第一章 狼煙は上がる
――ガタン!!
(まあ計画性のあるやつが、何の備えもなしに敵に敷居を跨がせるわけもないか)
二階から4人、裏口から2人、入り口から3人。ぞろぞろとガラの悪い野郎共が、獲物を見つけたハイエナのように集まってきた。
「実質、丹と俺達の繋がりの証拠はこの勘合のみ。だが、お前が見つけた時点でこの馬笛を持っていたのはあいつの手下だ。勘合は元々あいつの所持品。従者が勘合を持っていても、なんら問題はないってわけだ」
確かに、馬笛を実際に所持していたのは周 偉燕だ。客観的証拠として、明林と浩然、丹との繋がりを示すものはない。馬笛だけでは証拠として上げることは困難だ。馬笛だけならな!
「あっしが何のために、お前に馬笛を返したと思う?」
「あ?」
「何のために、お前に明林の馬笛であることを確認したと思う?」
そう浩然の下衣の衣嚢を指で差し示すと、彼はその意味をすぐに理解して衣嚢の中に手を入れた。
「耳骨夾! いつの間に」
入っていたのは、浩然に馬笛を渡す際に一緒に忍ばせた、香月の交信器。
「さっきの会話、ぜーんぶ筒抜け。今頃向こう側でウチの優秀な判事が裁判の準備をして、お前らが来るのを首を長くして待っているだろうなぁ」
「やってくれるじゃねーか」
「言質をくれて、ありがとう♡」
「ただ、分かってんだろ? 獲物を追い詰め過ぎると、どうなるかってな―――ブッ殺せ!!!」
頭領の一声を皮切りに、賊共が一斉に襲いかかる。
東国の賊が他国からも恐れをなしている一番の要因は、型に嵌まらない野性的な闘い方。
どんなに優れた剣技を持っても、どんなに剣の腕を極めても、生存への執着が強い野生の人間は、生きる為にどんな卑怯な手も使う。
野生の毒牙を制するには、戦闘経験を積むことでも、洗練された剣技でもない。
賊と同様に、生への強い執着によって培われた、圧倒的危機察知能力と、生来的な戦闘センスによる機転が、命の分かれ目を決める。
ガシャン!!!
一斉に飛び掛かった男共の重さに耐えきれず、机や椅子が壊れ、清掃が行き届いていないせいで砂埃が充満した。
咳き込む浮光のお陰で、西国皇帝の位置は概ね把握できた。賊共から距離が取れていることを確認できた時点で、香月は先手を取る。
「あ"あ"!!!」
一人目、首横を一突きで即死。
獲物を引き抜き、頸動脈を貫通したお陰で血飛沫が運良く、近くにいた男の顔にかかり、視界を奪う。蹌踉めいた隙に致命傷を負わせ、残るは8人。
砂埃が落ち着き始め、賊の姿が視認でき始めたところで、意表を突いて脳天目掛け、刀を投げる。これで残る7人。
「くっそ女ァァァァァァ!!!」
そこへ巨漢の男が力任せに刀を振りかぶる。男の攻撃を可憐に避け、先程の脳天男に刺さった刀を抜きざまに、再び巨漢男が刀を振り下ろしたところで腕ごと斬り落とす。
すると背後から二人が、首と腰元をそれぞれ狙って横に振り切ってきたため、そのまま屈むと、見事巨漢男を斬り刻んだ。そのまま二人の刀を上から押さえつけるように刀を振り下ろした。
右側にいた男の足を掬い、もう一人の男の襟と髪を掴んで顔面に膝蹴りを打ち込み、空かさず背負投でもう一人の男を下敷きにすると、重なった二人の腸に刀を躊躇なく串刺す。
「おわっ!」
油断もなく束の間。次の瞬間、突然身体が宙を舞った。背後から近づいてきた男に気付かず、羽交い締めにされて、香月は身動きが取れなくなる。
「ヤバっ!」
「捕らえた! お前らやっちまえ!!」
「は〜い♡」
ザシュッ!!
背後から血飛沫が吹き出し、賊の体が脱力してすぐに香月の拘束が解けた。男の体を視認すると、見事に首が裁断されている。
殺ったのは……
「香月サマ、大丈夫?」
「あ、りがとうございます。天籟様」
「いいえ〜♡」
血が滴る顔で微笑むその様は、実に妖艶。
だが、その妖艶さとは裏腹に、たった一撃で当然のように骨ごと首を刎ねてしまうほどの、的確な狙いと刀捌き。大国の王の側近を務める者の実力に、香月が関心していると……
「くぁ!! なんだ!!?」
「!」
近くで上がる突然の叫び声と共に、なぜか目元を押さえながら盗賊がよろめいて来たため、反射的に切り捨てた。
何が起きたのか分からず、ふと周りを見渡してみると、何故か不服そうに西の王がじっと見つめていたため、何かあったのかと尋ねた。
すると西の王は、さらにムスッとした顔をしながら「僕から目を離したらあかんやん」と、持っていた木屑を放り捨てた。その行動から察するに、どうやら香月がよそ見をしていた隙に襲われかけ、盗賊に散らばった木屑でも投げつけたよう。
護衛の甘さに若干腹を立たせてしまったのか、よく見ると天籟も、西の王の態度に冷や汗を流していた。
――「勝手に来たんだから、文句言ってんじゃねぇよ」
と、思わず吐き捨てたくなる言葉をグッと飲み込み、香月は西の王の怒りに気付かぬふりをして、盗賊共を懲らしめることで気を紛らわせた。




