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恵方巻を丸かじりしてオメガになるはずが、なぜか氷の騎士団長に胃袋を捕獲され溺愛されています  作者: 水凪しおん


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第12話「星降る夜の晩餐会」

 王城に戻った俺たちを待っていたのは、予想以上の大騒ぎだった。

 騎士団長が直々に捜索に出て、料理人を連れ帰ったという噂は瞬く間に広まっていたのだ。

 だが、クラウス様は堂々としていた。

 王への報告の場に、彼は俺を同伴させたのだ。


「陛下。私が不在の間、ご心配をおかけしました。ですが、得難い宝を見つけて参りました」


 玉座の間で、クラウス様は俺を「生涯のパートナー」として紹介した。

 どよめく貴族たち。アルファ至上主義の保守派からは批判的な視線も飛んだ。

 しかし、それを黙らせたのは、俺の料理だった。

 クラウス様の提案で、帰還の宴の料理を俺が担当することになったのだ。

 俺は『幻の雪米』『虹色サーモン』『千年樹のタケノコ』の残り、そして旅で得た経験を全て注ぎ込み、フルコースを作り上げた。


 前菜の皿が運ばれた瞬間、会場の空気が変わった。

 香りが、人々の心を解きほぐしていく。

 一口食べた者が、次々と恍惚の表情を浮かべる。


「なんだ、これは……力が湧いてくる」


「懐かしい……母に抱かれているようだ」


 俺の料理魔法――恵方巻によって覚醒した力は、食べる者の心身を癒やし、幸福感で満たす効果を持っていた。

 アルファもベータもオメガも関係ない。美味しいものの前では、人は皆平等に笑顔になる。

 メインディッシュの皿が空になる頃には、批判の声など消え失せていた。

 王ご自身が、満足げに腹をさすりながら言った。


「クラウスよ。そちの目は確かだ。この料理人は、我が国の至宝である」


 その言葉に、クラウス様は誇らしげに微笑み、俺の肩を抱いた。

 宴のあと、二人でバルコニーに出た。

 かつて厨房の窓から見上げていた、あの場所だ。

 今、俺はそこに立っている。隣には愛する人がいる。


「……夢みたいです」


「夢じゃない。お前がその手で掴み取った現実だ」


 クラウス様が俺の顎をすくい上げる。

 星空の下、二人の影が一つになった。

 唇が重なる。甘く、優しく、そして深い口づけ。

 フェロモンの衝動ではない。愛おしさが溢れて止まらない、魂の口づけだった。


「愛している、ルエン」


「俺も……愛しています、クラウス様」


「……そういえば、例の古文書にはまだ続きがあったそうだ」


 キスの余韻が残る距離で、クラウス様が悪戯っぽく囁く。


「続き、ですか?」


「ああ。『魂の望む形へ新生し、愛の結晶を宿す器となる』……とな。もしかしたら、お前の体にはまだ、俺たちが知らない奇跡が眠っているのかもしれないな」


 意味を察して顔を赤らめる俺を、彼は愛おしそうに抱き寄せた。


 夜風が俺たちの頬を撫でる。

 その風には、新しい時代の予感が混じっていた。

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