自堕落な天使
この、ヨクキエル卿が管轄する天界において、天使のお仕事は三つだ。
一つ目は、彷徨う魂を天界の入り口まで案内すること。
二つ目は、天界で魂を清めること。
三つ目は、清められた魂を次の天界に送ること。
魂は、いくつもの天界を経由した後に最上界へと送られ、そこにいらっしゃる大天使様にお認め頂ければ天使になることができる。
天界ごとに何を清めるかは変わるので、もし最上界まで進んだとすればその魂は穢れのないまっさらな状態となるわけだ。
もちろん、最上界まで進まずとも、再び世界のどこかで生を受け直すことは可能だ。しかし、魂の清らかさによって次の生の幸福度合は変わってくるので、ひとまず天使を志そうと天界を進んでいく魂は多い。……まあ、そんな不純な動機では大天使様はお認めにならないのだが。
とにもかくにも、天使は魂を導く役割である以上に、魂たちの見本となるべき存在なのである。
……で、あるはずだったのだが…………。
最近、とても天使とは思えないような新人がここに配属された。
彼女の名は、クルエール。
この天界きっての問題使である。
……ちなみに、天使に性別などないのだが、クルエールは何故か女性体を使用しており、さらにこちらにも女性体を使ってくれとの申し出があった。その方が可愛いだとかなんとか。
……可愛いというのがどういうものなのか、とうに忘れてしまったが、そういうものなのだろうか?
今日も今日とて、エリート天使であるフルフィールは、天使としてのお仕事を全うしていた。……横に、寝そべって全く動かない相方を添えて。
……いや、働かないだけならいいのだ。天使としてはあるまじき姿だが、その分、自分が働けばいいので。
しかし――
「……もう!なんで魂を投げ戻してしまうのですか!大切な命なのですよ!」
案内してきた魂を、ボールみたいに投げるのはいただけない。
「えーだってつまんないじゃーん。フルちゃんだって、そこに手頃な石があったら投げるでしょお?」
「魂は石ではありません!ほら、見てください。貴女のせいで魂たちがこんなに怖がって……」
「んー?あ、こいつもいい感じだね。えい!」
「あ、こら!」
あるまじきどころか、悪魔さながらの行動に、フルフィールは決意した。エリート天使の名に懸けて、必ずやこの問題使を更生してみせる、と。
「……今日はもういいですから、私がどうやっているのかしっかりとその目に焼き付けておいてください!」
「へいへい」
まずは、クルエールに仕事というものを一から教えてあげなくてはなるまい。
……しかし、こんな娘が一体どうやって天使になったというのか。
「まったく、無事に前の天界に戻れればいいものの、万が一輪廻から外れてしまったらどうするというのか――」
そうして、フルフィールの仕事を教える日々が始まったのだが……
「こら!何回投げたら気が済むのですか!」
「フルちゃんもやる?楽しいよ!」
一向に、
「お清めする際はまず……って勝手に転生させないでください!」
「えぇーいいじゃんあいつも嬉しがってたし。多分」
ちっとも、
「では、向こうの天界に連絡を…………どうして掴んでいるのですか?」
「そりゃ、こうやって……投げるためしかないじゃんね!!」
「ああもう!」
これっぽっちも進展することはなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……私には、もうどうすることも……」
「どしたんフルちゃん、もっと元気だそ?ほら、一緒にしごとしよーよしごと!」
「貴女に言われたくないです!それと、貴女のそれは仕事ではなく遊びでしょう!」
「お、元気でた」
「……ッ!もう!」
これ以上は、頭がおかしくなってしまう。はやく、相方を変えてもらわなくては。
「ほら、行きますよ!」
「どこいくのー?」
「ヨクキエル卿のところです!貴女には、もっと厳しい教育係が必要です!」
「えー。別にいらないし、フルちゃんでよくない?」
「私がよくありません!」
というわけで、嫌がるクルエールを連れてヨクキエル卿を訪ねたのだが――
「天使も今不足していてな。貴様以上の天使は、この天界には存在しない」
「そんな…………」
無情にも、天使を救う天使は存在しなかったのだった。
「やったねフルちゃん!流石エリート!」
「…………うぅ」
「まあ、なんだ。クルエールにはフルフィールしかいない。これからもよろしく頼むぞ」
「……………………はい」
そうして、話は終わりだと部屋から出るも、隣にクルエールがいないことに気づき、来た道を引き返すと中からクルエールの声が聞こえてきた。
フルフィールは部屋の前で立ち止まり、様子を伺った。
「それで、仕事はどうだ?」
「まあ、いい感じじゃん?」
「そうか。……他の天使とは、仲良くやれているか?」
「んー、どいつもこいつも使えないやつばっかでさあ。馬鹿みたいに仕事さえしてりゃいいと思ってる。天使の使命だなんだいって。無責任だよ、あまりにも。フルちゃんはうすうす気が付いてるみたいだけど」
……何に、気が付いているというのだろうか。
彼女が、クルエールが、これまでの態度からは考えらないほどのおぞましい雰囲気を漂わせながら、口を開いた。
「…………あんなカス共に、幸福なんてありえないのに」




