顔に考えが出るぐらい驚いてたんだろう。


「破天荒で自由人で無茶苦茶で人格破綻者で馬鹿で後先考えてなくて仕事もすぐほっぽり出して脊髄反射で動いててそんなクソみたいな夫と何故結婚したのか、と」


「そこまでは考えてねえ!?」


あら、そうですか?と、とぼける風流 水輝。こいつ、恐ろしいな。


「ふふ、懐かしいわー、この感じ」


「はあ?何言ってんだ?」


落ち着け、相手にペースを取られるな。俺のペースで行け。


「私は昔、殺し屋だったの」


「はああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?」


叫び過ぎて喉痛い…。


「みんな驚くわー。でも、私はあの人を愛した。それで十分だったの」


「ちょっと待ってくれ。あんたが殺し屋とか、愛したとか、まず、そもそも何故このタイミングで言ったのか、いろいろ疑問なんだが」


「殺し屋ならそのぐらいすぐに整理しなさい」


「できるか!」


「私はこれでも、昔は【切り裂き水輝】と呼ばれてたわ」


「伏線も何も無しに過去を語るな!読者が混乱する!」


「あなたの事も知ってるわ。【血飛沫(チシブキ) (ナガレ)】くん」


「上手い!でもそうじゃない!俺はそんな肩書き持ってねえ!」


あらそうなの?と、またもとぼける。素なのかわざとなのか。


「と、冗談はここまでにして」


「あ、ああ」


やっとか本題か。


「私もあなたと同じ立場だからね。こう、運命を感じちゃって。キャッ」


可愛いらしくキャッ、とか言ってるが、どうでもいい。


「というか、立場って何だよ。全然違うと思うんだが」


「たしかに違うわね」


どっちだよ!


「私はあの人に会った瞬間にナンパされましたし」


「それはどうなんだ!?」


あいつはいったい何をしてんの!?


「あの時の私は、殺し屋として一切の感情を捨てたと思ってたのだけれど、あの人ったら会った瞬間に『君は美しい』なんて。もう、ビックリしちゃった」


「…だろうな」


いきなり言われたらそうだろうな。


「しかも、あの人が目標(ターゲット)だったわけだし」


話の流れで理解はできる。


「その後は?」


「個室に連れ込まれて、あんなことやこんなことを」


「…勘違いの無いように聞くけど、何をされたんだ?」


「え?性こう」


「アウトオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーー!!!」



「もう、真実に決まってるじゃない」


「『嘘に決まってるじゃん』的なノリで言うな!」


どっちにしてもヤってんじゃねえか!


「今でも鮮明に怯えてるわ」


「…そうかよ」


恍惚とした表情で明後日の方向を見る風流 水輝。思い出してトリップでもしてるのだろう。


「おっと。忘れるところだったわ」


「思い出してよかったな」


横道に逸れすぎだろ。


「簡単に言えば、私たちの常識は通じないから気をつけて、てこと」


「…それ、完全にあんたんとこのお嬢さんのボディガードになること前提だよな」


「もちろんよ」


どっからそんな自信が…。


「ふう。話し込んじゃったわね。そろそろ行きましょう」


「…へーい」


唐突だな!とは言わない。言ったらまた、横道に逸れそうだ。


・・・

・・


「部屋は先程の部屋だな。荷物は自分で持ってくるのだろう?あ、武器はナイフだったな。娘に聞いたよ?いやー、水輝もナイフ使いなんだ。親近感が湧くねー。と、そうじゃなくて、ナイフはこんなんでどうかな?少し大きいかね?」


「あ、いえ。これでちょうど良いです…」


何故に敬語になるんだ俺!?

クソ、こいつは押しが強過ぎる!


「依頼はどうするんだい」


唐突だな。今更か。

依頼かー。そう言えばそうだった。いやー、忘れてた忘れてた。どうすっかねー。殺す目標にお世話になってなす、て馬鹿の極みか。だったらもう意味も無いかー。


「破棄するよ。今更どうでもいい」


「じゃあ、ボディガードに転職で」


「強制かよ」


「一応、僕には殺し屋を処刑する権限があるんだけど、使ってみてもいいかい?」


「強制だよな。はいはい。なりますならせていただきます」


投げやりに対応する俺。なんか、どうでもいい。


「ありがとうございます!じゃあ早速行きましょう!」


「お、おい!何処に行く気だ!」


「流さん!私のことは華蓮って読んでね!」


「お前ら家族はどういう神経してんだこんちきしょおおおおおおおーーーーーーーーーーーーー!!!!」


さらば、俺の殺し屋ライフ。


颯side

「行きましたね」


「そうだな」


華蓮が流くんを連れて行くのを見届けて、真面目モードになる俺。(キリッ


「華蓮は耐えれるかな。一般人と殺し屋の“境界の違い”に」


「あなたも驚きましたしね。私も驚きましたけど」


あー、あの時は本気で絶交しかけたなだよなー。世の中が綺麗事だけじゃ無い事を知った日だった。


「あの子にも乗り越えてほしいですね」


「…そうだね」


いつかはわからない。数年後かもしれない。この後すぐかもしれない。だけど、特に僕ら金持ちだと絶対通る道。


「…大丈夫かなー」


「心配症ですね」


「そういうお年頃なのさ」


「ありえませんね」


はいバッサリー。わかってたけどね!


「まあ、たしかに湿っぽいのが苦手だね。じゃ、メイドカフェ行ってくるね!」


さ、いざ行かん!我が心のオアシスへ!


「『じゃ、友達の家行ってくるね』的なノリで言わないでください。仕事、まだでしたよね?」


とろけるような笑顔で(目はわらってないよ!)こっちを見る【切り裂き水輝】。…さ、仕事しよ。


流side

…ウザい。


「ほー、昨日の子がボディガードにねー」


「そうなんですよー」


ウザい。


「てめえ、羨ましいなー。この、この」


「良かったなー。お前も運がいい」


「つまり、私が運そのものと言う事ですね」


ウザ過ぎる。


「お祝いに魚、1匹おまけだ!」


「こっちからも野菜つけるよ!幸せになりな」


「ヒューヒュー!青春だねー!」


「はい!ありがとうございま」


「あー!もう!うっせえ!」


どいつもこいつも!人の周りでうるせえよ!


『まあまあ』


「なに!?お前ら打ち合わせでもしてんの!?怖いんだけど!」


「皆さん仲いいですねー」


「そんな問題じゃ、無ええええええーーーーーーーーーー!!!」


誰かまともな奴プリーズ!


「みんな。流くん、だよね?が、困ってるじゃないか。そのぐらいにしたら?」


「あー、まあ、そこまで言われたらな」


「仕事に戻るか。悪かったな2人とも」


街の人は去って行った。


「助かったよ。サンキューな」


「ううん。僕もこういうの苦手だからね。ほら、言うだろ?自分がやられれ嫌なことは人にもやるなって」


「言うだけならな。実際、やってたのお前じゃ無えし」


「そうだね」


笑いながらそう言う。にしてもこいつ…。


「どうしたんだい?厳しい目をして」


「ん?いや、何でもねえよ」


「あのー、私、のけ者ですか?」


………あ。


「悪い悪い。忘れてた」


「酷くないですか!?一応主ですよ!?」


「悪かったって華蓮(チビ)


「いちいちイラつきますねえ!!


(わざ)とだしな」


「わかってますよこんちきしょう!」


お嬢様はそういう言葉使うなよ。


「あ、そうだ。一応名前聞いてもいいか?」


「僕?僕の名前は亜下野(アシタノ) (ジョー)だよ」


「嘘をつけ」


「よくわかったね」


「当たり前だ」


そんな狙い澄ましたような名前があってたまるか。


「本名は日残(ヒノコリ) (カイ)だよ」


日残 灰、ね。


「よろしくな」


「そうだね。あ、そうだ」


「なんだ?」


「今夜中にでも会えるかい?」


いきなり動くか。


「いいぜ」


「そう。場所はあの丘で」


「はいはい」


そう言って、日残とは別れた。


「ねえ流さん。あの丘って?」


「関係無いだろ」


「ぶーぶー!」


「うっさい」


はあ。一気に冷めた感じだな。


・・・

・・


「私も行くのー!」


「ええーい!この我が儘お嬢様が!」


夜。そろそろ行こうかな、と思ったところで華蓮が足にしがみつく。邪魔臭い!


「家で大人しくしてろ!」


「いーやー!」


「何なんだよ!」


「私も連れてって!」


「理由を言え理由を!」


「特に無い!」


「馬鹿が!」


「馬鹿って言うほうが馬鹿なの!」


「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い!」


「うー!」


ああ、もう!


「なんか嫌な予感するの!だから行くの!」


あれ?この言葉何処かで?


『私も行くの!嫌な予感がするの!』


過去の、記憶?


「っ!」


「大丈夫流!?」


「触るな!」


華蓮が伸ばしてくる手を払う。


「きゃ!?」


「…俺はもう行く。ついて来んな」


俺は立ち上がり、丘へと向かう。胸の奥に小さな痛みを感じたが、俺はそれを無視し、歩き出す。後ろで華蓮がどんな顔をしてたか、俺にはわからなかった。


・・・

・・

「来たね」


「居たか。日残」


丘、つまりはあの星が見えるところだ。

まあ、こいつが“風流 華蓮について調べてるなら”知ってるよな。


「いやー、僕も見破られるとは思いませんでしたよ」


「俺も、いきなり動くとは思わなかったよ。“殺し屋”さん」


そう言うと、日残は一気に笑い出した。


「あはははは!やっぱり気づいてたねえ!これは面白いよ!噂は本当かな?最近有力な殺し屋だって!」


「そんな事に興味は無い」


「だろうねー!今は風流家のボディガードだ!成り下がったもんだ!」


「成り下がったも何も無えだろ。こんなんじゃ」


「あー、笑った。はー、本当、君強いの?全然強そうに見えないけど?」


「強そうに見える奴が全員強いのか?そりゃ知らんかった」


「うーん。一理あるねー。でも、殺すべき相手に飼い慣らされるってどうなの?殺し屋として終わってるよ」


「そうだなはいはいわかってます」


面倒だな、こいつ。


「ははは、飽きた」


日残から急に笑みが消える。先ほどの明るい雰囲気から一転、一気に気温が4、5度ぐらい下がったような錯覚を覚える。


「ふー、まあ、どうでもいいけどさ。依頼関係無く殺し屋が僕の目標(ターゲット)の近くにいるのは気に入らないんだよ。先に殺されたら金も入らないし、何より殺しが楽しめないし」


「そいつは同感だ。あいつを殺すのは俺。他の奴には殺されたくない」


「ボディガードになってる君じゃ説得力無いよ」


「そりゃそうだ」


ナイフを構える。日残は針を構える。


「さ、おっぱじめるか」


「そうだね」


「毒針か。怖い怖い」


「せいぜい当たらないように気をつけて、ね!」


夜の空間に、月光に照らされながらこちらに銀の線が3本。


「ぬお!」


ナイフで俺は弾く。


「ハア!」


さらに、2、3本。


「危な!」


弾く。


「行くぜ!」


一気に突撃し、距離を詰める。


「近づいたら、当たっちゃうよ?」


12本。


「っ!?」


頭、左胸、首、右足、というか体全体。浅く、広く、避けにくいように、くる。

が、弾く。


「やるねえ!楽しい!楽しいよ!」


「俺は楽しくねえ」


「僕は楽しいよ!もっと、もっと楽しもう!」


楽しむ、ね。

悪いが、俺はバトルのが好きなわけじゃない。だから、


「終わらせてもらう!」


一気にふとこに入り込む。


「残念だよ!」


その瞬間、目の前に毒針が広がる。


「死ねえええええーーーーーーーーー!!!」


俺は、“全て”弾いた。


「え?」


「お前が死ね」


ザクッ、と俺のナイフがあいつの右手を切り落とす。


「………え?」


右手が舞う。空を舞う。血を噴きながら、赤い線を引きながら、舞う。


「あ、ああ"あ亜あアアあああ"あゝアアあ"ああ亜ああアアあアア"ああ!!!!!」


叫ぶ。獣が叫ぶ。醜い醜い醜い。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」


「…うるせえ」


「助けて!助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ!!!」


俺はその申し出を無視し、頭を踏みつける。


「ガア!?」


「うるせえつってんだろ」


「嫌だ!死にたくない死にたくない死にた」


踏みつける。


「があ!?」


踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける。


「が、やめ、ぐ」


「お前が殺した奴の中に同じ事を言ってた奴はいなかったか?お前はそれを助けたか?違うだろ?殺したろ?楽しんで、死を見たろ?それなのに、今更お前が命乞い?ふざけんな。だったら殺し屋やってんじゃ無えよ。人を殺すなら自分の死も覚悟しろよ。笑わせんな」


「ああ亜ああ"アあ"アアアアアア唖々あ"亜ああ亜“亜ああ"アアアあ!!!」


「じゃあな」


ナイフを、首にあて、一気に、降ろす。

ぐしゃ、と生々しい音を立て、死んだ。

…終わったか。案外あっけな


「何をやってるんですか!」


「…来んなつったろ」


風流 華蓮。


「そんなことどうでもいいです!あなたは何をやってるんですか!」


「うざってえな。たかだか人1人殺したぐらいで喚くな」


「っ!あなたは」


「こいつも殺し屋だぞ!お前の命を狙ってた!なのに同情すんのかよ!」


「そんなの関係無いです!」


「っ!…テメエ」


こいつも殺るか?今、ここで。


「あなたはボディガードでしょう?」


そこで、静止が掛かる。


「風流、水輝」


「お母さん?」


「ふう。派手にやったわね流くん」


「お母さん!流さんが人を殺して」


「“それがどうしたの?”」


「…え?」


「殺し屋を雇うのよ?自分を守る立場に。このぐらいは予想できたはずよ?」


「そ、それは」


「それに、“殺し屋は人を殺すのに抵抗は無い”」


「っ!」


「守るんだったら一番効率的なのは外敵がいないことなのよ。だったら主を狙ってる人を殺すのは殺し屋にとって当たり前。それが殺し屋の常識。一般人とは違うかもね」


「…………………………」


「このぐらいも予想出来なかったの?人を雇うのよ?自分の近くに置くのよ?」


「………それは」


「ちゃんと考えてモノを決めるべきだったわね」


「…………………………」


俯く。しょうがない。それが事実だ。


「あなたは、どうするの?」


「私は、私は…」


しばらく考えて、何かを決めたように、こちらを向き、言った。


「あなたを、解雇します」


「勝手にしろ」


これで、全て終わりだ。


『私のために、もう殺さないで』


「っ!?」


一瞬、頭に激痛が走る。悟られては無いようだ。


「…じゃあな」


「…さよなら」


終わりだ。これで、何もかも。元どおりだ。


・・・

・・

水輝side

長いくんと別れて、しばらく経った。

家には着き、華蓮は自室で寝ている。


「やっぱり、こうなっちゃったか」


「予想はできましたけどね」


やっぱり、悲しい。哀しい。


「ごめんね水輝。嫌な役割、押し付けちゃった」


「私にしかできない役だもの。しょうがないわ」


嫌われたかもね。親失格かも。


「…華蓮はどうだい?」


「ダメ。しばらくあのままよ」


価値観が変わったのだから、ショックなのはしょうがないわね。


「後は」


「あの子たちの問題ね」


どうか、いい方向に事が転びますように。


・・・

・・

流side

価値観。俺と華蓮の価値観。

違い。殺す、殺さない。

…わからない。

あれから1週間。俺は移動することも無く、テント内で過ごしてる。

そして、思い出そうとする。


『私も行くの!嫌な予感がするの!』


『私のために、もう殺さないで』


「わっかんねえ!」


わからない。何も、わからない。

何を忘れてる?

前世の記憶?そんなバカな。

…だが、それ以外に無い。何も無い。


「…あいつは、どうなんだろうな」


華蓮。あいつは、何を思ってたんだ?あいつは。

ア イ ツ ハ


「…出かけるか」


少しは気晴らしになるだろう。


・・・

・・

俺の足は不思議と華蓮の家へと向かった。何故かはわからない。気付いたらここにいた。


「俺は、何がしたいんだ」


勝手に動いて勝手に殺して勝手に捨てられ、勝手に戻って来た。

未練がましいだろ。


「帰るか」


もう、何も無いんだ。華蓮との関係も何も。

その時だった。


『華蓮がいなくなった!』


わからない。何故かわからない。けど、俺は全てを思い出した。

そして、俺は走っていた。


「華蓮!」


華蓮side

1週間。

ずっと考えていた。

悩んでいた。

わからない。

だけど、一個だけわかった。

彼は、私を助けてくれたんだ。

なのに私は酷いことを言った。

しょうがない?

そんなわけ無い。

言葉は人類の大いなる発明。

だったら話せばいい。

…話そう。

会いに行って、

「ごめんなさい」って言って、

罵られて、

耐えて、

受け入れて、

話して、

理解して、

今度こそ、本当のボディガードとして、雇おう。


「…よし」


そうと決まれば!服を着替えて髪整えて部屋を出ようとする。

ところで、


「失礼します。風流 華蓮さん」


「え?」


暗転

意識が途絶えた。


・・・

・・

「う……ん…?」


ここは、どこ?


「目を覚ましましたか?」


「え?」


声が聞こえ、そちらの方を見ようとする。だが、手足が縛られ、上手く動けない。


「すいません。あなたの動きはこちらで拘束させていただきました」


「あなた…誰」


「いやはや、名乗るほどの者ではございません。そうですね、強いて言うなら、

殺し屋、ですね」


「っ!」


背筋が氷るような錯覚を覚えた。

ダメだ。体が震える。


「おやおや。子羊のように震えるではありませんか。大丈夫ですか?」


クスクスと笑いながら聞いてきた。


「知らないわよ、そんなの」


「そうですか。では殺させてもらいます」


自然に、疑いも無く、そう、常識であるかのように、言った。


「い、いや」


「いいですねー。これぞ殺しの醍醐味です。そうだと思いませんか?“皆さん”」


“皆さん”。

そう言うと下ひた笑いが耳に入ってくる。


「嘘…」


「嘘ではありませんよ。ねえ!」


『おおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』


「この通りです」


先ほどの倍近くの恐怖が体を、心を蝕む。

ダメ、ダメ!まだ、謝ってないのに!


「さて、誰からこの少女を犯しましょう?」


まるでオークションのように、野太い男たちが声を上げる。


「いや、いや!」


「………残念ながらもう決まってしまいました。あなたは処女ですよね?おめでとうございます。処女卒業です」


体を強引に引っ張られた。目の前には大きい男がいた。ニヤニヤと、気持ち悪い笑みを浮かべていた。


「こりゃあ、上物だ」


力任せに、服を破る。私の肌が露わになった。


「っ!来ないで!変態!ロリコン!」


「さーて、何処から行くか」


男が顔を近づけてきた。いや、いや、やめて。お願いだから!


「っ!」


もうダメだ、と思い目を強く閉じた時だった。もう諦めて、心が折れてしまった時だった。

体の上の重さが、消えた。


「悪い。また殺しちまった」


少年の、飛沫 流の、流さんの声が聞こえた。


流side

昔々、ある所に、少年と少女がいた。

2人はとても仲が良く、とてもとても長い間一緒にいた。

そんな2人の輪にある日、男の子が加わった。

少年もお年頃、少女と2人でいるのに耐えきれなかった。

少女は反対したが、最後は渋々、と言った感じで受け入れた。

それは突然の事だった。

男の子がイジメにあったのだ。

少年は激怒し、仕返ししようとするが、イジメを受けた本人の男の子と、少女によって止められた。

イジメは止まらなかった。

日に日にエスカレートしていった。

ついに、攫われた。

少女はすぐにこの行き過ぎた行為におかしい、と気付き、止めた。だが、少年に言葉は届かなかった。

だから、

『私も行くの!嫌な予感がするの!』

少年と少女は男の子がイジメられてる場所へと向かった。

中では数々の打撃音が聞こえた。

少年はやはりイジメがあるんだ!と勇んで突入した。

そこからの記憶は無い。

正確には飛んでいた。自分が目を覚ました時、目の前で少女は犯されていた。衣服は、もう無いと言っていい状態だった。

犯人たちは笑っていた。その中に、男の子もいた。

打撃音をどう出してたかはわからない。適当に録音した音を流してたのだろう。

少年は怒り狂った。

まずは男の子を殺した。次にリーダーのような存在を殺した。あとは手近な奴から、殺した。

残りも殺そうとした。

だが、少女は泣きながら言った。

『私のために、もう殺さないで』

少年は壊れた。

少女のために殺した。

少女は殺さないでと言った。

矛盾。

だから殺す。

誰かの為では無く、何かを上書きするように、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス………………………

いつしか、少年は殺人鬼になっていた。

いつしか、少年は死んでいた。

いつしか、少年は殺し屋になっていた。

少年、“飛沫 流”


思い出した。

全て。思い出した。

だから、今度は、今度こそ、

守る。


「悪い。また殺しちまった」


笑う。怒りで、笑う。

コ イ ツ ラ コ ロ ス


「にしても、殺しの時に大声上げるなんて、素人のする仕事だぜ」


表面を取り繕う。

だが、殺意は増えるばかりだ。


「なぜ、ここにいるのです」


「ああ?」


「あなたは解雇されたはずでしょう!?なぜここにいるのです!」


「…ああ。お前が何でそれを知ってるのかはどうでもいいけどさ、そいつを殺すのは俺の役目だからだ」


「…は?」


「お前らがそいつを殺す?はっはっは。冗談はいけねえよ。殺させねえよ、俺は。なあ、華蓮」


「え?わ、私!?て、それ以前に私は誰にも殺される気は無いわよ流さん!」


「さん付けいらん。前に普通に流、て読んでたろ」


「あんたねえ!」


あーあ、いつもの感じだ。いつもの会話。たった数回なのに、“いつも”になってる会話。こうでないと。


「…ええーい!黙って聞いてれば!あなたは状況がわかって」


投擲。ナイフは沢山ある。

にしても、いい雰囲気が台無しだ。

と、思ってる間にも、ベラベラうるせえ奴の後ろの男が喉にナイフを刺したまま、倒れる。


「…うるせえ」


『殺せえええええーーーーーーーーーーーーーー!!!』


大量の男が迫ってくる。あー。暑苦しい。


「あーはっはっは!そいつらは総勢、15名のプロの殺し屋だ!お前が束になろうと倒せ…な……い…?」


セリフの後半は怪しかったな。どうでもいいが。

15名?そんな多かったか?首を切り落としてるうちに、全員死んだけど。


「あーあ、また殺しちまった。今度は怒るなよ華蓮」


「き、キサマ。ななな、何をした?」


何って、お前。


「殺しただけだ」


足元には大量の首と首無しの胴体がある。血の海とはよく言ったものだ。

残りは、


「お前1人」


「ヒ、ヒィイイイイイイ!!!」


ナイフを投擲する姿勢に入る。そこで、


「だ、ダメ!」


静止が入る。


「んだよ」


「この人にはもう戦意が無い。だから、ダメ」


…このお嬢様は。


「戦意じゃなくて、殺意だろうが」


文句を言いながらナイフをしまう。


「さっさとどっか行け!次見たら殺す!」


「ヒヤアアアアア!!!」


これで、終わりか。


「大丈夫か?」


「目の前で随分と生グロ映像化見たられたから、大丈夫じゃ無い」


「あっそ」


興味無い。


「少しは心配しなさいよ!」


「そんだけ元気なら大丈夫だ、と」


手足を縛るロープを切る。


「立てるか?」


「うん」


「そうか」


俺は翻し、さっさと風流家と向かう。


「え?ちょ!タンマタンマ!今の無し前言撤回!立てません立てません!」


「どっちだよ!」


結局肩を貸すことになった。


「…………………………」


「…………………………」


無言。


『あのさ』


「…………………………」


「…………………………」


無言。


『あのさ』


「…そっちから言えよ」


「そ、そっちから言ってよ」


「…………………………」


「…………………………」


無言。


「…私ね、1週間、ずっと考えてたことがあるの」


突然話し始める。前置きを入れてもハモると学習したのだろう。

(わざ)とだけど。


「価値観。それってさ、人にいって違うよね」


「そうだな」


「流は殺すことに躊躇が無い。でも、私はある。すっごくある」


「そうか」


「でもね、よーーーーーーーーく!考えれば、流は私を守ってくれたんだよね?」


「そうかもしれんな」


「だから、ね。お礼を言いたかったの。ありがとうって」


「どういたしまして」


「…ふふふ」


「何だよ」


「私ね、ここで罵られると思ってた」


「ドMか? 」


「違うよ!」


「じゃあSか」


「私にサドの才能は無いよ!?」


「違うぜ」


「え?」


small(チビ)という意味だ」


「こらあああああーーーーーーー!!!」


…楽しい。こいつとの会話楽しいわ。悔しいけど、楽しいわ。すっげえ楽しい。周りのことなんか、入らないくらい。楽しい。

だから、だろうか。















「死ねええええええーーーーーーー!!!」


後ろからの殺気に、気付かなかった。

ザシュッ、という音とともに、俺の背中を、硬くて鋭い物が貫通した。


「流えええええーーーーーーーー!!!」


「っ!チッ!」


ナイフを抜き、振り返りざまに相手の首を刈る。この顔、さっきの。


「流!流!」


心臓に刺さった。長く、ないかも。


「嫌だ!せっかく仲直りしたのに死んじゃやだ!」


静かにしろよ。頭に響くだろ。

そう、言おうとしても、口は動かない。声も、出ない。


「死なないで!お願いだから私の為なんかに死なないでよお!」


目の前が霞む。腹の灼熱のような痛みも、薄れていく。

そんな中、華蓮が泣いてる姿だけが見えた。

泣くなよ。頼むから。


「流!流!流!」


そっと、華蓮の頬に手をあてる。


「…流?」


ああ、本当にバカだなー。吊り橋効果とか、今、そんな状況じゃ無いだろうに。


「…う、うぅ」


泣くなよ。死ぬんだから、笑顔で送ってくれよ。


「…流」


顔を動かす。華蓮の顔が近付いてる気がする。よくわからない。もう、感覚が殆ど泣い。でも、最後に、唇に柔らかくて、あったかいものが触れた…気がした。


「…バイ、バイ」


精一杯の笑顔。

ああ、何か、報われた気がする。この世界に来れて、本当に良かった。

なんか、もっと楽しめば良かったと思うけど、これは、これ、で、い…い……
















華蓮side

あれから5年が経った。流が死んでから、5年。

私は22歳だ。

背は…そんなことはどうでもいい。

とりあえず年的には婿を探さなきゃいけない。急ぎでは無いけど、いつかは見つけなければならないだろう。

でも、問題が一つある。

流に恋したこと。

あいつったらキスした後にすぐ死んじゃって、恋してたのだと気付いても後の祭り。あいつ以上の人がいないんだこれが。


「カーレーンー!早く来なさーい!」


「わかったー!今行くー!」


そんな風流家には週1で恒例行事を行う。それは、


「ほら、そっち行ったぞ!」


「わかった!…GET!」


「やったわね!」


流しそうめんです!

…うん、意味わからないよね。私もわからない。

まあ、そんなこんなで楽しく生きている今日この頃。

こんな時に、流がいれば「流に掛けて流しそうめん?全然上手くねえぞ?お前バカか?」とか、それ以上のことを平然と言いそうだ。ま、そこから話が広がるからいいのだけれど。


「本当に言ってやろうか?」


「え?」


…誰も、いない?


「どうしたの華蓮?」


「あ、…ううん。何でも無い」


唐突だけど私はこの世界が好き。魔法も無い、夢も無い、流もいない。その変わりに汚い現実盛りだくさん。でも、好き。

そうして今日も生きていく。


-END-

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