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第二章 朝議


 ギィと軋んだ音を立てながら開く扉の向こうには、重々しい雰囲気が待っていた。

 ここは、内廷にある『玉の間』――朝議を行うために作られた大広間である。

 天井一面に飾られた紅灯籠の華やかな灯下、桧の綺羅びやかな円卓には、尊陛下と12人の東国の重鎮が座を連ねていた。

 その円卓を中央に囲うような形で、階段状に議席が設置されており、すでに官僚達が待ちかねている。

  

「では、本日の朝議を始めさせて頂きます。本日より、西国皇帝陛下 来儀様も御参加の上、今後締結される予定にあります、東西条約(仮)の詳細について議論の場を設けたいと思います」


 司会進行を務める尊陛下の補佐官 林峰(リンフェン)が前部の開廷を告げた。

 玉の間で行われる朝議は、毎日二度。

 『丞相』と呼ばれる二人の重鎮を筆頭に、各議題についての議論が為され、尊陛下が最終判断の決定を下す。

 今日来儀が出席するのはこの前部のみで、一回の朝議は、休憩を含め約三時間程。東国が西国の保護国になるに当たり制定される東西条約において、桂人の処遇を検討するのが今日の主たる議題だ。

 30年前、東国が彼らの亡命を受け入れた後の惨劇は、当然西国の国民も知るところ。条約を締結するに当たって西国の民が求む条件は、東国との結びを為すことで、西国も同じ末路を辿らないことへの絶対的保証。

 その保証の鍵となるのが、今現在、密かに我が国で進められている、月華の消失の研究である。

 東国との同盟に消極的だった西国内部を、来儀が納得させることができたのは、研究結果の実践を東国側に呑ませた上での締結を確約したから。

 つまり、条約成立をさせるには、月華の消失が絶対条件だった。


「月華消失は、間違いなく我が国の平和への大きな一手となる。しかし、永く我らを苦しめる患いだった一方、大きな軍事抑止力となり、我々を無用な争いから守ってきたのもまた事実」

「月華失き後、残存する今の兵力だけでは他国に侵攻されるか、内部から腐る他ない。いずれにせよ、この30年で桂人が我ら東国の一部となった以上、月華の消失は、必ずしも国益とは限りません」

「だが、内乱による国政の圧迫は深刻なもの。制御不能な兵力はやがて身を滅ぼすことに」 


 この30年間、月華が齎した影響が脅威だけでないことは百も承知。

 月華の研究は日々進歩しているが、未だその正体を突き止めきれていない。

 ただ現時点で、月華は、鉱石や太陽などに含まれる、とあるエネルギーと似た物質が源になっており、それに適合した者の子孫が、今の桂人なのではないかと言われている。

 単に月華の消失と言っても、人智を超えた彼らの力は、時に理には適わぬ救いとなることだってある。

 例えば、現在兵部により使用されている耳骨夾型の通信機がまさにそれだ。これまで保存が困難であった食料の長期温存や、植物の成長促進の成功などもすべて月華の汎用だ。

 一度利便性が高い物を手にしたら最後、危険が伴えど手放すのが口惜しいと思うのはごく自然の摂理だ。

 

「来儀殿の見解はいかがか」


 尊陛下が尋ねた。

 

「西の意向は、条約締結の上で月華の消失は絶対です。希少な戦力であろうが、抑止力であろうが、国政の立て直しに均衡を保てなくなる要因となり得るものは排除すべきと考えます。それが、制御できぬものであるならば尚更のこと」


 桂人は、味方となればどんな武器をも凌駕する最大の戦力となりえる。しかし同時に、来儀は「諸刃の剣」とも考えていた。

 失くすには惜しいが、惜しんでいられない程に使い方は極めて難しい。だからこそ、大きすぎるリスクを取るよりも、安全保証を取ることを西の意向とした。

 その意向に、東国の官僚達の眉間に深い溝が現れ、分かりやすく納得行かぬ表情に変わる。私利私欲のために国の脆弱さを利用しようとする連中にとっては、この上なく意に染まない話であろう。

 

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