エピローグ「受け継がれる伝説」
数年後。
王国の食文化に、新しい祭りが定着していた。
年に一度、吉方を向いて太巻き寿司を食べる「恵方巻祭」だ。
発案者は、伝説の宮廷料理人ルエン。
ただし、巷で流れる噂は、少し形を変えていた。
「ねぇ知ってる? この恵方巻を食べると、好きな人と結ばれるんだって!」
「属性が変わる魔法がかかってるって話もあるわよ」
「いやいや、ただ単にものすごく美味しくて、食べた人が幸せな顔になるから、恋が叶うって話だぜ」
街のあちこちで、人々が大きな口を開けて恵方巻にかぶりついている。
その光景を、お忍びで城下町に来ていたルエンとクラウスは、物陰からこっそりと眺めていた。
「……随分と話が大きくなりましたね」
「いいじゃないか。幸福な嘘なら、いくらあっても困らない」
クラウスがルエンの腰に手を回す。
二人の薬指には、お揃いの銀の指輪が光っていた。
ルエンのお腹は、少しふっくらとしている。
ただの太り過ぎではない。……いや、もしかしたら、あの時の魔法は、もっと時間をかけてゆっくりと作用していたのかもしれない。
医師も首をかしげる奇跡が、今、彼の中で育まれている。
あの夜、クラウス様が教えてくれた古文書の言葉――『愛の結晶を宿す器となる』。その予言が、遅れて現実のものとなったのだ。
魔法のせいでも、奇跡でも、どちらでもいい。
確かなのは、二人が今、最高に幸せだということだ。
「帰りましょうか、クラウス。お腹が空きました」
「ああ。今日は俺が作る番だ。特訓の成果を見せてやる」
「ふふ、期待しています」
二人は寄り添いながら、夕暮れの道を歩いていく。
その背中には、温かな夕陽と、美味しそうな幸福の匂いが漂っていた。
これが、とあるベータとアルファの、美味しくて少し不思議な愛の物語の結末。
そして、新しい家族の物語の始まりである。




