第11話「雪解けの帰路と二人の誓い」
下山の道のりは、登りとは打って変わって穏やかなものだった。
魔獣シロが再び姿を現し、俺たちを麓まで送ってくれたのだ。クラウス様は最初警戒していたが、俺がシロにおにぎりをあげる様子を見て、「お前の料理は魔獣すら手懐けるのか」と呆れつつも笑っていた。
帰りの馬車の中、俺たちは並んで座り、互いの肩にもたれかかっていた。
窓の外を流れる雪景色が、春の芽吹きを感じさせる緑へと変わっていく。
俺の手は、クラウス様の大きな手に包まれていた。
「王都に戻ったら、忙しくなるぞ」
クラウス様が俺の髪を指で梳きながら言った。
「騎士団長が特定の相手、それもベータの料理人をパートナーに選んだとなれば、社交界が騒ぐだろう」
「……ご迷惑をおかけするかもしれません」
「迷惑なものか。むしろ見せつけてやりたい。俺が選んだ相手が、どれほど素晴らしい料理を作る魔法使いかを」
彼の言葉には、一点の曇りもない自信が宿っていた。それが俺に勇気をくれる。
俺も変わらなければならない。
自分を卑下するのはもうやめよう。彼が愛してくれたこの自分に、胸を張れるようになろう。
「俺も、覚悟を決めます。あなたの横に立っても恥ずかしくないよう、王城一の……いいえ、国一番の料理人になってみせます」
「ああ。楽しみにしている。……だが、夜食だけは俺専用にしてくれよ?」
クラウス様がいたずらっぽくウインクする。
その顔があまりにも無防備で、可愛らしくて、俺は思わず吹き出した。
氷の騎士団長様が、食いしん坊な子供のような顔をするなんて。これは俺だけが知る特権だ。
「もちろんです。一生、あなたのためだけに最高の夜食を作ります」
それは、どんな結婚の誓いよりも、俺たちらしい約束だった。
馬車がガタゴトと揺れるリズムに合わせて、二人の心臓の音が重なる。
フェロモンによる強制的な引力はない。けれど、そこには確かな引力があった。
互いを必要とし、互いを高め合う、穏やかで強い愛の引力が。
王都の城壁が見えてきた。
そこには、以前とは違う未来が待っているはずだ。
俺はクラウス様の手を強く握り返した。




