表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恵方巻を丸かじりしてオメガになるはずが、なぜか氷の騎士団長に胃袋を捕獲され溺愛されています  作者: 水凪しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/15

第3話「雪原の洗礼と白い獣」

 王都を出て一週間。俺は北へ向かう乗合馬車を乗り継ぎ、ついに雪深い国境の村までたどり着いていた。

 ここから先は、馬車も通れない銀世界だ。

 防寒具を重ね着し、スノーブーツの紐をきつく締める。吐く息は一瞬で凍りつきそうなほど冷たいが、リュックの重みと腰に下げたフライパンが俺を勇気づけてくれる。

 最初の目標は、『幻の雪米』を手に入れること。

 古書によれば、それは雪山の洞窟の奥深く、氷の精霊が守る泉のほとりに自生しているという。


「寒い……想像以上だ」


 膝まで埋まる雪をかき分けながら進む。体力には自信があったはずの厨房仕事も、自然の猛威の前では無力に等しい。

 風が唸りを上げ、視界を奪う。

 遭難という二文字が頭をよぎったその時、目の前の雪山が不自然に盛り上がった。

 ズズン、と地響きがする。

 雪煙の中から現れたのは、巨大な白熊のような魔獣だった。ただの熊ではない。背中から氷柱のような棘が生え、目は赤く光っている。


「う、嘘だろ……」


 俺は腰のフライパンを構えたが、相手は体長三メートルを超える化け物だ。調理器具で勝てる相手ではない。

 魔獣が大きく口を開け、咆哮した。その衝撃波だけで体が吹き飛ばされ、俺は雪の上に無様に転がる。

 終わった。

 そう思った瞬間、俺のリュックから甘い香りが漂った。

 旅の保存食として持ってきた、特製の蜂蜜漬け木の実のタルトだ。衝撃で容器の蓋が開いてしまったらしい。

 魔獣の動きが止まる。

 赤い瞳が、俺ではなくリュックの方を凝視し、巨大な鼻をヒクヒクさせている。


『まさか、腹が減っているのか?』


 俺は咄嗟の判断で、タルトを掴み出し、魔獣の方へと放り投げた。

 魔獣は空中でそれを器用にキャッチし、バリバリと音を立てて咀嚼した。次の瞬間、その凶暴だった顔が、まるで猫のように恍惚として緩んだではないか。


「グルルゥ……」


 もっと寄越せ、と言わんばかりに鼻を鳴らす。

 俺は震える手で、残りのおにぎりや干し肉を取り出した。

 料理人としての本能が叫ぶ。こいつは敵じゃない。空腹の客だ。

 俺はその場で携帯コンロを取り出し、雪を溶かしてお湯を沸かすと、干し肉と乾燥野菜を入れた即席スープを作り始めた。

 温かな湯気が立ち上ると、魔獣はおとなしく俺の目の前に座り込んだ。まるで餌を待つ大型犬だ。


「……お待たせ。熱いから気をつけて」


 鍋ごと差し出すと、魔獣は一気にそれを飲み干した。そして、満足げにゲップをすると、俺の顔をザラザラした舌で舐め回した。

 どうやら気に入られたらしい。

 魔獣は俺の前に背中を向け、しゃがみ込んだ。乗れ、と言っているのだろうか?

 恐る恐るその背中にまたがると、魔獣は驚くべき速さで雪原を駆け出した。風を切り裂き、険しい斜面をものともせずに進んでいく。

 俺は必死にしがみつきながら、思わぬ幸運に感謝した。

 料理の腕が、剣よりも役に立つこともある。

 この「白い獣」の背に乗って、俺は目的の洞窟へと一気に近づいていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ