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第二章 衛兵隊第五部隊


 ――「少将、終わったよ」


 汀州が黃邸にいた一方で、宮廷はちょうど昼下がりの時間を迎え、前部の朝議を終えた西の王と天籟が玉の間から姿を現す。

 今日の王の予定は、午前中は朝議の参加、午後からは後宮に赴き、第二皇女 美友との茶会の約束があるというのに、すでに疲れた表情をしている。

 美友との茶会に至っては、表向きは『茶会』とされているものの、いよいよ東国来訪の目的の一つ、皇女達との縁談が本格的に始まるのである。


「昼餉は何かな〜」

「本日は良い鯛が手に入ったと耳にしております」

「東国で穫れる魚って、潮の流れがええから、身の引き締まりが他と違くて美味しいんよね」

「気に入って頂けたようで何よりです」


 そんな他愛ない話をしていた時だ。

 

「少将!!」


 平凡な昼下がりの時間が、一人の兵士の報告によって、打ち砕かれる。


「申し訳ございません、西国皇帝陛下」

「隨分急いで、何かあったん? 兵士さん」

「しゅ、襲撃です! 半 雲嵐(ウンラン)が!」

「『半 雲嵐』?」


 その名を聞き、疑問符を抱く東国の人間はいなかった。

 なぜなら、この半 雲嵐が率いる賊達は、宮中を定期的に襲撃する常習犯。

 何よりもたちが悪かったのが、先導する半 雲嵐自身が、かつて宮中に勤めていた元官僚で、宮廷内の内情を知り尽くしているということ。 

 香月だけじゃなく、報告に聞き耳を立てていた周囲の官僚達も、彼の名前が出てきた瞬間、目の色が変わった。


「現在、九垓上将率いる第二部隊が炎美門を封鎖し、足止めを行っている状況。しかし人手が足りず、突破されるのも時間の問題かと」

「『人手が足りない』って、他の奴等は?」

《私以外、全員不在です》

「!!」


 香月の交信器を通して、九垓の声を拾った。


「詳細は九垓上将からお聞き下さい。私は先に尊陛下へ報告に参ります故」

「おい九垓、どうなってんだ」

《汀州は近衛の要請で本日は不在。蒼波は先程発生した火災の救助要請で義南町に向かってもらっていました》

「雨露は?」

《それが昨日から音信不通で行方が分かりません。汀州にも戻ってくるように伝えましたが、どうやらあっちでも何かあったようでして》

「どうなってんだ」


 ――『暫くは衛兵隊の動きに注意を払っとけ』


 その時、以前銀蓉に言われた言葉が、何故かふと香月の脳裏を過った。


《とにかく今は手を貸して下さい》

「しょーがないなぁ。外壁の守りは?」


 盗賊共が正面玄関から突破する行儀の良い戦い方はしない。城壁を伝った侵入を防ぐために、いち早く壁上に兵士を設置する必要があった。

 

《第三部隊の待機組にも招集をかけ、すでに動くように手配済みです。ただ一つ、妙なことがあって……》

「『妙なこと』?」

《奴らに強行突破されるのも時間の問題なのですが、時間が経っているのが気がかりです。雲嵐であれば、()()()()()()()()()()()頃だと思うなのですが……》

(なるほど。だから九垓は、交信器であっしに伝えるよりも先に、尊陛下の元へ兵士を送ったのか)

 

 雲嵐が率いる賊には、桂人も属している。

 それ故、ただの人間による足止めなど、月華の前では、紙一枚を破る程度の時間稼ぎにしかならない。

 にも関わらず、すでに5分以上門をこじ開けられていないとなれば――


 (炎美門の襲撃は囮だな)

 

 雲嵐自身もそこにはいない。香月はそう推察した。そして、九垓もそれに気づいていることも。

 それ故に、兵士達が早とちりし、無駄に人員が炎美門に集結しないよう、直で香月に交信器で状況を伝えるのをやめた。様子を見る時間稼ぎのために、わざわざ人を使ったのだった。


「九垓、門開けちゃおう。兵も引き上げて」

《え、兵もですか? 門前に敵いるのに?》

「大丈夫、ちゃんと代役立てるから。すぐに工部に連絡するよ」

《ああ、なるほど。分かりました、その手で行きましょう》


 工部への連絡を示唆しただけで、香月の策を読んだ九垓は、すぐに通信を切った。

 工部には、工事等に使用する馬や牛専用の畜舎があった。管理する動物の中には闘牛並みに気性が荒い者もおり、安全性と臭いなどの問題から、宮からできるだけ離れた場所に設置された。その場所というのが、今現在、工部が設置されている、炎美門付近なのである。


(まさか賊共も、扉を開いた先に待っているのが畜生共とは思うまい)


 まだ見ぬ賊達の度肝を抜かれる顔を想像し、香月は思わずグヘヘと笑いを零す。そんな楽しい空想に耽る香月に、西の王が声を掛けた。

 

「出陣かい?」 

「陛下、緊急事態につき、何卒ご容赦下さい」

「それより嬉しい? 襲撃されて」


 香月の上がった口元を指さしながら、王は尋ねた。


「いや! これはその」

「香月はん」

「あ、え、ああ! 道德様!!」

 

 西の王に図星を言い当てられ、慌てて言い訳を考えていたところ、丁度、騒ぎに駆けつけた道德が到着した。

 思わぬ助け舟に、さり気なく声のトーンと声量が上がり、道德に咄嗟に駆け寄って誤魔化すことで難を逃れようとした。

 しかしその結果、香月の事情を知らない道德達は、何故かすごく上機嫌な彼女に、歓迎されているという誤認をしてしまうわけで……


「なんやえらいことになっとるって聞いたんやけど……なんか香月はん、すごい機嫌ええな。ええことでもあった?」 

「いえ、別に。それよりご要件は?」

「あ、ああ。今なんか、九垓はんしかおらんのやって? 一人やったらさぞ大変やろ。西国皇帝陛下の御身は、一旦近衛が預かるでな。香月はんもお手伝い行ってあげて」


 美味しい話を嗅ぎつけるときの、道德の行動力は凄まじい。

 西の王へのポイント稼ぎができる機会を逃すまいと、状況を尋ねるよりも先に、早々に西の王の身柄を率先して引き受ける。しかし、下心があろうがなかろうが、今の香月にとってはどうでもいいこと。


 ――久しぶりに大暴れできるんだ。この甘言に、存分に甘えてやろうじゃねーか!


 久方ぶりの本領発揮に胸を高鳴らせ、大手を振るって出陣しようとしたその矢先のこと。

 

「待ちなさい、少将」


 出鼻を挫いたのは、先程兵士から報告を聞き受けた尊陛下だった。


「月華を使いなさい」


 神妙な面持ちで、尊陛下はたった一言、そう命令した。

 桂人兵士のみで構成されている第五部隊の権限は、すべて尊陛下に委ねられている。しかし、敵が桂人であったとしても、必ずしも勅許が下るとは限らない。

 つまり、此度、尊陛下が月華の使用を認めたということは、「第五部隊を出動させよ」というお達し。

  

「尊陛下、此度は月華を使用せずとも弾圧可能かと」

「少将。儂は、『月華を使え』と申した」

「……御意に」


 香月が不要と判断しても尚、尊陛下は命令撤回をしない。このことから、狙いは西の王への()()()()であることを、香月はすぐに察した。

 すべては、東国が所有する月華を目の当たりにしたいという、西の王の宿願を汲み取ったが故のこと。

 勅命に対し、その場では従順に受け入れつつも、彼女の目は、不服さを訴えていた。


「総員に告ぐ。勅令により、これよりすべての指揮権限は第五部隊が取り仕切る。城内にいる人間は例外なくこれに従え!」


 月華使用時、安全確保の最優先を目的に、全ての指揮権限は第五部隊隊長である香月の独権に移る。権限移行の宣言を以て、これより後は、貴族だろうと皇帝だろうと、彼女の指揮に従わない人間の命の保証は担保されない。

 月華を以て月華を制し、月華を以て守りを固める。

 それが香月達第五部隊が、宮廷内で月華使用において課された絶対義務。

 

(入口は囮。より手薄になったところから攻め入るための布石)

 

 囮が即興でないならば、雲嵐は予てより衛兵隊が手薄になることを()()()()()


(わざわざ朝廷の時間を狙い、この状況で最も狙いやすい場所は――後宮)

 

 後宮の護衛は、近衛隊管轄の中で最も厳重な警備体制に置かれている。だが、人員は桂人を常時配置しているわけではない為、そこに月華を投下されれば、近衛隊が守りを固めた所で、戦力としてはなんの意味を成さない。

 だからこそ、数少ない桂人兵士を後宮から最も遠ざけるための揺動を起こし、中にいる姫達を人質にでもする魂胆だ。

 

「第五部隊は総員、後宮に向かえ!!」


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