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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サバイブ・イン・ザ・ガンプラ

作者: 斉藤寅蔵

 しいな ここみ様主催『朝起きたら……企画』参加のコメディーホラーアクション(含ミステリ)小説です。

 朝起きたら部屋の壁が見えた。

 見慣れた俺の部屋の壁だが、いつものベッドの上からとはまったく違う角度で見える。

 驚いてあたりを見回そうとするが、目玉は動いても首が動かねえ。


「まさか全身麻痺とか!?」


 焦って手を動かすとちゃんと動いてホッとする。

 目の前に手を持ってくると三本の巨大な爪が付いたメカメカしい手が見えた。


「なんじゃこりゃー!?」


 そう、俺は朝起きたら部屋に飾っていたプラモデル、ガンプラの一体になっていたのだった。


 ちなみに機種はズ○ックだ


 ◇◆◇


 俺、良村(よしむら)勇人(はやと)はいわゆる何でも屋で、霊能者の(じん)君の助手をしたりしている。

 昨夜も迅君と一緒に廃屋に乗り込み、悪徳霊能者のババアを気絶させて取っ捕まえた。

 アパートに帰り、その後風呂に入っている最中に突然猛烈に眠くなってバスタブで溺れそうになったので、慌ててバスタブから上がって服着たあとにすぐ寝てしまったのだが。


 起きたら魂がガンプラに入っていたというわけだ。

 昨夜のババアが原因で間違いねえ。

 気絶させる寸前何か唱えてたし。

 幸い充電器にセットされたスマホを同じ棚に置いていたのでそれで迅君に連絡をとって救助を求めることにする。

 早速スマホまで歩こうとしたところ、


 コツッ

「あたっ」


 基本的には人体に似たつくりなのだが、やはり自分の身体とバランスが違うせいか転んでしまう。


「よっこら……起き上がりにくいな!?この身体!」


 なんとか立ち上がって改めて関節の可動域などを確認しながら動いてみる。

 足指の関節がねえんで歩くのにも人間と違うコツが必要だが、いろいろ試すうちに結構なスピードで走れるようになったり、三本の爪で物を掴めるようになったり、踊れるようになったりした。


「っと、やべえ、調子に乗って遊び過ぎた。救助してもらわねえと」

 

 充電中のスマホの側に行き、側面のスイッチを押したあと、前面にまわって爪で画面をタッチする。

 タッチする。

 タッチする。

 タッチする。


「作動しねえええ!」


 そりゃそうだよ!今の俺プラスチック製だもん!先に気付けよ!


 となるとパソコンで連絡するしかねえ。 

 幸いパソコンを置いてる組立式ラックはこの棚のある壁につく位置に設置してある。

 ラックの上までこの棚を歩いて、パソコンを置いた天板に向かって20センチほど自由落下すればいい。

 身体はプラスチックだから20センチ落下したくらいじゃ壊れんだろう。


 ◇◆◇


 カシャン。

「おっと、と、と、と、と」

 

 訓練の甲斐あって、多少よろけたが、二本脚で組立式ラックの天板の上に落ちる。

 機体が軽いせいもあってか、高いところから落ちた割にダメージは少ねえ。

 俺はパソコンやカメラのスイッチを入れ、ペン立てからとったボールペンでキーボードのキーを押して迅君に

『Help』

 と送る。

 まもなく俺のスマホの呼び出し音が『ジリリリリン、ジリリリリン』と大音量で響いた。

 うん、迅君ごめん、俺今そっち使えねえんすよ。

 やがてパソコンのオンラインチャットが繋がる。


「あー、迅君?俺今こういう状態なんすけど」


 口はねえが喋ることはできた。

 モニター越しにガンプラを見た迅君はすぐに事態を察してくれる。


「老婆の術が完成する前に暴発させて霊力を霧散させたつもりだったのですが、中途半端に時間差で作用してしまったようですね。僕のミスです。申し訳ありません。恐らく元に戻せるとは思うのですが……ともかく今から伺いますので待っていてください」

「あ、じゃあお願いしまっす」


 俺は今回のような霊的トラブルが生じたときのために部屋の鍵のスペアを迅君に預けている。

 この変なトラブルも何とかなりそうだと一息付いたところで、部屋に変な音が響きだした。


「ヂュヴヴヴヴ、ヂュヴヴヴヴ……」


「そちらでなにか変な音が鳴ってませんか?」

「鳴ってますね?あっ!?スピノサウルス!」


 ガンプラが飾ってあった棚の上にはプラモだけてはなく金属製の恐竜模型も飾っている。

 そのうちのスピノサウルスの模型が大きな顎を開け閉めしながら唸っていたのだ。

 そのスピノサウルスと目が合った。


「ヂュヴヴヴヴ!」


 突如スピノサウルスが前脚を地に付ついて四つん這いでこちらに向かってダッシュしだした!


「え!?なんかやべえ!?」


 あ、いい忘れてたけど、このスピノサウルス、四足歩行説が通説になる前のモデルなので、前脚は小さく、後脚だけで立ったポーズで飾っていた。


 スピノサウルスはバタバタと不恰好に進むと、さっきの俺と同様、天板の上に自由落下する。

 その後、脚をバタバタ動かして体勢を立て直して俺と向き合った。

 顎を開閉してガチガチと音を鳴らす。

 (ガンプラ)の身長が11センチなのに対し、このスピノサウルスの全長が23センチ。

 口が大きいのでかなり怖い。

 リアルでワニと出会ったらこんな感じか?


「動物霊が憑いてるようですね……」


 迅君が呟いた。スピノサウルスがカメラにフレームインしたので事態を飲み込めたようだ。


「動物霊なんすか?これ」

「恐らくあの廃屋に住んでいたネズミかなんかがあの女の霊力の暴発に巻き込まれた際に体から魂が飛ばされてしまったのでしょう」

「ネズミ!?」


 まあ鳴き声がそれっぽいような気も?


「で、それが勇人さんに憑いてきて、更にそのスピノサウルスに憑いたのでしょう」

「そんなのあり!?」

「まあ想像ですが概ね当たってるかと」


 そんな会話をしながら少しずつ後方に下がっているのだが、スピノサウルスもジリジリと前に出てくる。

 明らかに獲物認定されていた。

 いや俺プラスチックだし、おまえ消化器官ねえし、食っても意味ねえだろ……という理屈は理解してもらえそうにねえ。


「逃げてください!今の状態でその依代(ガンプラ)を大破されたら肉体に戻れなくなります。あの顎で一咬みされたらあの世行きです!」

「マジ!?」

「すぐにそちらに向かいますので僕が着くまで逃げ切ってください」

 

 そう言って迅君は通信を切った。


 と、それが合図になったかのようにスピノサウルス俺に突進してきた。

 

「ヂュヴヴヴヴ!」


 とっさに身を(ひるがえ)して攻撃を(かわ)すとスピノサウルスはそのまま直進して壁に激突した。

 ラックは部屋の隅に寄せてあるので、二面は壁に面しているのだ。

 と、またバタバタと身体を動かしてこちらに向き直り再度俺に襲いかかってくる。

 再度身を躱す。

 今度は躱すだけではなく、くるりと反転し、突進が止まらないスピノサウルスの背を追うように走る。

 今度スピノサウルスが突進した方向には壁はねえ。

 天板の(ふち)から落下しないようスピノサウルスが踏みとどまろうとした時点で背後から追い付いた俺は、浮いてる片足を両腕で抱える。

 そのまま間髪を置かずに肩(どこまでが肩でどこからが頭か自分でも分からんが)で相手の腰を押して浴びせ倒すように天板の上から押し出した!


「ヂュヴヴヴヴ!?」

 カシャーン!

 スピノサウルスが落下して床に落ちた音が響く。


「なんとか成功したな」


 押し出した勢いで前のめりに倒れた身体を起こす。

 成功した要因の第一には相手がスピノサウルスの身体に慣れてなかったことだろう。

 ネズミの瞬発力そのままだったら躱すなんてできなかったはずだ。

 要因の第二は相手との重量差が思ったほど大きくなかったことか。

 そりゃ(ガンプラ)よりは重いが、穴や隙間だらけの薄い金属板で構成された身体は大きさの割に重くなかったのだ。


 これで後は迅君が来るまで待てばいい。

 

 ん?なんか下からガシャガシャ金属音がするな?

 天板の(ふち)から下を眺めた俺は自分の見通しが甘かったことを知る。

 俺が居るのは()()()()()()の天板の上。

 組立式なのだから、高さを自在に変えられるようラックの柱はボルトを止めるための穴だらけ。

 スピノサウルスはその穴に四肢の爪を引っ掛けて柱を登ってきたのだ。

 あれなら本来の身体能力を発揮できなくても楽に登ってこれる。


「クソッ、なんとかしねえと」


 あわててマウスや筆立てを下に落として邪魔するがあまり効果はねえ。

 原作みてえにメガ○○砲で攻撃したり、背中のボンベ状スラスターで空飛んで逃げたりできねえかと思ったがそういう機能は無えらしい。

 ま、俺の魂が憑いてる以外中身スカスカなわけだしな。

 

 何か手はねえかと見回すとバスルームのドアが少し開いてることに気付く。

 昨夜あまりに眠くてきちんと閉めなかったようだ。


「……よし」


 ◇◆◇


「ヂュヴヴヴヴ!」


 柱を登って天板上に顔を出したスピノサウルスが俺を見つけて雄叫びを上げた。

 が、当然俺は奴が登ってくる柱から離れた縁に避難している。

 奴が上半身を天板に乗せた瞬間に俺は床へと飛び下りた。


 カシャン!カタッ。

「おおっと、よしっ」


 一瞬バランスを崩して爪を床に着いてしまったがすぐ体勢を立て直してバスルームに向かって走り出す。

 背後でスピノサウルス落ちる音もしたが、着地が上手くいかなかったようで走り出す音がするまで3~4秒の間があった。

 俺はバスルームに駆け込むと、バスタブ横のシャワーのホースを三本爪で掴み、脚で挟んでロープクライミングの要領で登り始める。

 数秒後、スピノサウルスがバスルームに飛び込んでくる。


 ガキイイイン!

 ジャッ!

(あぶ)ねえっ!」


 頭上の俺に向かってその大顎を閉じるも、既に結構な高さまで登っていた俺の足裏を掠めるだけで済んだ。

 よし、あの小さな前脚じゃ俺みたいにホース掴んで登ってこれねえかも。

 と、期待したが前脚と後脚でそれぞれロープを挟んで猛スピードでシャクトリムシみたいに登ってきやがった!身体操作に慣れてきてやがる!


 ガキイイイン!

「うおうっ!?とうっ!」

 カシャーン!


 俺は下からの攻撃を躱してホースからバスタブの(ふち)に降り立った。

 やべえ、完全に攻撃圏内に入られていた

 体勢を立て直して奥へ走り出す。

 と、すぐにスピノサウルスがバスタブの縁まで上がり俺に向かってダッシュする音が背後で響く。

 俺が振り返りながらバスタブの中へと飛び込むと当然奴も飛び込んできた!


「ヂュヴヴヴヴ!」

 パシャン

 バッシャーン!


「悪いな。逃げきったぜ」


 中身スカスカでプラスチック製の俺は、バスタブいっぱいの水の上に浮きながら、水底(みなぞこ)に沈んで行く金属製のスピノサウルスに勝利宣言したのだった。


 昨夜は急激な眠気でバスタブの湯を抜く余裕も無かったのが逆に幸いした。

 できればスピノサウルスがホースから縁に上がってくる前にバスタブの中心部まで泳いで安全を確保したかったがそこまでの余裕がなかった。

 奴が俺の飛び込みに釣られてくれてたすかった。

 ネズミだったときは普通に泳げただろうし、まさか自分の身体が水に沈むものになってるとは思わなかったんだろうな。


 やがて玄関から迅君の声がした。


「勇人さん、無事ですか!今どこに!?」

「あー、無事っす。浴室っすよー」


 ◇◆◇


 その後、俺は迅君に元の身体へ魂を戻してもらった。

 ネズミの方はどうなったかというと


「奇跡的に肉体が無傷で残っていたので魂戻しておきました。あの環境だったら✕✕✕のエサになってもおかしくなかったんですがね」


 とのことだ。

 浴室から回収した模型2体は乾かしてまた飾っている。


「自分を追いかけてきたスピノサウルス飾って怖くないんですか?」


 と聞かれたが、ま、模型に罪は無えってことで。

 それよりもう一回くらいガンプラに入って遊びてえな。スピノサウルスに追われるまでは結構楽しかったし。


「いやそのまま元の身体に戻れない可能性もあったんですからね?おかしなこと考えないでくださいよ?」


 残念ながら俺のささやかな希望は叶いそうにねえ。

 作中のガンプラは実際水に浮きます。(実験済)

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― 新着の感想 ―
 漫画プラモ狂○郎を思いだしました。(笑)
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